第348話

アキーエは魔法による爆撃を魔力に無理がない程度で行った。


此方はマルコイが来るまでの時間稼ぎをすればいいのだ。

焦る必要はないので、慎重に相手をする。


爆撃の後には多少黒焦げになってるリルが地面に落ちていた。


「死んだかな?」


「死んでないわ!」


「うん知ってる。やっぱり魔族って魔法に対する防御が高いのね。」


「知っててやってるのかよ!何なんだよあんたは!まるで魔族と戦った事があるみたいに言いやがって!」


「そうね、初めてじゃないわ。わたしもミミウも。」


「はいですぅ!」


それを聞いてリルの顔が固まる。


「魔族と戦って生きてるって‥何か絡んではいけない奴らに絡んじゃったみたいね。逃げ出したいわぁ‥でも‥そうね、逃げたらダメよね。ちゃんと殺さなきゃ。そう殺さなきゃ殺さなきゃ殺す殺す殺す。」


呟いていたリルから突然表情が抜け落ちた。


そして持っていた剣を腰だめに構える。


何かくる!


急なリルの変化に戸惑いはしたもののすぐに気づき防御体勢を取る。


するとそれを見たミミウがアキーエの前に来て盾を構える。


「斬:風狼」


腰だめの状態からリルは剣を放った。


アキーエから距離が離れているのにもかかわらずにだ。


リルの剣から白い半月状の物が飛来する。


飛来して来た物はミミウが構えていた盾で防いだ。


だが防ぎはしたが、威力が高くミミウは盾を構えたまま少し後退させられてしまった。


(遠距離からの攻撃でミミウを後退させるなんて‥)


おそらく何らかのスキルだろうが、その攻撃力にアキーエは背筋に冷たい物が走った。


(彼女の変貌は気になるけど今は無視しないと。)


アキーエはミミウの後ろから駆け出し、リルとの間合いを詰める。


気を込めた拳を連打し、魔法拳を放つための隙を伺う。


しかし無表情のリルは気を込めた拳その全てを躱して魔法拳を放つ隙を与えない。


だが離れれば先程の飛ぶ斬撃を放たれるかもしれない恐れがあるためアキーエは近距離で攻撃をし続けた。


ミミウも距離を詰めて短槍で攻撃する。

この部屋の中だと、あの『ノーム』に入ってもらう大きな槍だと取り扱いが難しいので短槍のままのようだ。


流石に2人からの攻撃は捌く事ができずにリルは追い詰められる。


リルはスキルでの攻撃を諦めたのか攻撃を避けつつ剣での牽制を行ってきた。


攻撃を避けるではなく、剣での攻撃を放ったためアキーエは剣を躱しつつ魔法拳を放つ。


リルは何とか避けはしたものの肩に魔法拳を喰らう。


今度は浸透系の魔法拳のため、肩で受けたリルだったが全身にダメージが通りその場に膝をつく。



しかしリルは特に表情を変える事なく立ち上がった。


「魔法拳も効いてるかわからないわね。でも効く効かないにしろ攻撃を続けるしかないわね。ミミウもう少し頑張りましょう。」


「はいですぅ!」


先程の飛ぶ斬撃のスキルはもしかしたら他にも技があるのかもしれない。

わずかな動作で飛ばせる技などがあれば防ぐ事自体難しい。


しかし無表情になってからは、あの神速のような剣の速度は見られていない。


(操られている時は全力を出せていないのかな?)


リルはゆっくりと此方に歩み寄って来ている。



「‥どこにいる!」


「対象はここだ!手を貸せ!」


その時上の階から声が聞こえた。


おそらくマルコイが相手している魔族のようだった。


(マルコイが相手を追い詰めているみたいね。このままこっちを引きつけておけばマルコイが相手を‥)


そう思っていたアキーエの前でリルに変化が起こった。

リルに表情が戻ったのだ。


「んあ?また意識なくしてた?もういつも大事なところで意識がなくなるんだからっ!」


リルは頭がはっきりしないのかしきりに頭を振っている。


「おい!リル聴こえてるだろう!さっさとこちらに来て手を貸せと言っている!」


「うるさいおっさん!こっちも取り込み中でとてもそっちに行けそうにないんだよ!そっちはそっちでどうにかしてもらわないと!」


リルは改めてアキーエ達を見る。


「向こうも困ってるみたいだけど、私もここを切り抜けるのが難しそうよね。何でこんなとこにきたんだろ‥」


「あなたはマルコイを狙ってきたんでしょ?もうすぐ降りてくると思うからここで少し待ってみない?」


アキーエは困った表情をして呟いているリルを見てそんな事を言い出した。

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