第472話

リルが驚いた隙に後ろから近寄る。


俺に気づいてリルは振り返るが、後ろが気になっているようだ。


ふははは。


そんな此方に集中できていない攻撃など躱すのは容易だ。


俺は何度も斬りつけられるが、エンチャント:水で回復しながらリルに近づく。


俺の上段蹴りを身体を後ろに逸らして躱す。


「そんな攻撃リルには通じないぞ!」


そして逸らした身体を戻そうとして‥


リルを覗き込む、顔だけのリアル人形と目が合う。


「きゅう‥」


そのままリルは地面に倒れ込んだ。


ふぅ‥


やっぱりコイツの近接戦はやばいな。

とても目で追えない。

これでも多分洗脳されてるから全力を出せてないんだろうけど‥




まあいい。


とりあえず今日はコイツを連れて撤退だ。


俺はリルを抱えて羽根人形でその場を離れた。





リルをその辺に放置しておくわけにもいかないので、とりあえずアースンに戻る。


ここまで手助けしたんだ、後は神聖国に頑張ってもらおう。


廃小屋を見つけて、柱にリルをくくりつける。

柱が折れないように、木偶人形から剥がした魔力回路を使い強化する。


アースンの宿に行くと、アキーエとアレカンドロがいたので2人を連れて廃小屋に戻る。


中に入ると、リルは気づいていたようで此方に向かい声を上げる。


「おい!リルを捕まえてどうする気だ!リルはこんな事じゃ負けないぞ!でも痛い事はやめてほしいぞ!」


なんじゃそりゃ。


「本当にリルじゃない。それにわたしたちの事覚えてないんだ‥」


「ああ。多分身を隠すって言ってたけど、見つかったんだろうな。それにリルは強いからな。逃したくなかったんだろ。」


「ほほう。そんなに強者なのですか!是非とも一度手合わせしたいものですな!」


あれ?

アレカンドロ連れてきたの間違いだったかな‥


「それじゃあまた解除してみるわけ?」


「そうだな。前回と同じ手が通じるかわからないけど、それしかないだろうな。魔道具だと時間がかかり過ぎる。」


俺はそう言ってリルに近づく。


「な、何をする気だ!何故かお前が近づいてくると身体が震えるぞ。や、やめろ!近寄るな!」


俺はリルが色々と言っているのを無視してそっと頭を挟むように手を添える。


「ごめんな。」


「なんで謝る!なにをする気‥あばばばば」


俺は全エンチャントを使い、エンチャント:光を発動させる。

そしてリルの頭に光属性の魔力を流す。


「な、何をするんだよ!頭が割れるじゃないか!」


やはり戻らないか‥

かなり強力に洗脳されているようだ。


俺は『スペース』から道具を取り出す。

それを腕につけてリルに語りかける。


「すまない。荒療治になってしまうが、我慢してくれ。決して楽しんでしてる訳じゃないからな。決してわざとじゃないぞ。」


俺は魔道具の魔力供給を使い、エンチャント:爆炎、暴風、土塊、活水を発動する。


こんな所で奥の手を出す事になるとはな‥


しかしリルのためだ。

決して面白いからではない。



俺はそう自分に言い聞かせて、新たなエンチャントを発動する。


『エンチャント:光華』


エンチャント:光華を発動すると同時にものすごい勢いで魔力を削り取られる。


やはりこれは魔力供給がなければ発動なんてできやしない。


俺の両手から神の身光のような光が放たれる。


俺は眩い光を放つ両手を、そっとリルの頭に添える。


「や、やめてくれよ!さっきよりピカピカしてるじゃないか!」


確かにかなり危険な賭けだ。

でも死にはしない。

俺の『スペース』には山盛りポーションがはいっているから。


「大丈夫だ。骨は拾ってやる。」


「いーやーだー!はーなーせー!やーめー‥」


俺は光の奔流をリルに流す。


「あびゃびゃびゃびゃ!」


時間にして数秒程度だろうか‥


リルの頭から煙が上がっている。


白眼を剥いていたリルに意識が戻る。


そして俺を見つめる。


「‥あれ?マルコイ?」

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