第59話 打倒デュラハン(後編)

 作戦会議を終えた勇達は転移の魔法陣を経由し、デュラハンのもとにやってきていた。

 そうして皆で改めて作戦を確認している最中、


「――すみません、お待たせして」

「お待たせしました!」

「「しましたーっ!」」


 離れて作業していたエレナ、ココノ、ミュウ、カイザーの四人が戻ってきた。

 辺りを見回すと、あちこちに配信用のパネルが設置されている。


「うむ。では、二人とも頼む」


 ルシファーのその言葉に、エミとミュウが頷く。


「「さらなる力よ、彼の者の刃に宿れ! シャープエッジ!」」


 そして武器の威力を高める光魔法を発動。

 カイトの大剣とカイザーの槍が光を帯びた。


 それから二人は手分けして、他のメンバーにも同じようにシャープエッジを掛けていく。


「エミさん、ミュウさん、ありがとう! じゃあ、みんな配置に!」


 カイザーの指示に従い全員が移動を始め、各々自分のポジションについた。


 カイザー、カイト、シュカ、タカシ、デストロイ、レイリーの六人は前衛として、先頭に。

 その右斜め後方に後衛攻撃役の勇、ルシファー、リオン、エレナ、ココノの五人。

 左斜め後方に回復役のエミ、ナナ、ミュウの三人が陣取る。


 片手剣特化の勇が前衛ではなく後衛なのは、レベルが低いためにデュラハンの攻撃を一度すら耐えられないからだ。


「よし。みんな始めても大丈夫かな?」


 カイザーが問うと、全員が頷いた。


「じゃあ、いくよ!」


 それを確認したカイザーは言い終えると同時、一人で飛び出していった。

 そうして残り数メートルのところまで近づくと、静止していたデュラハンが槍を構えた。


 直後、デュラハンはカイザーとの距離を一瞬で詰め、大きく腕を引いてから槍を突き出した。

 が、それをカイザーは身体をひねって容易たやすく回避。


「――マーシレスアサルト!」


 そのまま槍の第四特技を発動させた。

 三連突き・左右への薙ぎ払い・渾身の一突きと、刺突と斬撃のコンビネーションを繰り広げる。

 それと同時、後ろでジッと待機していた前衛五人のうち、デストロイが地面を蹴った。


 ほどなくして攻撃動作を終えたカイザーに、デュラハンが何度も槍を突き出す。

 今度はかわせず、カイザーは槍の第二特技――クイックティルトをその身に浴びてしまった。


 デュラハンが放つ特技や魔法は威力が非常に高く設定されており、あのカイザーですら二撃目は耐えられない。

 なので、被弾してしまった今、カイザーはもう一度攻撃を喰らう訳にはいかないのだが、デュラハンの攻撃は出が早く、そう簡単に避けられるものではない。


 今から回復魔法を掛けようにも、もう間に合わないだろう。

 それを証明するかのように、デュラハンはカイザーに向かって再び腕を大きく引いた。

 ――その時だ。


「リーサルストライク!」


 走り出していたデストロイが斧の第四特技を発動させた。

 前方に高く宙返りをし、落下の勢いを乗せ、デュラハンに上段から斧を叩きこむ。


 そのままデストロイはバックステップを繰り返して距離を取る。

 すると、デュラハンは目の前のカイザーを放置し、一目散にデストロイのもとへ向かっていった。


「優しき風よ、集いて彼らを癒したまえ! ヒールウインド!」

「「慈悲深き女神よ、聖なる光で彼の者を救いたまえ! メガヒール!」」


 直後、ナナが風の第三魔法、エミとミュウが光の第四魔法でカイザーを回復。


(おおっ! 上手くいってるぞ!)


