第64話 友達と彼女

 翌日、夜。

 勇は今日も無事にレクチャーの仕事を終えた。

 そうしてすぐさま木村へフィードバックを行い、食事や風呂も済ませるとヘッドギアを装着。

 プライベートとして楽しむため、再びドリームファンタジーの世界に旅立った。


【始まりの街】に現れた勇は辺りを見回すと、ベンチの一つに見知った顔ぶれを見つける。

 これから遊ぶ約束をしているルシファー、デストロイ、レイリー。

 ギルド【ダークフェイス】の面々だ。


「――お待たせ!」

「おっ、来たか!」

「こんばんはっす!」

「よくぞ来てくれた我が同士よ!」


 声を掛けながら駆け寄った勇を三人は笑顔で迎える。

 それから楽しく雑談していると、突然レイリーが不思議そうな顔をした。


「なんかチューおじ、今日はいつも以上に機嫌いいな」

「うむ、言われてみれば確かに」

「何かいいことでもあったんすかー?」


 確かに昨晩からすこぶる機嫌がいい。

 理由はもちろん、由香とよりを戻すことができたからだ。

 どうやらその喜びが無意識に、言動に表れていたらしい。


「ははっ、実はさ――」


 別に隠すようなことでもない。

 そう考えた勇は元カノとゲーム内で再会したこと、つい先日復縁したことを話した。


「フッ、道理で機嫌がいい訳だ。よかったではないか」

「やったじゃねーか!」

「おめでとうっす!」


 すると、三人は明るい笑みを浮かべて祝福してくれた。

 そんな彼らに勇もお礼の言葉を返していると、ルシファーが何か思い立ったらしく「おっ!」と声を上げた。


「チュートリアルおじさんよ、明後日は貴公も来てくれるのだろう?」

「カイト君が言ってたやつ? それならもちろん!」


 カイトの発案により、【アグレアーブル】【はぴねすとろんぐ】【ダークフェイス】の三ギルドがまた合同で遊ぶらしく、そこに勇も呼んでもらえた。

 その約束の日が明後日だ。


「それは何よりだ。でだ、せっかくの機会故、貴公の想い人も一緒にどうだろうか?」

「えっ? 彼女を連れてこいってこと?」

「うむ、その通りだ!」

「おお、それいいじゃん! 俺もチューおじの彼女見てみてーし!」

「だな! よければ紹介してくださいよ!」


(紹介か……。確かにいい機会かもな)


 以前、由香にルシファーやシュカを始めとした友達のことを話した時、『私もいつか会ってみたい』と言っていた。

 勇自身も由香に大切な友達のことを、友達に大事な彼女のことを知ってほしいという気持ちもある。


「……わかった! 彼女に聞いてみて、OKだったら連れてくよ!」


 そう言うと、三人から「おおっ!」と歓声が上がった。


「楽しみにしておこう。貴公の想い人が来るかもしれないという旨は、我のほうから皆に伝えておく」

「あ、うん。よろしく!」

「うむ! ……さて、話も落ち着いたことだ。そろそろ行くとしよう」



 ☆



 数時間後。

 ルシファー達に別れを告げ、【始まりの街】に戻ってきたところで勇はゲームからログアウト。

 一息ついてからスマホを見ると、数分前に由香から『今飲み会終わったよ!』とメールが届いていた。


 だったら今なら大丈夫か。

 そう判断した勇は由香に電話を掛ける。

 すると、ワンコール鳴り終わらないうちに声が聞こえてきた。


『もしもし、勇君?』

「あ、もしもし。今大丈夫?」

『うん! 駅に向かって歩いてるところだから!』

「ならよかった! あっ、飲み会お疲れ様。大変だったでしょ?」

『うん、偉い人ばかりでほんと疲れた! でも勇君の声聞いて元気出てきたから、もう大丈夫!』

「そ、そう? ……俺も由香の声聞けて仕事の疲れが吹っ飛んだよ!」

 

