第367話

彼女は『アウローラ』で共に戦場を駆け回っていた戦友の娘だった。

戦友とは歳が近かったし、奥さんを早くに亡くした事もありクワイスも子育てを手伝っていた。

とはいえ男2人での子育てだ。

苦労もしたし可哀想な思いもさせた。


戦友が亡くなった時も側についていてやった。

ずっと一緒にいた父が突然亡くなったのだ。

一晩中泣いていた。

だが彼女は強い娘であった。

次の日には父の分も傭兵として、武人として名を上げると。

そう誓っていた。


傭兵団で育った事もあって戦いに関しては特出するものがあった。


しかし男所帯で育ったせいで残念ながら女性としての魅力はほとんどないような状態ではあったが。


それでも傭兵団にいるのであれば問題ないと思っていた。


そんなある日、彼女は突然獣人国の闘技会で優勝した相手に腕試しをしに行くと団を後にした。


そのうち帰ってくるだろうと思っていたが、なかなか帰ってこないのでやきもきした。


無事に帰ってきて安堵したが、今度は安全だと思っていたオーク討伐で窮地に追い詰められた。


団を仲間を生かすためにどうするか必死で考えていたら突然現れた青年がオークを討伐した。

あのオークキングをだ。


冗談のように様々なスキルを使用して『アウローラ』が全滅寸前まで追い込まれたオークの集団を討伐したのだ。


しかもそれが彼女の挑んだ闘技会の優勝者だった。

見知った相手ではあったが、窮地を救われた事で彼女は青年に特別な感情を抱いたようだった。


それまでそんな感情を持った事もなかったせいで、どうしていいかわからない様子だった。


父のような身としては複雑ではあったが、彼女のため傭兵団のためにも後押しする事にした。


正直あの青年と繋がりが持てるのでは‥との期待もあった。


しかし彼女の今まで見た事がない表情を見ていると純粋に応援したくなった。

だからせっかくだから同じ宿に泊まれだの、『アウローラ』のお客さんだとわかるように彼女には兜を脱いでいろだの伝えた。


だが青年の周りには綺麗な女性が多く、負け戦かなとも思っていた。


しかしナイコビ商会からの依頼が届き青年達を呼んだ時には何かふっきれた顔をしていた。


その後に話があると言われた時は話の内容について大体想像ができた。


話の内容は想像していた通り、団を抜けたいとの事だった。


彼女は青年について行きたいと言った。

彼の強さに少しでも近づきたいと。


青年に対する感情に気づいていないのかとも思ったが、それは青年の仲間に教えてもらったらしい。


何番目でも何でもとか言っていた。

父代わりとしては青年に軽い殺意を覚えた‥


しかしまああれだけの男だ。

確かに妻が数人いてもおかしくない。

重婚が認められている獣人国にでも行って結婚すれば問題ないのだからな。


だが何となく納得いかない。

娘の事もだが、俺なんて一回も所帯を持った事がないのに‥




依頼の当日、彼女はいつも着けているフルアーマーではなかった。


青年の事だ。

すでに彼女に何かしら武器などの力を渡したんじゃないかと思った。

不思議な力を持つ彼だ。

普通ならあり得ない事だろうが、彼なら‥と少し思ってしまった。


しかし今から戦闘があるというのに軽装の彼女が心配ではあった。

彼女が大丈夫だと言うので見守る事にした。

もちろん何かあればすぐに助ける事が出来るように。


案の定『カッカス』との戦いになった。

しかも相手は『カッカス』だけではなく、巨大な竜が3匹もいる。

彼女どころか傭兵団の皆んなさえ守れないかもしれない。

死を予感していたところだったが、青年の仲間が竜を圧倒していた。

我が目を疑ったが、近くで更に目を疑う光景があった。


彼女がおかしなポーズをとったかと思えば、青年の力だろうか?空間の歪みから鎧が出現した。


彼女はその鎧を身に纏い、空に駆け出した。





その後ろ姿を見ながらクワイスは自分の娘とも言えるアレカンドロが人外の道を踏み出した事を実感した‥


マルコイさん‥

ちゃんと責任とってやってくださいよ‥

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