第268話
冒険者ギルドを出てからは、それぞれに挨拶したい人に挨拶に向かった。
王都の中ではあるが念のため3人で一緒に行動する事にした。
王都の中だと、俺のスキル【察知】も察知する人数が多過ぎて意味がなくなってしまう。
街中で剣を抜いて戦うわけにもいかず俺も素手である程度は戦えると思うが、今回は格闘スキルを持っているアキーエにもついてきてもらう事にした。
とはいえそこまで王都にそれほど知り合いはいない為、王都出身であるキリーエの親や知人に挨拶する程度だった。
キリーエの実家に挨拶に行った時は男の俺は親から値踏みされた。
しかしAランクの冒険者カードを見せると「これからも娘を宜しく頼む!」と両親から言われてしまった。
キリーエの実家の商売も順調のようで、今はキリーエ以外の子供たちも商いを手伝っており経営は伸びているとの事だった。
キリーエがホット商会を俺たちとやっている事を聞くと大層驚いていた。
ホット商会は王国にもかなりの数の店を出店しているようだった。
幸いキリーエの実家は食材の販売を行なっており、ホット商会のお陰で売り上げも上がっているそうだ。
キリーエの商売と同じ路線ではなくてよかった。
その後は親子で商売の話をしていた。
キリーエも商人の顔になっていたな。
俺はやる事がなくてキリーエが話しているのをそれとなく聞いているだけだった。
しかしキリーエの親御さんの後ろにいる1人の人物の表情が気になった。
たぶんキリーエの兄弟なのだろうが、その男性が面白くなさそうな顔で2人の会話を聞いていたのだ。
おそらくキリーエの実家の商売を継ぐ人なのだろうが、兄妹が活躍しているのが面白くないのだろうか?
キリーエはホット商会で1人で様々な人たちと商売をしてきている。
キリーエに聞いた話だと胡散臭いような話もたくさんあったとの事。
1人で誰かの庇護なく商売を行い自分の商会を大きくして親と対等に話をしているキリーエと、庇護下で手取り足取り教えてもらってきた者とでは商人としての経験値が違う。
嫉妬しているのだろうが、変な事を考えないといいけど‥
挨拶が済んで帰ろうとしていると先程の男性が話しかけてきた。
「おいキリーエ!」
「ん?アルトス兄さんどうしたん?」
やはりキリーエの兄弟だったか。
「お前どんな汚い手を使ってそこまで商会を大きくしたんだ?お前がどれだけ大きな功績をあげようともこの家を、商会を継ぐのは俺だっ!」
う〜ん。
やっぱり拗らせてたか‥
たぶんキリーエは‥
「ええよ。うちは実家の商会には興味ないから。いや興味ないって言うのは嘘になるかな。今後もホット商会の取引先になるんやから。やから私情なんかで見誤らないで欲しいとは思てるよ。」
そうなるよな。
キリーエはホット商会の会長だ。
いや、会長は俺が名ばかり会長だったか‥
しかし実質キリーエがホット商会を動かしているんだ。
だから尚更実家の商会を継ぎたいなど思ってないだろう。
自分のやりたい事をやってるんだからな。
だからキリーエは暗にホット商会との取引をキリーエの事が気に入らないからって理由でやめたりするなよって釘を刺したんだと思う。
別にキリーエは他の商会と取引してもいいんだと。
キリーエは実家との取引も私情は挟んでいない。
自分の目で見て、実家の商会の商品がいいから取引をしている。
それはさっき親と話をしている時にわかった。
「ちっ!今に見てろよっ!」
そう言ってアルトスは去っていった。
「ごめんな、マルコイさん。変なとこ見せてしまって。」
「いや、別に構わないよ。しかしあの人は昔からあんな感じだったのか?」
「いや、昔は仲良かったと思うんやけどね。実家を継ぐってなってからギスギスしだして‥その頃から他の兄妹ともギクシャクしだしたんよ。それが嫌なのもあってうちは1人で商売したいと思って獣人国に行く事にしたんよ。そこでまさかマルコイさんみたいな人に会うとは思わんかったけど。どこが人生の分岐点になるかわからんもんやね。」
そうだなぁ。
俺たちもキリーエと出会わなかったら今はなかったと思うからな。
少しだけあのお兄さんに感謝かな。
しかしあんまり変な事考えないといいけど‥
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