第490話

「それともう1つ。此度の戦いで使用した魔道具を神聖国に献上せよ。」


やっぱりバカだ。

献上ってようは寄越せって事でしょ?


なんでそんな事が言えるのよ?


「ははは。魔道具を献上しろと?面白い冗談だな。」


「冗談のはずなかろう。我が神聖国は勇者を擁し、魔王と戦う準備をしているのだ。この世界を守るために貴様らの魔道具を使ってやろうと言うわけだ。ありがたく思うがいい。」


「傭兵団が自分達の飯のタネを渡すわけないだろ?それに今回あんたらの国に助力した時にほとんどの魔道具を使っちまった。その分膨大な報酬は貰ったがな。だからうちには渡すような魔道具はないぞ。」


そうなんだ。

でもあの戦いで助けられたのは本当だ。

もし帝国が撤退しなかったら、私達も危なかったかもしれなかった。


「ふん。それこそ戯言よ。貴様らの事は調査してわかっている。貴様らの魔道具は、貴様らが保有している遺跡から発見した物だろう。それにその遺跡には光の属性を持つ、勇者しか扱えないような魔道具があるはずだ。」


「ほほう。よく知ってるじゃないか?もしかして遺跡に盗みにでも入ったか?わかったよ。そこまで知ってるんなら隠しようがないな。こっちから渡せる魔道具はないが、あんたらが遺跡に入って持っていける分持っていったらいいさ。」


すると隣の筋肉マシマシおじさんが声を上げる。


「おいクワイス!いいのか?こんなやつらに遺跡に入らせて?こいつら根こそぎ持っていきやがるぜ!」


確かに。

明らかにこちらの方が悪者です。

それにイケメン度でも負けてます。


「諦めろメンセン。神聖国さんは余程うちの魔道具が欲しいと見える。なあそこの黒髪の2人!あんた達勇者なんだろ?」


突然イケおじがこっちに話しかけてきた。


「え?俺っすか?そっすね、俺は勇者やらしてもらってる正人って言うっす。」


「あんたね、またそうやってホイホイ答えて‥はぁ‥そうです。あたし達は勇者パーティで、こいつが五十棲正人で、あたしは鬼頭あやめって言います。宜しくお願いします。」


「あやめ様!このような輩に頭を下げる必要はありません!貴方様達は神聖なる勇者ですぞ!このような下賎な者共とは本来なら会話する必要すらありません!」


もう最悪。

イケおじさんのこめかみがピクピクしてるし‥


「わかったろメンセン。勇者をこの場に連れてくるって事は、それだけ神聖国さんも本気みたいだ。ここで変に突っぱねて神聖国さんに睨まれるのも困るしな。本当に魔王を討伐してくれるのならこっちとしてもありがたい。」


ハゲマッチョおじさんはまだ納得してないみたいだけど、それ以上何も言わなかった。


「わかった。ここには魔道具はないが、遺跡にある魔道具なら持っていけばいい。俺たちも魔道具を得るために遺跡に入ろうと思っていたが、あんた達が入った後に入るとするよ。」


「ふん!ならば貴様らが中に入る時は魔道具は何一つ残っていないかもな。明日の朝からすぐに中に入る。俺たちはセイルズの宿に泊まるから、明日の朝に案内人を寄越せ。」


「はいはい。要件は以上か?ここにいるとあんた達もそうだが、俺達も気分が悪い。明日の朝にはちゃんと道案内を寄越すから帰ってもらっていいか。」


「ふん!言われなくてもわかっておるわ。これ以上ここに留まり不浄が身体につくのは耐えられん。行くぞ!」


騎士団の代表の人が踵を返す。


あたしは騎士団の人達に見えないようにイケおじさんに頭を下げて部屋を出た。








「メンセン‥お前演劇にでも出たらいいんじゃないか?」


「そう言うクワイスこそ。何が遺跡に入ってとってこいだよ。しかしこうまで物事が思い通りに進むとは思わなかったぜ。」


「まあ神聖国の奴らは頭の中身が単純だからな。こちらも予想しやすいって事だ。」


クワイスの顔に笑みが浮かぶ。


「まあ後はマルコイさんの仕事になるが‥神聖国とはいえ、少し可哀想な気もするな。」


クワイスは最後に頭を下げて出ていった、勇者の娘に少し同情していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る