第292話

船で一泊した後に甲板に出たら、もう目視できる距離に街が見えた。


「ようやく着きそうだな。」


「そうね。時間は1日だったけど濃かったもんね。」


クラーケン騒動以降は特に問題も起こらなかった。


しかし船に乗ってる間にロンギル共和国が商人の国だとしっかりと認識させてもらった。

あれから港町に着くまでにオーマルさん以外の商人からも声をかけられまくった。


うちの商品を使って宣伝してくれないか、うちの商会で用心棒をしてくれないかなど。


商人の人たちには懇意の商人がいるからと断った。

とても残念な表情をしていたけど、この街にずっといるつもりもないからな。


甲板で外を眺めているとまた別の商人が声をかけてきた。


「おはようございます。いや〜昨日ご挨拶させていただきたかったのですが、すぐお部屋に戻られましたので今日お会いできてよかったです。」


う、嫌な感じがする。

笑ってるけど目の奥がこっちを覗き見しているようだ。


「いや〜しかし昨日は大活躍でしたな。あんな大きなクラーケンを撃退できる人なんているとは思いませんでしたよ。」


「はあ、ありがとうございます。」


「ところで昨日少し耳に入ってしまったのですが懇意にされてる商人がいらっしゃるとか?」


「ええそうですね。俺たちでパーティを組んですぐくらいから懇意にしてもらってます。だから他の商会のお仕事はあまり受けさせてもらってません。」


「なるほどそうなんですね。いやしかし私が今回ご挨拶こさせてもらったのは、うちに歳頃の娘がいまして。もしご結婚がまだならご紹介させてもらえないかと。」


はい?

何言ってるのこの人?

見ず知らずの冒険者に娘をやろうとしてんの?


「いや、なぜいきなりそうなるんですか?俺は冒険者ですよ。素性もわからないような奴に娘を紹介しようなんて正気の沙汰じゃないですよ。」


すると男は口角を釣り上げて笑う。


「何を言われますか。あれだけのモンスターを撃退されたんですよ。使ったスキルはたまたま持っておられたかも知れませんが、少なくともAランクはないとまずあのサイズのモンスターに立ち向かおうとはされませんよ。」


それは‥

確かにそうだな。

俺はあのクラーケンより強いやつと戦ってきた。

だからどうにかなると思って戦いを挑んだ。


「だからAランクの冒険者の方とお近づきになるために娘を紹介させてもらおうかと。」


う〜むなるほど。

もちろん遠慮はするけど、納得の理由だな。


でも残念。

これが声をかけたのが俺じゃなくてリュストゥングだったら喜んで受けると思うけどね。

でもリュストゥングは海で戦えなかったかな?

いや、水中鎧とかありそうだな‥


「すいません。ありがたい申し出ですが、俺には意中の人がいますから。」


とりあえず断らないとな。

俺は横にいるアキーエを指さしながらそう告げる。

その場を乗り切るためにはこれが1番な気がする。


「な、な、な、なに言ってるのよ!マルコイ!」


アキーエが耳まで真っ赤になって俺の指を握る。

ふっふっふ。

可愛いなぁアキーエは。

痛たたたた‥

アキーエさん、俺の指はそちら側には曲がりませんけど。

いでででで‥


「それは残念です‥ また機会があればお話させてください。」


男はそう言って去っていった。


ふ〜む。

ここまで来ると、オーマルさん濃い人だったけど断然まともだった気がする。


俺はエンチャント:水で指の痛みをとりながらそう思うのだった。



もう話しかけられても困るので、港町に着くまで船の居室で待っていると船が止まった。


ようやく着いたようだな。


荷物を持って甲板に出ると船に乗っていた人が次々と陸に降りているところだった。


「色々あったけどなんとかロンギル共和国に着いたな。」


「ほんと。モンスターが出たまではよかったけど、その後の方が大変だった気がするわ。」


そうだな。

俺の指もなんとか普通に曲がるようになったからよかった。

治らなかったら大変だった。


よし、それじゃ情報収集から始めますかね。

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