第212話
「私の好きだった人が冒険者として亡くなった日から、少しでも私と同じように悲しむ人を減らしたくてやってる事なのよ。」
「亡くなったのか‥」
「そう。私達が中堅パーティだったころね。私は好きだったけど、もっとお互いが成長してから気持ちを打ち明けようと思ってたんだけど、その前にモンスターとの戦いで帰らぬ人になったの。だから私の想いは打ち明けないままになってしまったのよ。」
ありきたりだし普段だったら揶揄うところだけど、イザベラさんの真剣な顔をみると何も言えなくなる。
顔は怖いけどな。
「多分お互い両想いだったとは思うんだけど、肌を重ねる事なく私達は別れてしまったの‥」
うん。
それはないと思うけど、ここで言うには死を覚悟する必要がある‥
「いち冒険者としてだと手が届く範囲が狭いのよ。だから少しでも私達のような思いをする人が少なくなるように私はギルドを運営する側にまわったの。実際私がギルドマスターをしてから冒険者の死者数は減ってきたわ。」
「そうか‥」
イザベラさんの想いがギルドを変えたんだろうな。
「だから私はギルドマスターを、そして受付嬢を続けるの。マルコイちゃんのようなイケメンに会う事も出来るし、もしかしたら新しい恋が芽生えるかもしれないしね。」
それはご遠慮したいが、イザベラさんなりの照れ隠しなんだろうな。
この人がこの街のギルドマスターを続ける限りこの街の冒険者は安心して活動できるだろう。
「今回の緊急依頼で多数の冒険者が亡くなったわ。死んでしまう事も覚悟して依頼を受けたんだろうけど、残された方の悲しみは計り知れないわ。私達はお金を渡すことしかできないけど、せめてこういった緊急依頼で死んだ冒険者達の家族は最後までギルドで手助けするわ。だからマルコイちゃんは気にしてはダメよ。」
‥‥!
「隠しててもわかるわ。私が何年ギルドマスターしてると思ってるのよ。緊急依頼で冒険者が死ぬのはギルドの責任なの。決して一個人の責任ではないわ。だからギルドは死んだ冒険者に対して責任をとるんだから。」
はは。
お見通しだな。
そんなに暗い顔してたかな‥
「ありがとう。アキーエたちに励まされて気にしてないつもりだったんだけどな。」
「マルコイちゃんはイケメンだからわかりやすかったわよ。少し影のある感じでイケメン度が上がって格好よかったわよ。もう少し歳がいってたら惚れちゃってたわ。」
むう!
ダッシュで逃げようかと思ったが、まだ大丈夫のようだ‥
逃げても回り込まれるような気がするが‥
しかし確かに気が晴れたような気持ちだな。
俺のせいかもしれないって気持ちはまだあるが、仲間やギルドが一緒に背負ってくれてる気がする。
「イザベラさんと話せてよかったよ。闘技会も思いっきり闘えそうだ。本当にありがとうな。」
「どういたしまして。闘技会期待してるわよ。」
俺は手を振り、ギルドの応接室を後にした。
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