第520話

夜になると、この街の住人は早々に家路についている。


辺りが暗くなると、殆ど人を見かけなくなった。


家の中では蝋燭だろう、薄暗い灯りがついている程度のようだ。


その代わりに見回りだろうか?

鎧を着た騎士をちらほら見かけるようになった。


俺は正人たちに渡した魔道具の位置を確認する。


全ての魔道具の反応が大神殿から感じられる。


今回渡した魔道具も、以前洗脳を防ぐ目的で渡していた魔道具も同じところにあるようだ。


一つだけ離れた場所にあるが、それは賢者の物だろうか‥?



とりあえず大神殿に向かう。


今回は隠密目的で動く。

自分の身体ではないが、神聖国の騎士程度には見つからないだろう。


規格外の騎士がいなければ、の話だけどな。


大神殿の入り口には騎士が立っている。

まあそこから入るつもりはないのでいいのだが、頭が時々こっくりと落ちている。


おいおい、そんなんでいいのか?

まあ好き好んで大神殿に侵入しようとするやつなんていなさそうだからいいのかもしれないけど。



エンチャント:風を使い、塀を飛び越える。


屋根に登り、屋根伝いに正人たちがいる部屋を目指す。


ここかな?

窓を少し押してみると窓が開いた。

中を覗いて見るとあやめと目が合った。


俺はそのまま身体を滑らせて、窓から部屋の中にはいる。


部屋の中には、少し前に別れた正人とあやめ。

そしてベッドで上半身を起こした状態でこちらを見ている恵がいた。


「よう!久しぶりだな!」


「マルコイさん‥お久しぶりです。」


怪我のせいか、少し痩せた感じがするな。


「恵よくあれがマルコイだってわかったわね。」


お前あれって‥


「うん。マルコイさんの匂いって言ったらいいのかな?それが一緒だったから。」


え?

俺臭い?


俺は思わず自分の臭いを嗅いでみる。


木の匂いがする。

ほっこりするなぁ‥

いや、違う違う。


おかしいな、特におかしな臭いはしないと思うんだけど‥


「ふふふ。ごめんなさいマルコイさん。匂いって言い方おかしかったですね。そうですね、雰囲気というか、纏ってる空気というか‥とにかく他の人とは違う感じがするんです。」


そ、そうか?

それならいいんだが、思わず木の身体なのに行水しようかと思ってしまったぞ。


「恵ったら変なの!よくあれがマルコイってわかるわね。マルコイが来るって伝えてはいたんだけど、その姿で来るなんて教えてなかったのに。びっくりするかと思ってたらつまらないの。」


お前はちゃんと教えんかい。


「まあいい。俺だとわかってるなら話は早い。あやめから話を聞いているとは思うが、念のために確認させてもらおう。」


俺は恵とあやめにそう告げる。

俺より先に会ったあやめに聞いていたとは思うが、それでも時間的には数時間程度だ。


その間に自分たちの人生の分岐点を決める決断をさせようとしている。


ないとは思うけど、実は遺跡に来た隊長が言っていた事が何かの間違いかもしれない。

神聖国にいて魔王を倒せば、戻れるかもしれない。

そんな可能性を消してしまうのだ。


もし恵が神聖国に残るというのなら、それは仕方のない事だ。

俺に出来るのはここまでになるだろう。

でも‥

もし神聖国からかけられている、元の世界に戻れるかもしれないという呪縛を断ち切るのであれば、俺が全力でサポートしてやる。


「お前たち勇者に聞こう。お前たちはこのまま神聖国に残るのか、それともこの国を出て他の国の庇護下に入るのか。」


「マルコイさん‥」


恵は俺をまっすぐと見つめる。


「ありがとうございますマルコイさん。私達のためにここまで来ていただいて。本当は私達からマルコイさんを訪ねなければいけなかったんですけどね。私とあやめちゃんは‥この国を出ます。元の世界に戻れるかもしれない。その言葉のために、沢山の国や人に迷惑をかけました。もし私達しか魔王を倒せないのなら全力で戦います。でもそれ以外の事で、私達のせいで国同士が戦争になり、人が死ぬのは耐えれません。だから‥マルコイさん。お願いします。助けてくれませんか?」


「承った。後は‥任せておけ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る