第133話

お互い間合いを測るように対面したまま動く。

ガッハルトが棍の先端を円を描くように動かしている。

棍の軌道を読ませないためか。

円の動きが途中で変化し突きを放ってきた。

いきなり顔を思いっきり狙ってきた。

怪我させる気満々か?

首を傾けて棍を避ける。


棍を手元に戻したガッハルトはニヤリと笑う。


「一応見えてはいるようだな。しかしスピードを徐々に上げていくぞ。ついて来れるか?」


そう言ってガッハルトは突きを三連続で放つ。

かなり速い突きだ。

まるで同時に迫ってきているようだ。

躱しきれないと思い、バックステップで距離をとる。


「いつまで逃げ切れるかな?」


ガッハルトが距離を詰めて再度突きを放つ。


「蛇槍突!」


真っ直ぐ迫ってきた棍が急に足元に向きを変えた。

驚きはしたが何とか横に避ける事に成功した。


しかし棍を手元に戻したガッハルトは体勢を崩している俺に向けて棍を放つ。


「蛇槍突!」


今度は足元に向かっていた棍が首元に迫る。

ギリギリで棍の軌道を剣でずらす。

棍は俺の首の皮を少し削りとる。


首から血が滴り落ちる。


「首の皮一枚ってところか。どうする降参するか?」


「いえ大丈夫です。動きが変化する突きには驚きましたが、だいたいわかりました。そろそろいきますね。」


確かに棍の変化には驚いたが、それだけだ。

カリーンさんの無理矢理斧を振り回してた方がびっくりしたぞ。

強さ的にはカリーンさんより少し強い程度かな。

Aランクに届くかってとこだ。


「生意気なっ!蛇槍突っ!」


ガッハルトが棍を放つ。


「それはもう2回も見た。もう当たらない。」


『エンチャント:風』


棍がこちらに迫ってくる。

変化して顔に向かうが、そこにはすでに俺はいない。

こちらに向かってくる棍の横を走り抜ける。

ガッハルトが棍を戻すよりも速く懐に潜り込む。

ガッハルトは慌てて軌道を変えようと棍を横に振る。

『エンチャント:火』

棍に木剣を叩きつけ弾く。

無防備になったガッハルトに木剣を袈裟斬りに叩きつける。

肩から木剣を喰らったガッハルトはよろめきながら地面に尻餅をつく。


「俺の勝ちでいいですか?」





呆然とした顔でガッハルトさんが俺を見上げている。

ハオランさんのところで気功を受けてから、魔力の巡りが恐ろしく高い。

悪いがガッハルトさんレベルの相手ならエンチャントも第一段階で圧倒できる。


「なるほど‥君は本物ってわけだな。試すような真似をしてすまない。プライベートで冒険者に思うところがあってな。」


「いえ構いませんよ。まあ少しはカチンときましたけどね。」


「はは。それは悪かったな。」 


なんとなく悪い人ではないんだろうなとは思っていた。

プライベートの件がとても気になるけど今は王様の前だから後で聞いてみよう。


「両者よくやった。楽しませてもらったぞ。」


ガッハルトは王様に向き直り膝をつく。


「国王陛下ご期待に添えず申し訳ございません。何なりと罰をお与えください。」


「なにを言っておる。ワシは楽しませろと言ったはずだ。充分楽しませて貰ったぞ。」


脳筋王様はやはり好感が持てるな。

大きな笑い声をあげている王様を見ながらマルコイはそう思った。

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