 先の作戦会議にて、それぞれが持つ情報を整理した結果、デュラハンが使用する特技や大体のダメージ量など様々なことが判明した。

 中でも有益だったのが、「デュラハンは直近数秒~数十秒で最もダメージを与えたプレイヤーを狙って攻撃する」というものだ。


 それはダメージ量を調整すれば、デュラハンの攻撃の矛先をこちらでコントロールできるということに繋がる。


 そこで勇達は気付いた。

 まず前衛のうちの一人が大ダメージを浴びせ、注意を引き付ける。

 攻撃を食らってしまったら、別の誰かが大ダメージを浴びせることで自分に矛先を向けさせる。

 そうすることによって、最初にターゲットを取ったプレイヤーは二撃目を喰らわずに済む。

 デスさえしなければ回復でき、全快したら再び前線に復帰できる。


 これを繰り返せば誰一人欠くことなく、安定して戦い続けられるということに。


 問題は本当にこの作戦が上手くいくかどうかだったが、ここまでは想像通りに事が運んでいる。


「よし! 俺達も始めよう!」


 勇がそう言うと、隣に立っているルシファー、リオン、エレナ、ココノが頷いた。


「フライングエッジ!」

「アローレイン!」

「闇より来たれ、漆黒の牙! 仇なす者を喰らい尽くせ! ダークネスバイト!」

「凍てつく冷気よ! 蒼き剣と化し、仇なす者を切り刻め! フリジットブレード!」

「猛き風よ、此処に集いて吹き荒べ! ホワールウインド!」


 そして後衛五人は同時に術技を発動。

 デュラハンに向かって斬撃や黒い牙など、様々な攻撃が向かっていく。


 ここで四つ目に覚えられる魔法や特技を使用しないのは、敢えてダメージ量を抑えることで、自分達にターゲットが切り替わらないようにするためだ。


 少しして五人が放った攻撃は見事デュラハンに命中。

 しかし、それと同時にデストロイもデュラハンから攻撃を喰らってしまった。


 その直後――


「フェイタルチャージ!」


 大剣の第四特技を発動させたカイトが凄まじい勢いでデュラハンに接近し、そのまま斬り抜ける。

 すると、デュラハンはそれまで相手をしていたデストロイを気にも留めず、カイトのほうに向き直った。


 それを確認したヒーラー三名がデストロイを回復していると、距離が離れているからかデュラハンはその場を動かず、カイトに向かって手を伸ばした。

 手の先に瞬時に魔法陣が描かれ、そこから巨大な火球が放たれる。

 炎の第三魔法――インフェルノブレイズだ。


「くっ!」


 コンピューターならではの無詠唱魔法に反応が遅れてしまったようで、カイトは迫り来る火球を避けられずに被弾。

 そんなカイトに向け、デュラハンがもう一度手を伸ばした。


「スターリーサイン!」


 その瞬間、既に走り出していたシュカが、五芒星を描くように背後からデュラハンを斬り刻む。

 すると、デュラハンは即座に振り返り、シュカ目掛けて大きく腕を引いた。


 その時、デュラハンの身体に黄色い五芒星が浮かび上がったかと思うと、何もせずに腕を下ろした。

 スターリーサインの追撃が発生したことにより、攻撃モーションが解除されたようだ。


 おかげで攻撃を喰らわずに済んだシュカは背中を向け、タタタタッと走り去る。


「優しき風よ、集いて彼らを癒したまえ! ヒールウインド!」

「「慈悲深き女神よ、聖なる光で彼の者を救いたまえ! メガヒール!」」


 その間にヒーラー三名はカイトを回復。


「フライングエッジ!」

「アローレイン!」

「闇より来たれ、漆黒の牙! 仇なす者を喰らい尽くせ! ダークネスバイト!」

「凍てつく冷気よ! 蒼き剣と化し、仇なす者を切り刻め! フリジットブレード!」

「猛き風よ、此処に集いて吹き荒べ! ホワールウインド!」


 後衛五人は遠距離から攻撃を浴びせる。

 そしてもう一度同じ術技を発動させ、デュラハンにダメージを浴びせたところで――


「わっ!」


 身体の小ささを活かして懸命に逃げ回っていたシュカも、とうとう攻撃を浴びてしまった。

 だが、心配はいらない。

 なぜなら――


「トーメントピアッシング!」


 近くでタカシが待機していたからだ。

 短剣の第四特技の発動により、両手に握った短剣の刀身が虹色に光り、何度もデュラハンを突き刺す。


 この技は命中した相手に麻痺・毒・鈍足、いずれかの状態異常を50%の確率で付与するという効果がある。

 しかし、単に運が悪かったのか、それともそもそもデュラハンには無効なのか、どちらかはわからないが今回はその50%を引けなかった。


 だが、何ら問題はない。

 トーメントピアッシングは効果が強力であることに加え、純粋に威力も高く、敵視ヘイトを取ることは可能だからだ。

 その証拠にデュラハンはタカシに釘付けになっている。


 これでシュカに攻撃が向かうことはない。

 そのことを把握したエミ、ナナ、ミュウがシュカを回復する。

 勇達、後衛は引き続き遠距離からダメージを与えていく。


 それから少ししてタカシも攻撃を喰らってしまうも、


「フェイタルチャージ!」


 すぐさまレイリーがターゲットを取りにいったことで、タカシは事なきを得た。


(よし!)


 今のところは何の問題もなく、上手くいっている。

 このままいけば勝てるかもしれない。


 勇がそんなことを考え出した、その時――


「ヒヒーン!」


 突然、馬が鳴き声を上げつつ大きく立ち上がった。

 直後、上に跨っているデュラハンが天に向けて手を伸ばす。


 すると、前衛六人の頭上高くに大きな魔法陣が描かれ、そこから超巨大な火球が現れた。

 炎の第四魔法――クリムゾンボーライドだ。


「あっ……」


 第三特技・魔法であの威力なのだ。

 あの高レベルの彼らであっても、まともに喰らえば耐えられないだろう。

 かといって、今更避けられるほどの猶予もない。


(くそっ! これで終わりか!)


