第521話
勇者たちをこの国に縛り付けていたのは、元の世界に帰れると呪縛だけだ。
それがなければ、この国を出る事は難しくないだろう。
「正人もそれでいいのか?」
「ああ。俺はこの2人の意見を尊重するって決めてたからね〜。帰りたいって気持ちがない事はないけど、そこまでって感じ?自分の命天秤にかけてまで、その可能性に期待するのは無理っしょ。でも2人が残るなら最後まで護ってやらないとって感じじゃん。」
お、おう。
お前も少しは考えてたんだな。
相手を尊重するとか、意外と難しい事も知ってた事にびっくりだ。
「わかった。それじゃあ直ぐにでも国を出るか?」
「そうしたいのは山々なんですが‥卓君が‥」
卓ね‥
確か洗脳されていた賢者の名前だったな。
このまま3人でってのは割り切れないよな。
「そうだったな。それで?賢者は今どうなっている?」
「あやめがセイルズに向かった時、私は療養のためにここに残っていました。治癒魔法はかけたのですが、体力が戻ってませんでしたから。でもその間に一度も卓君に会いませんでした。神殿にいる仲のいいメイドさんにも聞いたんですが、ここ最近見かけてないとの事でした。」
なるほど‥
洗脳が解けかかってはいるんだろうが、更に重ねてかけられているのか、それとも心が死にかけているのか‥
放って置くわけにはいかないな。
「わかった。賢者の事は俺に任せておけ。だいたいの位置はわかるからな。そっちの状況を確認してから逃げる事にする。お前たちはいつでも出れるように準備をしといてくれ。」
「わかったわ。」
俺は確認のために外に出るために窓に向かう。
「マルコイさん。」
正人が声をかけてきた。
「マルコイさん。卓は‥あいつは悪い奴じゃないんだ。ちょっと唆されていいように使われて、終いには洗脳なんてことまでされちまった。だから頼む。あいつを助けてやってくれ‥」
「俺は勇者たちを助けると言ったはずだ。それはもちろん賢者の事も含まれている。任せとけ。」
正人は安堵の表情を浮かべる。
「それと正人お前、普通に喋れるのな。そっちの方が男前だぞ。」
すると正人がいつものヘラっとした顔になる。
「それは俺のキャラじゃないじゃん。」
そうだな。
そっちの方がお前らしいよ。
俺は窓に歩み寄るとそのまま外に出た。
さて、賢者はどこにいるかな。
屋根を伝い、俺が渡した腕輪の反応があるところに向かう。
しかしその途中で人の気配がしたので聞き耳を立てると、勇者たちの話をしていた。
「それで、勇者たちが持ち帰った魔道具はどのようなものであった?」
「はっ!勇者たちが言っておりました、光属性を持つ者のみ使える魔道具については、それ以外の者が使うと以前持ち帰った魔道具のようにその‥」
「そのなんだ?」
「あ、頭が焦げて丸くなっております‥」
「ははは!そのアーティファクトを作った先人は余程悪趣味だったようだな!」
なんだと!?
誰かしらんが、悪趣味とは失礼なやつだな!
「しかしその勇者専用の魔道具はもちろんの事、それ以外の魔道具もかなり強力な物ばかりでした。」
「ほう。」
「勇者専用の魔道具については身体能力の大幅な上昇と魔力量の増加、それ以外の魔道具も高い防御力を誇る鎧や筋力を上昇させるグリーブなど、今まで各国から集めていた魔道具とは比べ物にならない程の品物でした。」
なんですとっ!?
今回用意したのはかなり劣化版の魔道具ばかりだったんですけど?
これが高水準の魔道具だったとは‥
今度作る時は、もう一段階ランクを落として作らねば‥
「そうか。今回の献上品は良き物だったわけだな。各々騎士団の隊長に配布するがいい。」
「はっ!それと今回の遠征で騎士を率いていた者が殉教しております。」
「そうか。ならば次の者を隊長とせよ。」
「はっ!」
イルケルが言っていた通りになりそうだな。
まあ一時の隊長昇格おめでとう。
それじゃあ賢者のところに‥
「ところで賢者の事だが‥」
おいおいタイミングいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます