第304話

スキャンと名乗った男は40歳位だろうか。

短めの髪に無精髭といった出立ちだ。

髪も整えているというよりも無造作に自分で切ったといった感じである。


朝訪ねた時に夜来たら会えると言われて来たが、もしかして待っていてくれたのだろうか?


「ああ。俺はロッタスから来た冒険者のマルコイだ。ロッタスの冒険者ギルドのギルドマスターから手紙を預かって来ている。おそらく俺たちがこの国に来た理由が書いてあると思う。」


スキャンは俺が懐から出した手紙をもらう。

そしてその手紙をその場で読み出した。


「なるほどな。」


スキャンは手紙を読みながら頷く。


「確かにお前らがセイルズに来た理由が書いてある。そしてよければお前に助力してやってくれとな。しかし‥俺にも立場がある。お前が今のこのセイルズ‥いやロンギル共和国を変える程の力があるのかは疑わしい‥」


そうスキャンが呟くと、それまで動かずにいた昼間会った少年が持っていたナイフを投げる。


俺は首を動かしてナイフを避ける。

危ないな。

動かなかったら頬が切れるとこだったぞ。


「「なっ!」」


2人して驚いた表情をしている。


「おい。イザベラさんの紹介だから大人しくしているが、喧嘩を売られてるのか?もしそうだとしたらやめてもらえるか?イザベラさんには恩があるからな。その知り合いの人と揉めたくはない。もし気に食わないのならもうここには来ないから。」


「お前よくライリーのナイフが見えたな。ライリーがいるのがわかっていたのか?」


ん?

不思議な事を聞くな。


「わかっていたも何も最初からそこにいただろ?」


最初にギルドに入った時から【察知】でいる事がわかっていた。

それに幾ら薄暗いからといっても目を凝らしたら見えるしな。

ナイフ投げてくるとは思わなかったが‥


「そ、そうか。しかしナイフを躱したからといっても強いとは限らん。そうだな。今から俺と軽く模擬戦でもしてもらおうか?」


助力するにしても俺が強くないと無駄骨って事か。

いきなりナイフ投げてくるような人たち助けてもらうつもりはないが、このまま帰るのも紹介してくれたイザベラさんに悪いな。


「わかった。案内してくれ。」


ギルドの地下は軽く運動できる程度のスペースがあった。

上は今にも崩れそうだったが、地下は割と綺麗にしている。


「得意な武器をとるといい。俺はこう見えてもお前が住んでいる獣人国の闘技会で本戦に出たことがある。つまり冒険者をしていた時はAランクだったって事だ。商人がどこまで闘えるかしらんが、全力でかかってこい。」


ん?

商人?

イザベラさんどんな事書いてたんだ?


「わかった。全力で行かせてもらう。あと俺は商人じゃない冒険者だ。それにあんたの言う闘技会では一応優勝している。」


そう言って壁に立てかけてある木剣をとる。


握りを確かめて構える。


「は?商人じゃない?闘技会優勝?ちょ、ちょっと待て。少し話し合う必要がありそうな気がするぞ。」


「いや、話し合う必要はない。もしかしたら俺が言ってる事が嘘かもしれないだろ。それなら実際に闘って証明した方が早いだろ。」


俺はエンチャント:風を使う。


「いや、ちょっと待て。一度話し合おう!な!な!」


「それじゃこれで証明になるかわからんが、行くぞ。」


俺は脱力した状態から身体が倒れる力を利用して前にダッシュする。


「ちょ!ちょ!待って!待って!」


俺は身体を起こし、スキャンの正面から頭に木剣を振り下ろす。


そしてスキャンの顔ギリギリで木剣を止める。


「うびゃっ!」


スキャンは不思議な声を出してその場に尻餅をつく。


「これでよかったか?」


スキャンは尻餅をついた状態でコクコクと頷く。


「手紙に何て書いてあったか知らないが、いきなり人に向かってナイフを投げるのはどうかと思うぞ。それにイザベラさんの紹介だから模擬戦に乗ったが、本来なら無視して帰るとこだ。それじゃあな。」


横柄な対応にはそれなりの対応をしないとな。

俺は木剣をスキャンに投げ渡して地下室を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る