第349話

「おい!リル聴こえてるだろう!さっさとこちらに来て手を貸せと言っている!」


魔族が大きな声で仲間に呼びかけている。


「うるさいおっさん!こっちも取り込み中でとてもそっちに行けそうにないんだよ!そっちはそっちでどうにかしてもらわないと!」


しかしそんな魔族に返って来た返事は期待していた答えではなかったようだ。


魔族はその返事を聞き苦虫を噛み潰したような表情になる。


「くそがっ!こんな時のために組まされていたというのに‥肝心な所で役に立たないなんて何のためにあんな下等な人族や獣人族を殺せもしない役立たずを連れて回っていたんだ‥」


組まされていた‥?

どういう事だ?

こいつらは自分たちでペアを組んだんじゃないのか?

誰かに指示されてなのか?


「残念だったな。お前の相方には最強の2人が相対しているからな。ここに加勢しに来ることはないと思うぞ。」


「くそっ!まあいい。お前を相手するのが少し面倒だっただけだ。お前如き役立たずの加勢がなかったとしても問題はない!」


「へえ。お前が言う役立たずは殺しも出来ずにお前と一緒にいたって事か。ならその役立たずはお前と違って余程腕が立つんだろうな。」


すると魔族の顔がみるみる怒りに染まる。


「おや?図星だったみたいだな。しかしお前は暗殺者なんだろう?だったらそんな風に表情に出したら駄目だと思うがな。それとも今までは無抵抗の奴を殺してきただけだからそんな事もなかったわけだ。ただ魔族ってだけで勘違いしてしまったわけだな。自分は暗殺者だってさ。」


お?

プルプルしてる。


「もういい。お前は黙って死ね。」


気が短いな。

俺が想像していた暗殺者はもう少し寡黙で人に何を言われても反応せずに仕事を全うするみたいなのを想像してたんだけどな‥


まあこいつも魔族だってことで自分の力を過信して暗殺の技術とかを磨いたわけじゃなかったって事だな。


魔族は懐からもう一本の短剣を取り出した。


「お前如きすぐに血祭りにあげてやるわ!」


おーっ!

カッカしてますな。


すると魔族は何を思ってか手に持つ短剣を上に放り投げた。


投げた短剣はそのまま下に落ちて‥

こない。


短剣は魔族の肩あたりで浮遊している。


そして魔族は新たに短剣を2本取り出した。


「斬り刻んで殺してやる。」


魔族は4本の短剣を構えて此方に向かって来た。


魔族が間合いに入った時に浮いている短剣がこちらに向かい飛んできた。


俺は身体を捻って避ける。


しかし避けた所に魔族が追撃にくる。


それを剣で受け止める。


もう1本の短剣で攻撃してこようとしたためにエンチャント:爆炎を使い力任せに剣を押し付ける。


すると魔族はもう片方の短剣も使い剣に対抗してきた。


しかし俺の方が若干ではあるが力が強い。

そのまま押し込もうとすると魔族の視線が俺の後方に向けられている。


俺は剣を持つ手の力を抜き、魔族が前のめりになった所で魔族の横をすり抜けるように後ろに回り魔族との位置を変える。


魔族の身体の前には先程投げたと思われる短剣が浮かんでいた。


「ちっ。避けるとはな。さっさと死ねばいいものを。しかし何度も避けられると思うなよ。」


魔族は今度は浮遊させている2本の短剣のみを此方に向けて放ってきた。


それほどの速度はないため2本とも剣で弾く。


すると弾いたはずの短剣がまた浮遊して向かってきた。


再度浮遊している短剣を剣で叩き落とす。

魔族はそのままの位置でこちらの様子を伺っている。

その場から動く気配はないようだな。


短剣を自分の意思で動かすスキルか‥

確かにおそろしく強力なスキルと思える。

普通の攻撃の中に織り込まれたら躱しようがないかもしれない。

しかし‥

まさかな‥


様子を見ているとまた剣は此方に向かってきた。

今度はその2本を避けてみる。

すると短剣は方向を変えてまた向かってきた。


俺はそれを見て魔族に向かい駆け出す。


魔族は慌てて短剣を構える。


すると後ろで何かが落ちた音が聞こえる。


やはりか‥

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