第532話
このドラゴンを倒すべきだ。
そう聖王アロイジウスの頭の中は警鐘を鳴らす。
このドラゴンはモンスターだと言うのに、人族の言葉を話した。
モンスターが実は言語を持っているのはわかっていた。
モンスターはおそらく種族間では会話をしていると思われる。
上位種が下位種のモンスターを率いていたり、稀に番のようなモンスターも発見されている。
しかし神聖国の教義上、モンスターは言語を理解するほどの知性はないとした方が都合が良かったのだ。
それは神聖国が建国した時から、定められている事だった。
それは全ての国に浸透して、女神の加護のもと、モンスターは倒す物だとなった。
更に人族の言葉を理解するほと知性が高いモンスターがいなかったのも幸いした。
人は共通の敵を作った方が纏まりやすくある。
それにモンスターは捕食者だ。
知性があるなし関係なくお互い共存できる相手ではなかった。
しかし目の前にいるドラゴンは人族の言語理解して、それを流暢に放っている。
それはモンスターとの会話を行い、相手を理解する可能性を示唆している。
それは教義を、神聖国がモンスターを敵として定め、人を女神の加護で護ってやっているという大義名分を揺るがすものだ。
本来であれば神聖国の全勢力を持って倒すべき相手であろう。
そうわかっているのだが、このドラゴンの存在感、騎士をまるで蝿でも叩くように潰したその力、それに異様なまでに高い知性‥
そして心を擦り潰されそうな程の咆哮を前に思わず腰が引けてしまう。
今は敵対せず、ドラゴンの要求してきた事をのんで、寝首を掻くために全力を尽くすのだ。
そのために今すべきことは‥
「騎士団長よ。」
小声で騎士団長を呼ぶ。
「セイルズから魔道具を持ってきた者をここへ呼べ。」
そう告げると、騎士団長は多少驚きはしたものの、すぐに近くの兵に指示を出す。
しばらく待つと、指示を出された兵が1人の男を連れて戻ってくる。
「せ、聖王様、何事でしょうか‥?ヒィッ!」
男は間近で見るドラゴンに悲鳴を上げる。
アロイジウスはドラゴンに向かって声を上げる。
「ド、ドラゴンよ!そなたの棲家より宝物を盗み出した盗人はこの男だ。宝物とこの男を引き渡す。知らなかったとはいえ申し訳ない。今回はそれで許してもらえないだろうか?」
「なっ!!聖王様!それはあまりにも!私は聖王様の命令で命懸けで取ってきたというのに!」
「そのような使命を出した覚えはない!お主が勝手に行って盗んだだけであろうが!」
「わ、悪いのは私ではありません。あ、あの傭兵団が何も言わなかったのが悪いのです!」
確かにそうだ。
おそらく傭兵団はこのドラゴンと何らかの約束事を、交わしているのだろう。
勝手に持ち出せば、ドラゴンが怒り狂う事も知ってて魔道具を持ち帰らせた筈だ。
傭兵団に対して怒りが込み上げるが、今はそれどころではない。
「うるさい!神聖国のためだ!喜ぶべきであろうがっ!」
「そ、そんな‥」
男の顔が真っ青になる。
この男1人の犠牲で、怒りが収まれば良いのだが‥
凄いな、この聖王と呼ばれる男は‥
本当に自分を守る事しか考えていない。
一国の代表は国を守るべきではないのか?
こんな男が聖王になれる時点で、この国は国として終わっていたのだろう。
「ふん。その程度で我の怒りが収まると思うか?」
「申し訳なかった。それで気が済まないと言うのであれば、人を差し出そう。若い男でも女でも言うだけ差し出そう。それで許してもらえないだろうか?」
清々しい程性根が腐ってやがるな。
保身の塊だ。
やはりこいつはここで終わらせておくべきだ。
「ところで、さっきからお主がこの国の代表のように話すな。もしかしてお主が本当の王なのか?我を偽っていたのか‥?」
さて、お前を終わらせようか。
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