第306話
「すべての依頼を『カッカス』が受けた。『カッカス』は傭兵団の立ち上げ記念だって言ってたからな。俺たちもそれなら暫くしたら通常に戻るだろう、それから依頼も戻ってくるだろうと思っていた。しかしその立ち上げ記念なんてものが1年以上続けば話は違ってくる。どこから資金が回ってきてるのか最初はわからなかった。無償で依頼を受け続けるなんでマネが出来るはずがないと高を括っていたのもあったがな。それにご丁寧に冒険者ギルド前まで営業に来てくれたよ。依頼を出しに来た人に『カッカス』なら無償でやりますよってな。その結果、冒険者ギルドに冒険者がいなくなったってわけだ。」
「その収入がなかった『カッカス』を支えていたのがナイコビ商会だと?」
「そうだ。その金の流れは掴む事ができた。まあナイコビ商会は隠すつもりもなかったんだろうがな。そして『カッカス』は傭兵団としてこの国での地位を確立した。そして『カッカス』は冒険者ギルドが機能しなくなってから立ち上げ記念をやめて依頼を普通に受けるようになった。まあそれまで無償でやってたんだ。多少金を取られるようになったところで冒険者ギルドに依頼は回って来なかったし、来たとしても受ける冒険者はいなくなっていたけどな。」
随分と金と暇のいる事だな。
しかし問題は‥
「そして君も気になっていると思うが、俺達もわからない事がある。」
俺は疑問を口にする。
「何故そこまでして冒険者ギルドの機能をなくしたかったのか‥」
「そうだ。それについてはわかっていない。俺や受付嬢のライリーはまだ冒険者ギルドに残っているがろくに動けずにいる。昔のツテを使ってナイコビ商会や『カッカス』の事を調べてはいるが、下手に動けば命も危ういかもしれない。」
まさかそこまでするのか?
「『カッカス』の裏の顔はナイコビ商会の私設傭兵だ。それこそ他の商会の頭を亡き者にするくらいのな。実際俺は動いていた時に命を狙われた事もある。ただ俺は立場的に冒険者ギルドのギルドマスターだ。変に暗殺して怪しまれるのを嫌ったんだろう。動かなければほっといても害はないと思われているからな。しかし‥」
スキャンは少年を見る。
「ライリーはただの冒険者ギルドの受付嬢だ。俺が下手に動けばライリーの命が危ないと思っている。ライリーはこの街では働き口もない‥生殺しにされている。それに他の街に移動しようとしたら邪魔をされたそうだ。ライリーは生きるためにここにいるしかないんだ。」
「そんな事はないよ。僕は好きでここにいるんだ。確かに一度はこの街を出ようとした。怖かったからね。でも今はここで受付嬢として働いて凄い冒険者がこの街を変えてくれるのを待ってるんだ。」
なるほど。
確かに何故ナイコビ商会が冒険者ギルドをここまで邪魔と思っているのかわからない。
しかしもう一つ気になる事がある。
受付嬢だと‥?
ちょっと真剣な話をしているので聞きにくいが受付嬢だと?
さっきまでスキャンがやった事に腹を立てていたが、それよりも気になる事ができてしまった。
しかし今は聞きにくい‥
でも‥
「話の腰を折るようですまない。その受付嬢とは誰のことだ?」
我慢できなかった‥
するとライリーは不思議そうな顔で俺を見てくる。
「何言ってんのさ。僕のことに決まってるじゃないか。」
「そうだよな。しかし受付嬢って言うのは女性の事を指すものだ。お前みたいな少年がやってる場合は受付係って言う方が正しいと思うぞ。」
「ぶふほぉ!」
突然スキャンが吹き出した。
ライリーがプルプルしている‥
なんだお前ら。
人が真剣に‥
「僕は女だ‥」
「ん?なんだ?よく聞こえ‥」
「僕は!おんなだーーーっ!」
「は?」
何を言ってるんだこいつは‥?
格好もそうだし、髪も短い。
なによりもその真っ平らな胸が物語っている。
「嘘をつくな。」
「ぶふほぉっ!」
地面を見るとスキャンが腹を抱えながら地面を転がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます