第470話
ライノズ帝国
この世界で帝国と呼ばれている国はライノズ帝国しかなく、かつては強靭な軍事国家であり、世界の5分の1程度までその手中に収めていたという。
今ではその当時の軍事力はなく、隣接する国から自国を守るのが精一杯‥
だった。
その帝国にある皇帝が住む宮殿の一室に2人の男がいた。
「どうなっている!なぜモンスターどもは神聖国に攻め込まぬのだ!」
机の上に載っているものを手で払いのけ、男は大きな声を上げる。
年齢は50代くらいであろうか。
肩ほどある金というより煤けた黄色い髪をしきりにかき上げている。
その細く釣り上がった目は、男を神経質そうに見せている。
「我が国の兵が神聖国に着く頃には、瓦礫とかしていると言っていたではないか!」
「どうやら神聖国を襲う前に討伐されたようだ。」
男にそう伝えるのは、神経質そうな男とは違い、顔に笑みを浮かべている。
男と歳はおなじくらいだろうか。
茶褐色の髪を短髪に刈り上げており、細身に見えるが身体は鍛え上げられたそれであった。
「なんだと!勇者はお前が用意した兵で戦闘不能になったぞ。勇者以外に氾濫を止めるような者が神聖国にいたのか!?」
「それがどうやら正体不明の軍に討伐されたそうだ。諜者からの情報によると傭兵団だそうだ。」
「は!?傭兵団という事はロンギルの傭兵団か?そいつらが何故神聖国に助力する?」
「わからんよ。神聖国と何かしらの繋がりがあるのか、金で雇われたのか‥どちらにしろ、その傭兵団がモンスターの氾濫を殲滅する程の力を持っている事が問題だな。」
「確かにそうだ!お、お前が神聖国を討伐するだけの準備があると言うから、俺は神聖国に侵攻を許可したのだぞ!どうしてくれるのだ!」
「ふん。気にするな。此方の兵は5,000はいるのだぞ。いくら力を持っていようがたかが傭兵団に止める事はできん。それにうちには勇者をも倒した奴がいるからな。」
「そ、そう言われればそうだな。」
「それにこれが自然に発生する氾濫ならまだしも人工的に発生させた氾濫だ。【マニピュレイト】を持った者の力量によってモンスターの強さは変わる。魔王と取引した時に強者を寄越せと伝えたが、ハズレを引かされたようだな。」
「なあ‥今更だが、本当に魔王と手を結んでも大丈夫なのか?神聖国の討伐が終わったら我が国が狙われるんじゃないのか?」
「心配するな。帝国には利用価値がある。此方が彼方を利用しているようにな。」
男はそう呟くと顔に極上の笑みを浮かべる。
「そ、そうだな。それに神聖国の暴挙は決して許せぬ。国宝だけでなく、姫まで寄越せなど、断じて許せぬ!あの脂ぎった豚め!」
「まあそう怒るな。だから俺が協力してやってるんだろう。昔からの馴染みだ。お前が皇帝になってからも俺はお前の事を心配してたんだぞ。気も小さかったお前が皇帝になんかなれるのかってよ。だがこうやって頼ってくれたんだ。後の事は俺に任せておけばいい。神聖国を倒したところで、他の国は何も言ってこない。それだけの事を神聖国はやってきたからな。」
短髪の男はそう言うと、神経質そうな男の肩に手を置く。
「皇帝ムニティスよ。俺が必ずライノズ帝国を救ってやる。」
「シエブラ‥お前だけが頼りだ‥この国には勝てる強者はいない。お前が連れてきた女と、お前の人脈だけが頼りだ。どうかこの国を‥娘を救ってくれ。」
「ああ。」
シエブラは顔に狂気じみた笑みを貼り付けた‥
突然扉を叩く音が聞こえた。
「シエブラ様。至急お伝えしたい事が。」
「なんだ?わかった入れ。」
部屋に入ってきた男はムニティスを一瞥もせず、シエブラの元に歩み寄るとその場に膝をつく。
「申し訳ございません。先程進軍中の帝国兵から報告があり、夜襲を受けていると。」
「なんだと?神聖国の兵か!?」
「いえ。それが‥」
「何を言い淀んでいる。さっさと報告せんか!」
「はっ!何でも不死のモンスターと夜な夜な飛び回る人形に襲われているとの事です‥」
「は?」
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