第486話
ひりつく喉の痛みで、男は目を覚ました。
身体が痛い。
神聖国のために調査に出ている事が多く外で寝る事は多々あるが、今日は特に痛い。
顔が砂に塗れている。
顔についた砂を払おうとして右腕が動かない事に気づく。
顔を無理矢理動かして腕を見ると、あるべきはずの腕がなくなっていた。
気を失う前の記憶が蘇ってくる。
恐怖が、痛みが男の眼に涙を溢れさせる。
やめておけばよかったんだ。
上からの命令とはいえ、魔道具を取って帰り、たんまりと礼金をもらうつもりだった自分の愚かさを反省する。
他に誰かいないか周りを見渡す。
男が遺跡に入った時は深夜だったが、もう日が明けようとしている。
周りには誰もいない。
生き残ったのは自分だけなのか‥?
「う、うぎぃ‥」
男はその場で涙を流した。
他のメンバーが死んだ事はどうでもいい。
自分だけ生き残ったのは運が良かった。
しかし腕がなくなっては満足に生活していけるのだろうか‥
男の眼にはまた涙が溢れ出てくる。
その時に男の目に、近くに落ちているポーションの空瓶と体力ポーション、それと魔道具らしい靴が落ちているのが目に入る。
記憶にはないが、空いているポーションを使って止血し、片手で持てる物を持って脱出したのだろう。
まだどうにかなるかもしれない。
体力ポーションで体力を回復させて、魔道具を神聖国に持ち帰るのだ。
そうすれば腕の欠損を回復する事ができるポーションをもらえるかもしれない。
そうだ。
それに金も貰わないと割りが合わない!
男は落ちている体力ポーションをがぶ飲みして、その場から動き出す。
片腕がない事でふらつき、時には転びながら荒野から抜け出そうと歩き進めた。
おし!
ようやく動き出したか。
その場で泣き出した時には優しい言葉の1つでもかけてやろうかと思ったよ。
かけないけど。
これであの人が神聖国に泣きつけば、無闇に侵入者を送り込もうとせずに、権力を使って魔道具を出せって言いに来てくれるだろ。
後は勇者が来てくれるかどうかだよなぁ‥
一応彼が持って行った魔道具には細工をしておいたけど、気づいてくれるかな?
それとなく魔道具に文字も入れたし、見る人が見ればわかるだろ。
それじゃあダンジョンの中の凶悪な罠は解除して、勇者たちをお出迎えする楽しい遊具にしておかなければ。
とりあえず3階層辺りに勇者だけがわかるような罠を設置して、他の人たちと分断して‥
むふふ‥
やはり物を作るったり考えたりする事は楽しいなぁ。
魔王や『あのお方』も難しい事考えないで、自分の好きな事すれば争いも起こらないと思うんだけどなぁ。
さて急いで仕事をするとするか。
神聖国は帝国がまたいつ攻めてくるか、気が気じゃないはずだから、すぐにでも次を送り込んでくるはず。
次が勇者である事を期待しておこう。
俺は一旦経過報告のためにセイルズに戻ることにした。
セイルズに戻り、『アウローラ』の拠点に行く。
キリーエのおかげで、魔道具どうしでした?反省会!の準備が着々と進んでいた。
まあ準備といっても食材の準備や、料理してくれる人の交渉とかそんな物だけど。
「あ!マルコイさん帰ってきたんやね。」
「ああ。多分次の動きまでは数日あると思うから、その間に反省会やっておこうか?」
「反省会?あ〜、モンスター氾濫を討伐した慰労会の事ね。後はマルコイさん待ちやったから、いつでもええよ。」
「そうなのか?それはすまなかったな。それじゃあ早速今日にでもするとしようか?」
「わかった。それじゃあ、うちは料理人に声かけてくるわ。フーラさんの店とか特に忙しくしてるから早めに声かけておかないと。」
うっ。
フーラさんか‥
すっかり忘れていたが、人生の山場がもう1つ残っていたな。
「フ、フーラさんは忙しいなら無理しなくてもいいんじゃないかな?」
「何言ってるん?フーラさんは声がかかったら店を閉めてすぐに来る言うてたよ。」
やっぱり来るよね‥
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