第282話

ロンギル共和国。


いくつかの小国家が集まり生まれた国である。

主に商業に力を入れており、他の国に比べて商業に関する課税が低く定められており商人には商いを行いやすい国となっている。


ロンギル共和国は共和国として建国する際にいくつかの決まり事を制定した。

その中の1つに共和国として騎士団を作らないと定めたのである。

これは集まった小国の中で特出した力を持つ国が現れないようにと定められたものである。

しかしロンギル共和国で商いを行う商人達にとって自分達の国を守る者がいない事は死活問題であった。

商いをする事で豊かになる国を守る事ができないのである。

他国が攻めてきたら自分達の蓄えが奪われるのを指を咥えて眺める事になってしまう。


それを恐れた商人達は国を、自分達を守る力を欲した。

その結果生まれたのが金で力を買うことができる傭兵達である。


傭兵達は自分達の価値を誇示するために集団となり傭兵団となった。


現在、ロンギル共和国では国として騎士団は持っていないが、お金を積めば騎士団並みの力を持つ傭兵団が商人の為に力を振るっているのだった。




その傭兵団の中の1つ『アウローラ』の拠点を1人の大柄な人物が訪れていた。


「アウローラ第4師団副団長のアレカンドロただ今戻りました!」


アレカンドロが訪れた部屋には1人の男がいた。

40歳前後くらいだろうか。

髪は濃い紫色で長く後ろで縛ってある。

その髪の中から狼の物と思われる耳が見えている。

古い傷だろう左眼の上に縦に切り傷がついている。

顔に多少の皺が浮かんではいるが、それがまた男の威厳を醸し出している。


「アレカンドロ‥声がデカい。俺しかいないし、この距離だとそんなに大きな声を出さずに十分聴こえるぞ。」


「申し訳ありません。クワイス団長!しかし自分はこれが普通の大きさです!」


クワイスと呼ばれた男は頭を抱える。


「わかったわかった。しかしよく戻ってきてくれた。なんとかモンスター討伐作戦に間に合ったぞ。」


「はい!大きな作戦と聞いたので急ぎ戻ってまいりました。」


「いや、それは助かったってのが本心だが、出来れば『闘技会優勝者に自分の力を試してきます。』って書き置き1枚置いておそろしく長い休暇を取るのはやめてほしい‥退団したのかと思ったぞ。」


「申し訳ありません。この傭兵団で自分とまともに闘えるのが団長しかいなかったもので。どこまで自分の力が世の中に通じるのか試したかったのです!」


「そ、そうか‥で、どうだった?闘技会優勝者の実力は?」


「はい。全く手も足もでませんでした。闘技会優勝者のマルコイ殿はもちろん、そのパーティメンバーの方にも勝てませんでした‥」


「なっ!お前が手も足も出なかったのか?流石に俺でもお前を相手するのは苦労するんだが‥」


クワイスは驚きの表情を見せる。


「はい。その他にも数名‥特にマルコイ殿とイザベラ殿、リュストゥング殿の3名は別格でした。おそらくSランク相当の冒険者と思われました。あとアキーエ殿、ミミウ殿もそれに近い力を持たれてました。それにキリーエ殿が出してくれる食べ物がとても美味しかったです!」


「お、おう。最後のはよくわからんがそれは良かったな‥団の広報にはならなかったがお前がいい経験を積めたは僥倖か。」


「はいっ!今回の作戦が終わったら、またマルコイ殿の元に行こうと思ってます!」


「い、いやそれは勘弁してほしいのだが‥と言っても無駄か‥まあ今回のような大きな作戦は稀だからな。しかし退団しないのであれば必要時は必ず戻って来いよ。どうしても大きな作戦の時はお前の力が必要だ。」


クワイスはアレカンドロを見ながらそう告げた。


「承知であります!自分にとってアウローラは家であり家族でありますから!」


それなら大人しく家にいてほしいと思うクワイスであった‥

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