第29話

いきなり確信をついてくるな。周りに人がいないからいいものを、いたら契約違反じゃないか?


「大丈夫ですよ。ちゃんと周りに人がいないのは確認してますから。」


この恵という女性‥

前回と印象が違わないか?前回はあやめの後ろに隠れるような感じだったと思うんだが‥


「もしかしてびっくりしてる?」


ふとあやめが声をかけてくる。


「あの子、この世界にきてから人の悪意に敏感になってて。もともとは頭のいい子だったんだけど、こっちでは少し塞ぎ気味でね。あんた達とは普通に話せてるみたいだからよかった。」


【異世界の知識】で知った事だが、こっちの世界は異世界と比べて人の生死が軽いからな。それに利用される為に召喚されてこっちの世界に来たんだ。最初から悪意ある人達に会う事になったんだろう。

長い黒髪の大人しそうな女性だったが、真っ直ぐにこちらを見つめる目は、今は自分の意思をしっかりと持った芯のある女性を感じさせる。


「そうだな。あんたたちから模倣した【異世界の知識】で得た料理だよ。」


すると恵はにっこりと笑う。


「やはりそうでしたか。私達の世界の事が全てわかるんですか?」


「いや、模倣した相手の知識レベルと等しくなるようで、簡単な物しかわからないぞ。例えばフライドポテトの作り方はわかるが、あんた達の世界にある自動車と言ったか?その作り方はわからないといった感じかな。」


「なら私達のスキルを模倣したら、もっと知識は得られるですかね?」


「さあどうだろうな?全員同じ歳なんだろう?似たり寄ったりじゃないのか?」


「誰か何かに卓越してるかもしれませんよ。私は料理も得意でしたし。」


「何が言いたいんだ?」


恵はこちらを見ながら、またも笑顔で告げる。


「マルコイさん、私のスキルも模倣されませんか?」


「は?」


突然、恵がそんな事を言い出した。恵にはまったくメリットはないはずだが‥

恵のスキルは【聖女】【属性魔法:聖】【異世界の知識】だったはず。【聖女】は模倣できないとは思うが、【属性魔法:聖】は回復魔法になるはずだ。

こちらとしては願ったり叶ったりではあるが、恵の意図が読めない。

素直にありがとうと言って模倣してもいいものやら‥


「大丈夫ですよ。特に何かをお願いする訳じゃないです。ただこの世界に来てはじめて友人になれる人達に会ったんです。できれば何か力になれたらなって思っただけですよ。」


こちらを見つめながら恵は続ける。


「それに‥1日たった今でも私達の周りはいつも通りでした。マルコイさんが私達の秘密を話さないでいてくれたんだなって。」


「だから‥」


そう言いながら、恵は自分のスキルカードをマルコイに渡す。


「私のスキルがそんなマルコイさんの役に立てたらいいなって。」


俺にメリットはあるが、恵にはデメリットはない。だがそんな事で言ってるのではないとわかる。

裏があるとも思えないし、本当にそんな事を思っているのだろう。

勇者だけではなく、仲間も頭の中身がお花畑だった。

しかし‥

自分を信じてくれているのはわかる。そのためか、単純に嬉しいと思ってしまった。

元々勇者たちの秘密を話すつもりはなかったが、余計に話す訳にはいかなくなったな。


「わかった、好意として模倣させてもらうよ。」


すると恵のギルドカードを持っているマルコイの手を恵が包み込む。


「彼の者を癒せ‥」


そう恵が呟くと、マルコイの身体が光に包まれる。


「これが【属性魔法:聖】になります。そしてそれ以外のスキルは【聖女】と【異世界の知識】ですね。」


(ピコーンッ)


『模倣スキルを発現しました。スキル【聖女】【属性魔法:聖】【異世界の知識】を模倣しました。


『スキル【聖女】は模倣できません。スキル【聖人】に変換します。現在のスキルレベルでは模倣できません。レベルによる開放までストックとして補完します。』


『スキル【異世界の知識】は模倣しています。模倣しているスキルに不足している物があったため、補足します。』


やはり【聖女】は模倣できなかったか‥

しかし【聖人】って‥俺が男だから変換されたのか?まあいい。これで傷を癒す手段を手に入れる事が出来た。何かあっても皆んなを守る事が出来る手段が1つ増えた事になる。


しかし‥

「模倣させてもらっといて言うのもなんだが、よかったのか?何のメリットもないだろうし。」


「いいんですよ。この世界で会った友人の役に立ったんですから。それに私達の秘密この先も黙っててくれるでしょ?」


はは。確かに。ここまでしてもらったんだ。この先秘密を誰かに言う事はないだろう。

もしかしてこれが狙いだったのか?


そう思って恵を向くと、笑顔でこちらを見つめていた。


「そうだマルコイ!ついでに私のスキルも模倣したら?」


「有り難く貰うぞ。」


ふむ。あやめには迷惑をかけられたから、遠慮なくいただいておこう。


「なんか恵の時と態度が違わない?」


あやめがムスくれているが違わんと言って宥めておく。


「私のスキルは【聖騎士】と【堅牢】【異世界の知識】ね。」


そう言いながらスキルカードを渡してくる。


「【堅牢】は防御スキルって言ったらいいかな。結界のような透明の壁を創り出すスキルよ。レベルが上がれば強度が上がり範囲が広くなるわ。大きさは自由に出来るけど、レベル1でも5メートル×5メートルくらいかな。」


あやめは堅牢スキルを使用する。しかし見てる側からは何の変化も見受けられない。


「私を叩いてみて。」


おう。迷惑かけられた恨みだ。マキシマムストレートをお見舞いしてやる。


かなりの力を込めた拳は見えない壁に当たり押し返される。


「今のが【堅牢】よ。だいぶ力が入ってたのが気になったけど、それと【聖騎士】と【異世界の知識】ね。」


(ピコーンッ)


『模倣スキルを発現しました。スキル【聖騎士】【堅牢】【異世界の知識】を模倣しました。


『スキル【聖騎士】は現在のスキルレベルでは模倣できません。レベルによる開放までストックとして補完します。』


『スキル【異世界の知識】は模倣しています。模倣しているスキルに不足している物があったため、補足します。』


ふむ。恵の時とほぼ一緒か。しかし流石に勇者パーティのスキルだな。ここで防御スキルまで手に入れる事ができるとは。


すると突然大きな音が鳴り響く。

その音を聞いたポテート屋のおっちゃんが慌てて店を片付けて出す。


「おっちゃん、この音は何だ?」


「知らないのかっ?この音は王都の緊急警報だ。この音が鳴ったら住民は避難するんだよ。」


避難?何か王都に危機が迫ってるのか?


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