第328話
馬に跨った男は闇の中を月明かりのみで疾走する。
男は馬上で何度も後ろを振り返る。
月明かりがあるとはいえ闇の中だ。
馬は時折脚をとられて馬体が大きく揺れる。
上に乗っている男は振り落とされまいと揺れるたびに必死にしがみつく。
それほどまでに伝えたい人が、伝えたい事があるという事だ。
仲間に裏切り者がいるかもしれないという事。
少し考えれば俺が適当な事を言っているかもしれないと思う事ができたかもしれない。
しかし襲撃する側だった自分たちが罠にはめられて、命からがら逃げ出せたと思っている今は冷静な判断もできていない。
俺はそんな様子の男を空から見ていた。
馬の速さに追いつくためにエンチャント:風を使っていたがずっと発動しっぱなしも魔力の消費が激しいため、空間魔法の『スクレイプ』を時々利用して自分を引っ張りながら進んでいた。
ナーメルは徒歩1日の距離という事だったが、男は僅か4時間程で街までたどり着いた。
街に着く頃には日も登りだし周りも明るくなってきていた。
男が馬から降りると馬はその場で倒れ込み動かなくなった。
男はそれに気を留めず門に向かう。
街の門は閉まっていたが、男は見張りの人に何か怒声をあげている。
おそらく門を開けるように要求しているのだろう、
男が何を言ったのか上空からではわからないが、しばらく待つと門が開いた。
男は門が僅かに開いた時に身を捩らせて中に入り込み、そのまま街の中を走り出す。
俺は明るくなってきた事もあり、かなり上空に待機していたが男が建物に入った事を確かめると街から少し離れた所に降りて、そのままナーメルの街に向かった。
先程の男が街に入ったためか、街の門は開いており門に近づくと門番に身分証を提示を求められた。
「ここはナーメルの街だ。こんな朝早くから何の用だ?」
門番の男は朝から門を無理矢理開けさせられて不機嫌なようだった。
しかし俺のギルドカードを確認してAランクである事に驚く。
「こ、これは朝からお疲れ様です。ごゆっくりとナーメルの街をお楽しみください。」
「ちょっと『カッカス』に用事があってね。朝からすまない。」
冒険者ランクもAランクになるとかなり有用みたいだな。
ちゃんと俺が歩きでこの街に入ってきたって事は覚えといてね。
本当は歩いてきてないけど。
男が入った建物に入ると中から大きな声が聞こえてきた。
「だからお前はビビって逃げて来たって事だろうが!」
「違います!確かに罠にかけられて身動きとれない状態だったんですが、何とか逃げてきたんです!仲間に裏切り者がいるかもしれないなんて情報を絶対に伝えないといけないと思って!」
「うちの団にそんな奴がいると思うか?俺にビビらずに他につくなんて奴がよ?」
「まあ待てダンバル。つまりお前は対象を暗殺するために部屋に入ったが寝ているはずの対象者が別の物にすり替わっていて、しかもそれがお前達の動きを阻害するような魔道具だったというわけか。」
「はい!そして俺達が来るのはあらかじめわかっていて、罠を仕掛けていたと言っていました!」
「それはいい。本当か嘘かはわからんからな。しかしそれよりもそんな魔道具を一介の商人が持っているか?ホット商会の名前を騙っているだけだと思っていたがまさか本物か?だが獣人国で調べた時は確かに女が商会長だったはず‥」
ん?
こいつが黒幕か?
俺は目の前にある扉を開けて話し声のする部屋の中に入って行く。
「なんだお前はっ!何の用だ!」
おいおい。
お前たちは好感度抜群の傭兵団じゃなかったのか?
これじゃその辺のチンピラ集団と変わらないな。
もしかしたら上の方だけが腐ってる可能性も考えたが、そうでもないようだ。
「すまないな。ちょっと用事あってお邪魔した。」
俺がそう告げると、声に聞き覚えがあったのか襲撃して来た男が振り返る。
するとその男はその場で尻餅をつき後ずさる。
「な、な、何でお前がここにいるんだ!」
俺を指差して男はそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます