第506話

『光を纏し者のみ中に入る事。それ以外の者が入ればその身を滅ぼされん』


その文が書いてある下にもう1つの文がある。


『勇者たちよ。お前たちでなかにはいれ。ほかはいれたらだめ』


そう日本語で書いてある。


そう日本語でだ。


これを読めるのは、異世界の日本から来た勇者たちだけになる。

他の神聖国の騎士を中に入れて欲しくなかったからな。

この世界の文字だけで書いても、騎士は中に何としても入ろうとするだろう。


中にお宝があるのなら、余計に。


まあお宝も俺にとってはあまり必要ないような魔道具を用意してある。

筋力を少し上げるとか、微妙な魔道具ばかりだけど。


それは後で持って帰ってもらうとして、先に勇者たちと話す機会を得ないといけないからな。


そうなると正人たちがわかるように日本語で書いておくのが1番だろう。

俺も異世界の知識があるから、これくらいの日本語は書くことができる。


「なーーっ!おいあやめ!これって日‥むがっ!」


あやめが正人の口元を抑える。


「しーっ!余計な事を言わない!あんたは少し黙ってて!」


そのままコクコクと頷く正人。


「すみません。この扉ですけど、勇者だけが入る事ができるみたいです。だからあたし達2人で中に入ってみます。」


「そ、そんな事はできません!中にどんな危険があるかわからないのに!」


「いえ、恐らくここが終着点だと思います。あの『光を纏し者のみ中に入る事。それ以外の者が入ればその身を滅ぼされん』これは勇者以外が入れば何らかの攻撃を受けるんだろうと思います。その下に書いてあるのは読めませんが、あの文が本当だとしたら一緒に中に入る方が危険かと。中に危険がなければ呼びますし、それが不可能なら中から魔道具をお待ちします。」


しばらく騎士達は考えていたようだが、あやめの案が1番いいと思ったのだろう。


「わかりました。少しでも危険があればすぐに戻られてください。」


正人とあやめは頷き、扉に手をかける。


2人が中に入ると扉は騎士たちの目の前で静かに閉まるのだった。










中に入るとそこはまるで部屋のようだった。


真ん中にテーブルが置かれ、そこには椅子が4脚置いてあった。


「座ったらいいのかしら?」


あやめは正人と共に椅子に腰掛ける。


ずっと気を張っていたせいか、一気に疲れが押し寄せてきた。


「はぁ‥」


騎士の隊長が言った事が頭の中を駆け巡っている。


あたし達は魔王を倒せば用済み、それが終われば殺される‥か。


元の国に戻すつもりはないのかもしれないとは思っていた。

けどまさか命まで取られる予定だったとは思わなかった。


異世界に来てから少し浮かれていたところもある。


まるで現実から夢の国に来たようだった。


でも実際はそうじゃなかった。


恵は最初から元の世界に戻りたいと言っていた。

でもあたしは元の世界にいる時から異世界に憧れていて、恵には言えなかったけど、異世界に来れた時はこの異世界であたしは生きていくんだなんて思っていた。

そんな甘いわけないのに‥


今では元の世界に戻りたいと強く願っている。

それが叶わないとわかっていても。


いや、わかっているからこそ、帰りたいのかもしれない‥


ダメだダメだ。

せっかく前向きな正人のおかげであたしも少し前向きになれたって言うにの、こんな事考えてたらダメだ。


今はこれからの事を考えないと。


恐らくここはあたし達よりも前にこの世界に転移もしくは転生してきた日本人が作った遺跡だ。


そう考えれば鏡の部屋や先程の文も説明がつく。


ここで何があるかわからないけど、もしあたし達異世界人が使える魔道具を貰えるのなら、それを使って何としてもマルコイに会わなければ。


マルコイはあたしや恵を匿ってくれると言ってくれた。


この世界で生きていくのであれば、何としてもマルコイに会わないと。


恵‥

待っててね。


「よお!元気そうだな!」


その時、あまりにも能天気な声があやめに聞こえてきた‥

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