第329話

「なんで?そりゃあんたを追いかけて来たに決まってるだろ。不法侵入したやつを捕まえたいと思ってな。」


「そ、そんなバカな。後ろから誰も来てなかったぞ。それにあれだけ馬を酷使して走ったんだ。追いつかれるはずがない!」


そりゃそうだ。

空から追いかけて来たからな。


「そんな事を言われてもな。実際こうやって追いついたんだ。大人しくしてもらおうか。それよりもこんな所に逃げ込むなんて、お前は『カッカス』の団員だったんだな。」


「な、なにを言ってやがる!お前は俺が『カッカス』だと知ってたじゃないか!」


「おや?そうだったか?だがおかげで確証が持てたよ。あんたたちもそうだろ?」


俺は襲撃して来た男が話をしていた2人を見る。


1人は黒髪の眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

商人らしいが腰に剣を下げているのが不釣り合いだな。


もう1人は商人の服は着ているが、あきらかに似合ってない。

顔の傷もそうだが、筋肉が服の上からでもわかるくらいに盛り上がっている。


「ほほう。お前はここが『カッカス』の本部だってわかっててやってきたんだな。この後無事に帰れると思ってんのか?」


筋肉が何か言っている。


あ、間違えた一応口がついてるみたいだ。


「そうだな。まさかここが『カッカス』の本部だとは入るまでわからなかったよ。すまなかったな。俺はホット商会の会長をしているマルコイだ。今度正式にその男を引き渡すように申し立てるとしよう。正式な訪問じゃなかったとしてもこちらも立場ある人間だ。知らずに入ったからと言ってまさか何かしてくるような真似はしないよな。」


「何をいってやがる!このまま無事に帰れるわけが‥」


「ダンバル!」


眼鏡をつけた男が動いた。

見えてはいたが、俺に殺意が向いていなかったので油断した。


眼鏡の男は腰に下げていた剣を引き抜くと、一閃した。


すぐに男は振るった剣を腰に戻す。


しくじった‥

まさかそんな真似をしてくるとは‥



俺は襲撃してきた男に目を向ける。


男は先程と変わらず尻餅をついた状態でこちらを見ている。

すると体勢はそのままで、首だけが男の身体から離れ落ちた。


「すまないなマルコイ殿。うちも急に不審者が入ってきて困っていたんだ。まさかホット商会の会長さんを狙った襲撃者だとは思わなかったよ。それを聞いて驚きすぎて慌てて斬ってしまった。だがこの男は『カッカス』とは無関係の男だ。引き渡しなど言わずに今連れて行ってもらっても結構だぞ。」


やばいなコイツ。

『カッカス』の団員だとはわかりきってはいるが、ここまでしてくるとなると追及してもシラを切るだけだろう。


「そうですか。しかし死体を持って帰っても意味がありませんからね。俺は今日初めてこの街に来ましたから勝手がわかりません。お手数ですが、こちらで処理していただくと助かります。」


「そうですか。それなら天下のホット商会さんを狙った不届き者として、うちのほうで衛兵に渡しておきます。」


コイツ‥


「すいませんが、貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?俺を狙った襲撃者を倒していただいたんだ。後日お礼に伺いたいと思うので。」


「ああ。すいません。私の名前はナイコビ商会の会長をしているサントバルと申します。以後お見知り置きを。お礼など結構ですよ。こうしてホット商会の会長さんとお話しする事ができたのですから。」


そうか‥

コイツが‥


キリーエを狙った当人が目の前にいる。

怒りで頭が沸騰しそうだ。

この場で暴れてやりたいところだけど、お尋ね者になってしまう。

冷静に‥

冷静に。


「そうですか。貴方がナイコビ商会の会長さんでしたか。いろいろとお噂はうかがってます。これから何かとお会いする機会も増えると思うのでよろしくお願いしますね。」


「何がよろしくだテメー!ふざけてんのかっ!」


お?

この筋肉は単細胞っぽいな。


「ん?こちらの筋肉はどなたですか?」


「こっちは『カッカス』の団長でダンバルと言います。私共々よろしくお願いしますね。」


なるほど。

この2人が黒幕なんだな‥

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