第286話

「前衛は交代で前に立て!絶対無理はするな!遠距離できる者は後方から斜め上に攻撃をしろ!少しでも前衛にかかる負担を軽くするんだっ!」


「崖を背にしろ陣形は半円だ!中には負傷した者、近接が出来ない者を入れろ!左翼もう少し下がれ!入り込まれるぞ!」


クワイスは矢継ぎ早に指示を出す。

戦況がどう足掻いても絶望的な事はクワイスもわかっていた。

しかし傭兵団をまとめる立場として諦めるわけにはいかなかった。

上位個体が痺れを切らして出てくるのを待ち、それをメンセンとアレカンドロで討伐する。

そのほんの僅かな可能性を信じて戦い続ける。


「おらーっ!どんどんかかってこいやー!」


「まだまだ!このくらいじゃ自分は討てないですぞ!」


メンセンやアレカンドロ、他の主要メンバーも諦めずに戦ってくれている。


もしかしたらそこまで辿り着けるかもしれない。

そんな淡い期待をクワイスが持ち始めた時に更なる絶望が舞い降りる。


「避けろっ!」


突然の大きな声に傭兵達の表情が固まる。

そして傭兵が固まっている中央辺りに火の魔法が降り注ぐ。


威力は大した事はなかったが、オークの群れから飛んできた事に意味があった。


クワイスは上位個体が現れたと期待して魔法が飛んできた方を見るが、現れたのは杖を持った数体のオークマジシャンと思われる個体と3体の棍棒を持った先程アレカンドロ達が戦っていたオークだった。


「くそっ!やっぱり上位個体も1体なわけないか。しかしこいつらを倒したら‥」


オークの群れを掻き分けて別の個体が現れる。

弓を持ったオーク、槍を持ったオーク。

それぞれ古びた武器だ。

おそらく冒険者が使用していたものではないだろうか。


1体でも討伐に梃子摺る個体が数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどいる。


「クワイス団長!どうしますか!」


クワイスは考えるが答えは出ない。

いや出てはいる。

全滅という答えは。

しかしそれを認めるわけにはいかない。


「まだ諦めんじゃねーぞ!全部俺が片付けてやる!」


メンセンが大剣を振り回して上位個体に突撃する。

しかし今までのオークと違いすぐにその突撃は止められる。


メンセンの剣を2体の棍棒を持つオークが受け止めたと思ったら、その後ろから槍を構えていたオークがメンセンに槍を放つ。


槍はメンセンの腹部を貫いた。


「がはっ!」


「メンセンっ!」


「メンセン師団長殿!」


メンセンは槍に貫かれたままその場に倒れ込む。


アレカンドロとクワイスはすぐにメンセンの元に向かう。

しかしオークの上位個体が邪魔して前に進めない。



アレカンドロは戦斧を振り回してメンセンまでの道を切り開く。

辿り着きはしたがメンセンは瀕死だった。


全滅‥


そんな言葉がアレカンドロの頭に浮かぶ。


自分とクワイス団長だけなら逃げられるか?

自分はいい。

クワイス団長さえ生き残れば傭兵団『アウローラ』は残る事ができる。


しかしそれも現状としては難しいようだ。


自分は最後までクワイス団長の盾として戦い続ける。

そう思い戦斧を振り回す。


クワイス団長もメンセン師団長を守るように剣を振り回している。

クワイス団長の剣がオーク達に絡め取られる。


クワイス団長にオークの槍が襲いかかる。


(それだけはさせない!)


アレカンドロは滑り込むようにクワイス団長の前に壁のように立つ。


オークの放つ槍はアレカンドロに襲いかかる。


「申し訳ありませんマルコイ殿。すぐにそちらに伺うといいましたが、出来そうにありません‥」


そう呟く。

そしてオークの放った槍がアレカンドロを貫く‥


「呼んだか?」


オークの放った槍はアレカンドロには届かず、代わりにここで聞くはずのない声がアレカンドロに届いた。


アレカンドロの目の前には銀髪で眠そうな目をした男が立っていた。


「ようアレカンドロ。少し困ってるみたいだな。ちょっと手伝ってやろうか?」

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