 復縁したてということもあり、存分にイチャつく二人。

 そんな会話がしばらく続き、ようやく落ち着いたところで勇は本題に入った。


「――あっ、そうそう。由香に相談したいことがあるんだけど」

『ん、どうしたの?』

「前に話したゲームで知り合った友達のこと覚えてる?」

『あっ、うん! 名前はちょっと忘れちゃったけど!』

「そっか。それで明後日、またみんなで集まる約束してるんだけど、よかったら由香も一緒にどうかな?」

『えっ、私も? いいの?』

「うん。友達も会いたがってたからさ!」

『そうなんだ! そういうことならぜひぜひ!』

「よかった! また詳しいことはメールで送っとくね」

『了解! ……あっ、駅ついたからもう電話切るね』

「そっか! じゃあまた。帰り気を付けて。おやすみ!」

『うん、ありがと! おやすみー!』


 その言葉が聞こえたと同時に電話が切れた。

 それを確認した勇が時計を見ると、時刻はもう0時前。

 明日の仕事に備え、今日はもう休むことにした勇であった。



 ☆



 二日後。

 勇と由香はギルドホームに繋がる転移の魔法陣前に立っていた。

 そこで勇が魔法陣上に設置されたパネルに数字を入力すると、次の瞬間、二人はピンクを基調としたメルヘンな部屋に転移した。

 シュカやナナが所属するギルド【はぴねすとろんぐ】のギルドホームだ。

 既に皆揃っているようで、二十名ほどの人影がある。

 

「でね、ガイアお兄ちゃんが――あっ、おじちゃーん!」

「こんばんは、シュカちゃん! それに他のみんなも!」

「おう! ……で、その人は?」


 由香を見たカイトが不思議そうな顔で尋ねてくる。


「あっ、紹介するね。えっと、こちらは俺の彼女で――」

「「「「か、彼女!?」」」」


 驚愕の声が同時に上がり、由香に視線が集中した。

 まるで初耳と言わんばかりの反応だ。


「……ん? あの、ルシファー君。みんなに伝えておいてくれたんじゃ?」


 ルシファーに向かってそう言うと、彼は「フッ」と笑った。


「我としたことがすっかりと忘れていた。……すまない」

「す、すみません! こいつを信用せずに僕が伝えておけば……」

「わりい! 俺もみんなに言うの忘れてたわ!」


 ルシファーと共にデストロイとレイリーが頭を下げてくる。

 なるほど、道理でみんな驚く訳だ。と勇は納得しつつ、苦笑した。


「あっ、全然大丈夫だから気にしないで! じゃあ改めてみんなに紹介するね。こちらは俺の彼女でプレイヤー名はユカ!」

「いさ……えー、ジーク君の彼女のユカです! 皆さん、よろしくお願いします!」


 勇に続いて由香が挨拶すると、あちこちから「こちらこそ!」と温かい言葉が返ってきた。

 愛する彼女が大切な友達に受け入れてもらえた。

 そのことを嬉しく思っていると、


「かのじょってなあに?」


 横からそんな声が聞こえてきた。

 どうやらシュカはまだ『彼女』という言葉の意味がわからないらしい。


「えっとね、この人はおじちゃんの大切な人なんだ!」

「大切な人?」

「うん! 世界で一番大切な人!」


 そう言うと、シュカは顎に手を当てる。

 そして少しの間を置いてから、何か閃いたかのように「あっ!」と声を上げた。


「わかった! お嫁さんだ!」

「お、お嫁さん?」


 予期せぬ言葉に面食らい勇が目を白黒させる中、由香が膝を折りシュカと目線の高さを合わせた。


「うん! 将来のねっ!」


 堂々と言い切る由香にタジタジになってしまう勇。

 そんな勇の反応に周囲から笑いが起きた。


 その後、勇は皆から愛のあるイジりを受けつつゲームを楽しんだ。

 この日から、友達と遊ぶ時は由香も同行するようになったことは言うまでもないだろう。

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