第473話
どうやら成功したようだ。
より強力な洗脳を解くためとはいえ、魔族の頭にエンチャント:光華を流すのは危険な賭けだった。
しかし何とか俺の事を認識できるようになったようだな。
「よかった!リル、わたしがわかる?」
「ア、アキーエじゃないか?どうしてこんな所に?いや、そもそもここはどこだ?」
記憶の混濁か。
「ちょっと待って。何となく覚えている‥国に戻った後に、自分の家に隠れ住んでいたんだけど近所の人に私が戻ってきてるって密告されたんだ。それで‥突然大勢に囲まれて‥突破寸前で捕まって‥!アイツのせいで!アイツは絶対に許さない!」
安全と思われた所にも『あのお方』の手が回ってたって事か‥
「それでまた城に連れて行かれて、同じように頭をイジられた。誰に洗脳を解かれたか聞かれたけど、答えなかったら頭の中身に直接聞くからいいって。それからはよく覚えていない‥私だけど、私じゃない誰かが身体を動かしているようで。断片的にしか覚えていない。帝国に連れてこられた事。勇者達と戦わせられた事‥」
なんだと?
勇者と戦っていたのか?
しかしリルは魔族だぞ。
スキル【勇者】の魔族特効があれば、いくらリルでも勝てないだろう。
そうじゃないと勇者が魔王に勝てる可能性がなくなってしまう。
「ちょっと待て。勇者を倒したのはリルなのか?」
「いや、それは私じゃない。私は勇者達を抑えるだけだった。あとはエルフの男が精霊魔法で勇者を倒したと思う。ただはっきりと覚えてるわけじゃないから、正確かどうかはわからないよ。」
エルフの男‥?
なんか嫌な予感が‥
「それで神聖国を攻める時に見た事ある人形が野営地を襲っていたから、野営地を飛び出したんだ。何故見覚えがあるのか、その時はわからなかったけど、あれはマルコイの人形だったんだな。」
はい。
その通りです。
あまりの恐怖に洗脳されてまで覚えているとは‥
木偶人形おそるべし。
「それでマルコイに捕まってここに連れてこられたって事か。ありがとうねマルコイ。また助けてもった。」
「いや別に、知らない人なら助けようとは思わないけど、リルの場合は何故戦わせられてるか知ってるからな。」
俺はそう言ってリルに近づく。
するとリルの顔から汗がばっと噴き出す。
「フシャー!」
威嚇付き。
「マ、マルコイ。感謝はしているが、近づくな。お前が近づく事を身体が拒否している!」
おお!
身体がおぼえてるのか!
新たな発見。
「わかった。離れたところにいるとするよ。ところで他に覚えてる事や思い出した事はあるのか?」
「そうだね‥所々思い出してるけど、まだ纏まらない感じだよ。もう国に戻る事も出来ないからね。マルコイ達が知りたい事があったら教えるよ。」
そうか‥
確かに大丈夫と思っていた自分の家でさえ襲われたんだ。
戻る事はできないだろう‥
他に自分を匿ってくれそうな人がいれば別なんだろうけど‥
「それじゃあリルはどこに住むの?あてはあるわけ?」
「自国には戻れないから、こっちで人と会わないような場所を探して住むとするよ。」
リルは魔族だ。
俺の光属性の治療で洗脳も思考誘導も解けてるだろう。
しかしリルの眼は、一目で魔族のそれとわかる色をしている。
その真っ赤な眼は、リルが魔族の証だ。
魔国では当たり前の外見かもしれないが、こちらではその外見は畏怖の対象でしかない。
そんな彼女が人目のある場所に住む事なんてできるはずがな‥
「それじゃあ、わたしたちと一緒にくればいいじゃない!リルは強いし、わたしたちも心強いわ!」
え?
いや、さすがに魔族を連れて歩くのは難しいと‥
「何も心配しなくて大丈夫よ!マルコイなら何とかしてくれるから!」
‥‥‥よし。
アキーエにそう言われれば、頑張るしかないです。
「いいのか?私は魔族だ。私がいたらアキーエ達に迷惑がかかるよ?」
魔族だろうが何だろうが、アキーエが俺なら何とかしてくれるって言ってるんだ。
何とかするに決まってるだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます