第345話

殺戮人形たちは魔力による攻撃により多少のへこんではいるが問題なく動いている。


そして2体で女を挟み込むような形で動いている。


「くっ!」


女は下がって間合いを取ろうとする。


しかしそれを見ていた殺戮人形は手を女に向ける。


すると人形の手から恐ろしい勢いの炎が放射される。


「ひっ!」


女は突然の炎に驚き転がるように逃げ惑う。


逃げる女に今度はものすごい勢いで人形の腕が飛んでくる。


「ぎゃー!何で腕がとんでくるのよっ!」


声も出さずに慎重に侵入してきた最初の様子はもうすでに見られない。


大きな声を出して逃げ惑っている。


(まあわからないでもないわね。罠が異常なのよ。声を出さずにいるってのが無理な気がするわ。)


アキーエは自分が人形たちと遭遇した時の恐怖を思い出してそう思った。


部屋の中では女が完全に2体の殺戮人形に挟まれる位置まで追い詰められていた。


2体が同時に炎を放つ。


女は何とか前方に転がって逃げる。

這う這うの体で逃げ出した女は振り返って人形を見る。


人形は‥





燃えていた‥




アキーエはその様子を見て頭を抱える。


「た、確かに木の人形が炎を受けたらそうなるわよね‥」


マルコイは得意気に殺戮人形の炎で部屋が焼かれないようにと壁に一所懸命防炎の魔力回路を設置していた。


確かに壁は燃えていない。

壁は‥


しかしマルコイが心血注いで作成した殺戮人形はお互いの炎に焼かれ崩れ落ちていた‥


(全く‥そこまで考えなさいよね。)


アキーエはここにはいないマルコイに愚痴りながらミミウを見る。


「ミミウ。行くわよ。」


アキーエは扉を開けて中に入る。


部屋の中は殺戮人形が燃えているせいで明るくなっていた。


「悪いけど、捕まってもらうわね。あなたには聞きたいことが‥」


明るい部屋のおかげで相手の顔がはっきり見える。


女の真っ赤な瞳がこちらを見ていた。


「お、お前がこの家のやつか!散々怖い思いさせやがって!只で済むと思うなよ。」


女は今までの罠の所為でかなり頭にきているようだ。


「ミミウ相手は魔族よ。多分マルコイも予想してなかったと思うけど、最悪もう1人も魔族かもしれない。だからマルコイがもう1人を倒すまで、この魔族はわたしたちで引き留めるわよ。」


「はっ!只の人間が私を引き留めるだと?面白い事を言う。しかしこんなに怖い思いをしたのは初めてだ。楽に死ねると思うなよっ!」


女の目には涙が浮かんでいた。

よっぽど怖かったのだろう‥


「そっちこそ簡単に相手できると思わないでね。人形を相手してた方がよかったって思うくらい怖い思いをさせてあげるわ!」


そしてアキーエ、ミミウと魔族との戦いが始まった。






マルコイと魔族は対面したまま動かないでいた。


「ふん。魔族と会うのは初めてじゃなかったか。しかしこれでわかったろう。お前では俺に勝てない事がな。俺達と戦えるのは高ランク冒険者くらいだ。ましてや俺達に勝てるとしたら勇者、そして最近報告のあった獣人国にいる光の力を使う事ができる冒険者くらいだ。お前のように商人ごときが相手できると思うなよ。」


なるほど。

少しだけ俺を狙ってきた可能性も考えたが、やはりナイコビ商会から雇われた刺客と思って良さそうだ。


しかしナイコビ商会は、いやサントバルのやつは何者だ?


魔族を刺客に雇うなんて普通できる事じゃない。

そんな事考えるはずもないし、魔族がそれに応えるとは到底思えない。


あるとしたらサントバルには魔族と交流する術があるのか、もしくは‥


サントバルが魔族側に位置する者なのか。


まあ今考えても答えは出ない。

いずれあちらからこっちに来るはずだからな。

その時に改めて聞くとしよう。


今はこちらが優先だ。


俺が光の力を使って魔族を倒したとはいえ、あの時はアキーエも一緒だった。

それに下手したら飛ばされた方も魔族の可能性がある。


ここでもたもたしてしまうとアキーエたちの身に危険が迫るかもしれない。


さっさと片付けさせてもらおうか。

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