「「優しき風よ、集いて彼らを癒したまえ! ヒールウインド!」」


 諦めかけた勇の耳に、二人の女性の声が届く。

 その直後、火球が地面に激突し、前衛六人は大爆発に飲みこまれた。


「おおっ!」


 爆発が落ち着き、ようやく視界が回復した勇の目に映ったのは前衛六人の姿。

 カイザー、カイト、シュカ、タカシ、デストロイ、レイリー。誰一人としてデスしていない。


 恐らく彼らのHPがゼロになる直前に、先ほどナナとココノが唱えた範囲回復魔法――ヒールウインドが届いたからだろう。

 二人の咄嗟の判断により、最悪の事態は避けられた。


 だが、ピンチであることに変わりはない。

 前衛六人のHPが残り僅かである以上、先ほどまでの作戦が通用しないからだ。


 そもそも、もう一度クリムゾンボーライドを使われたら今度こそ耐えられない。


(こうなったら!)


「みんな! プランBでいこう!」


 勇は大声でそう言うと、全員から承諾の返事が返ってきた。


 プランB。

 作戦が通用しなかった時のために用意していた、後のことは考えずとにかく各々が最大打点を叩き込むというゴリ押しプランである。

 これでHPを削り切れれば勇達の勝ち、耐えられたらデュラハンの勝ちだ。


「フライングエッジ!」


 勇は早速、フライングエッジを発動。

 剣を下から上に振り上げるように身体が動き、その軌道が実体化して飛んでいく。


 同じく他の皆も特技を発動させたようで、様々な攻撃が繰り広げられた。


 ひと呼吸おいて、詠唱を終えた術者達の魔法が届く。

 頭上の魔法陣から光線が降り注ぎ、地面に描かれた魔法陣からは巨大な竜巻が現れ、デュラハンを襲う。


 さらに一歩遅れて、より巨大な魔法陣が地面に描かれた。

 そこからヌッと死神が出現し、両手で鎌を大きく一振り。


 命中したデュラハンはキラキラとした粒子となって消え去った。


(おおっ!)


「うおおおおぉぉ!!」

「勝った……!」

「よーしっ!」

「やったぜ!」

「しゃあっ!」


 次の瞬間、あちこちから歓喜の声が上がる。


<レベルが29に上がりました>

<【ライフエリクシール】を3つ獲得しました>

<【マジックエリクシール】を3つ獲得しました>

<【EXPポーション】を3つ獲得しました>


 ほどなくして、目の前にシステムメッセージが表示された。


「お、何だろう?」

「何かゲットしたー!」

「いいアイテムだったらいいなー!」


 皆、勝利を喜ぶのはそこそこに、メニューウインドウの操作を始めた。

 それに釣られて、勇も手に入れたアイテムの詳細を確認してみることに。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


【ライフエリクシール】

分類:消耗品

説明:HPを完全に回復させる


【マジックエリクシール】

分類:消耗品

説明:MPを完全に回復させる


【EXPポーション】

分類:消耗品

説明:使用してから一時間、モンスターとの戦闘で得られる獲得経験値が二倍になる


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


(う、うーん……)


 派手さはないが、いずれも確実に役立つ魅力的なアイテムだ。

 だが、てっきり強力な武器や装備品が手に入ると思い込んでいたこともあって、勇は何とも言えない気持ちになった。


「えー、消耗品ー?」

「悪くはねえが……」

「武器が欲しかったなぁ」

「ですねー……」


 どうやら他の皆も同じアイテムだったらしく、どこかガッカリとした様子を見せている。

 そんな中、ルシファーがわざとらしく咳払いをし、視線を集めてから口を開いた。


「皆、今宵は本当によくやってくれた! 皆のおかげで我らは宿願しゅくがんを果たすことができた。改めて礼を言う!」

「あっ、ありがとうございました!」

「ありがとな! おめーら全員、最高だぜ!」


 ルシファーに、デストロイとレイリーが続く。

 その言葉に勇はもちろん、他の皆も顔を綻ばせた。

 それから彼らもルシファー達にお礼を言い返し、それがひと段落したところで――


「よし! では、これからデュラハン討伐の宴を我が暗黒魔城で執り行うとしよう!」


 ルシファーが両手を広げながら、そう切り出した。

 その瞬間、ダークフェイスの三名と勇を除く全員がピタリと硬直した。


「えっ? またあの暗い部屋行くの……?」

「あんこくまじょー、お化け出そうだから行きたくない……」

「あそこ居ると、気が滅入るんだよな……」

「た、確かに。ルシファー君達のことは好きだけど、あのギルドホームはちょっと……」


 あちこちから小声でそんな会話が聞こえてくる。


「むっ? 皆、どうしたのだ?」

「あ、いえ、何でも!」


 尋ねてきたルシファーに、エレナが両手を振りながら答える。


「そうか。ならば、早速向かうとしよう! 皆の者、ついてくるがいい!」


 そう言って、ルシファーは背を向けて歩き出した。

 その背中を他の皆は溜め息を吐きながら、とぼとぼと追いかける。


 そうして結局、暗黒魔城に移動した勇達一行は互いに健闘ぶりを讃え合い、それぞれフレンド登録を行った。

 その様子を勇はニコニコとしながら見守っていた。

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