第84話

ついに俺の剣が完成した。

ダマスカス鋼を鍛造して作製した剣で、その剣身の表面には独特の縞模様が浮かび上がり見るものを惹きつける。

実際には異世界の知識でも正確なダマスカス鋼の作製方法は判明していない。


炭素量の多寡で結晶速度と、結晶の形状に差ができ、しなやかな鋼の樹状結晶の間を硬く、脆い鋼の結晶が埋めるような構造になったものと言われている。

その構造は鉄鉱石に含まれる微量のバナジウムが働いているからだとかなんだとか‥

しかしその異世界でもわかっていないダマスカス鋼を俺のスキル【剣匠】の力で無理矢理作ってやったわけである。

あとはこのダマスカス剣が本来のダマスカスブレードのように高い硬度を有しながらしなやかで折れず、欠けず、鎧を紙のように切り裂く仕上がりになっているかどうかである。


「これだけの剣は私も見た事がないですね。国宝級と言っても過言ではないと思いますよ。」


サミュウさんがそう言ってくれるので、おそらく大丈夫だろう。


店の外に出で、古びた廃棄予定の鎧を試し斬りしてみる。

エンチャント:火はもちろんのこと、さほど力も込めていないのに鎧はそれこそ紙のように斬る事ができた‥


「これどうぞ。鎧の留め具が壊れているのですが、鎧の強度自体はかなりの品です。」


サミュウさんに用意してもらった鎧に再度剣を振るう。

その鎧もやはりさほど抵抗なく斬る事ができた。


「やばいなコレは。斬れ味が良すぎて持っているのが怖くなるほどだ‥」


迂闊に扱ったら自分も怪我してしまいそうだ‥


片刃の剣に浮かぶ独特の縞模様。

俺は唯一無二の剣を手に入れる事となった。


「マルコイさん、同じのを作製する事はできそうですか?」


サミュウさんが尋ねてくる。

サミュウさんには物凄くお世話になったからな。

しかしミスリルを使用して同じ物をとなると十中八九失敗するだろうな‥


「ミスリルを使用しないで鉄鉱石で作製するのであれば可能かもしれません。ミスリルを使用するなら失敗覚悟で山のようにミスリルを用意してもらわないとダメでしょうね。」


「なるほど。しかし鉄鉱石で作製したとしても、今ある出回っているのもよりも一線を画す物が出来上がると思います。」


サミュウさんは確信した目で頷く。


「わかりました。それでも作製には俺のスキルが必要になると思います。なので俺が時間がある時にこちらにお邪魔してインゴットを作りますね。」


「ありがとう!インゴットを作ってもらった分の代金は支払うから。」


「いいですよ。ダマスカスで商品を作るにしても先立つ物が必要になりますよね。だから料金はいりませんが、ダマスカスで作製した武具を俺の知り合いの商人に少しおろしてもらえませんか?」


サミュウさんは驚いた表情でこちらを見ている。


「いいんですか?それだと無料でインゴットを作ってもらった上に商品まで買ってもらえることになりますよ?」


「いいんです。商売については信頼している仲間がいます。彼女なら十分過ぎるほどの成果を上げてくれると思います。そして多分サミュウさんが作るダマスカスはすぐに有名になって生産が追いつかなくなると思いますよ。」


「そんな‥‥ありがとうございます。必ず期待に応える品を作ります!」


「それじゃ時間がある時にインゴットを作りにきます。そして1番最初に俺の仲間のショートスピアの穂先を作ってもらっていいですか?」


「もちろん!お安い御用です。」


サミュウさんのお店は多分‥いや絶対に首都で1番の店になるだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る