第305話
一階に上がりギルドを後にしようとしたらスキャンが声をかけてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
俺は無視して外に出ようとする。
正直俺はもうこのギルドから助力を得ようとは考えていない。
イザベラさんからの紹介だし、こっちに知り合いがほとんどいない状態でするべき事ではないかもしれない。
イザベラさんの手紙に何と書いてあったかは見ていないので、もしかしたら俺の事について書いてなかったのかもしれない。
若しくは商会をやっていてナイコビ商会に狙われているとだけ書いてあったのかもしれない。
それでもナイフを投げつけたり、模擬戦を仕掛けてきたりするのはどうなんだ?
俺が行くつもりだったし、実際に俺が来た。
しかしもし俺が何らかの事情で来れなかったら?
アキーエやミミウ、キリーエが来てたら?
相手が女性だったらこんな事しなかったかもしれない。
でももしかしたら、同じ事をやったかもしれないってだけで腹が立った。
「すまない!頼むからちょっと待ってくれ!」
俺がそのまま無視して行こうとするとスキャンが俺の前に回り込んできて頭を下げる。
「すまない‥やり過ぎたのは謝る。頼むから話を聞いてくれないか?」
正直聞く気もない。
俺がそのまま無視して行こうとする。
すると先程ナイフを投げてきた少年も前に回り込み、床に膝をつき頭を下げる。
「ごめんなさい。ナイフを投げたり失礼な事をしたのは謝ります。お願いだから話を聞いてください‥」
ちっ‥
子供が謝っているのを無視する事はできないか‥
「‥‥なんだ?」
「えっ?」
「だから話ってのはなんだ?」
「よかった!話を聞いてもらえるんだね!」
あまり聞きたくもなかったけど、そこまで言うのであればしょうがない。
無視するつもりだったけど、子供に土下座させてまでするのもな。
俺はギルドの中にある椅子に座ろうとしたが出来れば地下がいいとの事だったので、もう一度地下に行く事にした。
「先程は本当にすまない事をした。全面的にこちらが悪い。謝罪を受け取ってもらえないか?」
「わかった。謝罪は受け取ろう。それで話ってのはなんだ?手紙に何と書いてあったか知らないが、俺はあんたに助力を求めるつもりはもうないぞ。」
話は聞くが、聞くだけだ。
「それでも構わない‥」
スキャンは俺の目を見て話し出す。
「正直見てもらってわかると思うが、セイルズのというかロンギルの冒険者ギルドはほぼ機能していない。各地に冒険者ギルドがあり、冒険者達がそこを利用しているのがどの国でも共通だが、この国だけはそれがない。それは知っていると思うが傭兵がいるからだ。」
確かに傭兵が冒険者の代わりをしているこの国では冒険者ギルド必要ないのだろう。
「しかし最初からここまで酷かった訳じゃない。実はこの国にも冒険者はいて、傭兵と共存していたんだ。商人からの依頼は傭兵で、一般の人からの依頼などは冒険者が行っていた。小規模ではあるが冒険者ギルドとして機能していたんだ。」
なるほど。
確かに仕事は少ないかもしれないが、傭兵がいても冒険者は必要とされていたんだな。
「冒険者が必要とされなくなったのは、ナイコビ商会ができてからだ‥」
ナイコビ商会?
一介の商会のせいで冒険者ギルドがなくなるのか?
そこまで影響力があるとは思えないのだが‥
「たかが商会が何かしたところで全国に広がるギルドを機能しなくするなんてできるのか?」
「そうだな。普通であれば無理だろう。それにそんな事をするには金がいる。自分のところに利益がないのであれば普通はしないはず‥だった。しかしナイコビ商会は傭兵団『カッカス』を使ってそれをやったんだよ。一般の人に対して無償で依頼を受けるなんてまねをしてな。」
無償で?
そんな事をして何の意味があるんだ?
「もちろんそんな事をされたらうちには依頼が全く来なくなる。わざわざ金を払わなくてもいいんだからな。畑を荒らすモンスターも街のドブさらいも全て『カッカス』がやってくれたからな。」
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