第56話 第二回イベント本番 その7
【はぴねすとろんぐ】と【アグレアーブル】が戦闘を始めたのと同時刻。
<【お知らせ】イベント終了まで残り15分です>
草原を歩いているカイザー達【リバラルティア帝国】の前に、システムメッセージが表示された。
「――あっ、あと15分だそうですよ!」
「もう終わりかー。時間過ぎんの速えな」
「そうだね。よし、残り15分! 最後まで気を抜かず、ラストスパート頑張ろう!」
「「「「おー!」」」」
カイザーの言葉に、メンバー達にも一層気合いが入る。
そして一枚でも多くのメダルを集めようと再び歩みを進めていると、
「あっ、見てください!」
メンバーの一人――レンジが何かを見つけたようで声を上げた。
指の先には、こちらに向かって走ってきている仮面をつけた複数のプレイヤーの姿があった。
匿名掲示板の書き込みを元に誕生したギルド【ナンバーズ】である。
偶数組と奇数組で別れて行動していた際、エレナにシックスが、ルシファー達にナインが倒されてしまったため、残っているのは八名だ。
「うぇー。何か不気味ぃ」
「八人か。俺達と一緒だな」
一方、【リバラルティア帝国】は未だ脱落者を出していない。
それにより、フルメンバーである八名が残っており、
「だね。それで、相手の構成はっと――」
カイザーは迫り来る一団の手元に目を凝らす。
「魔法使いが四人。弓が一人。残りが近接、か。今の弓隊は……リサリサさんとレンジ君だね。二人で魔法使い四人、いけるかな?」
「「はいっ!」」
「よかった! なら、このまま行こうか。……みんな、準備はいいかな?」
カイザーの言葉に全員が頷きで返した。
「よし! じゃあ、いこう!」
「「「「おー!」」」」
一行は同時に走り出す。
そうして互いに距離を詰め、魔法および弓の射程圏内に入ると、相手の術者四人は立ち止まって一斉に手を伸ばしてきた。
直後、手の先に巨大な魔法陣が描かれていく。
「えいっ! それっ!」
「はい、はいっと!」
しかし、四つの魔法陣はすぐに消え去った。
リサリサとレンジが放った矢が直撃したからだ。
それと同時、両ギルドの前衛同士が衝突した。
カイザーの相手は大剣を握った男――【ナンバーズ】のリーダーであるゼロだ。
「ブレイドダンス!」
先に仕掛けたのはゼロ。
踊るように大剣を右へ左へと振り回す。
カイザーは屈みとバックステップで懸命に避けようとするも、全ては
かなりのダメージ量だが、カイザーに焦りは全く見られない。
なぜなら――
「優しき風よ、
ヒーラーのうさぴょんが回復魔法を掛けてくれるとわかっていたからである。
「インペイル!」
「
ほぼ全回復したのと同時、カイザーは一歩踏み込んで槍を突き出した。
攻撃は見事命中し、金色に染まった槍がゼロを貫く。
「ホワールウインド!」
さらに唯一の後衛アタッカー――メノーが唱えた風魔法により、竜巻がゼロを襲う。
一方でカイザー達に魔法が放たれることも、相手の前衛が回復されることもなかった。
それもそのはず、弓隊のリサリサとレンジが今も詠唱を阻止してくれているからだ。
相手の弓使いも同様に、先ほどからこちらの術者の詠唱を阻止しようと矢を放っているが、その矢が後衛の身に届くことはない。
「岩石よ。せり上がりて、我が身を守る
サポーターのロイが絶えず岩壁を発生させ、自身含めて二人を守っているためである。
メンバーのスキル構成次第では、相手は既に詰みの状況だ。
しかし、さすがは終盤まで生き残っているだけあって、そんなに単純な相手ではなかった。
後衛が機能しないとわかるや、術者二人と弓使いがメニューウインドウを操作し、杖と弓を近接武器に持ち替えて前進してきた。
遠距離がダメなら、直接後衛を殴ってやろうと考えたのだろう。
だが、カイザーはそれを許さない。
「レンジ君! ロイ君! 二人とも前に!」
相手の動きを横目で確認したカイザーはゼロと応戦しながら、後衛二人を守っていたロイと弓隊のレンジに指示を出す。
「はいっ!」
「おう!」
二人は返事をすると、相手がしたのと同じようにメニューウインドウを素早く操作し、近接武器を手に前に出た。
そして後衛から前衛に転身した三人を足止めする。
その間にヒーラーのうさぴょんは範囲回復魔法で前衛全員を同時に回復し、後衛アタッカーのメノーは魔法で相手を攻撃。
リサリサは引き続き矢を放って、術者の動きを止めている。
状況は変わったが、【リバラルティア帝国】の優勢は変わらない。
このままいけば勝てる。カイザーがそう考えた瞬間――
「カイザーさん! MP切れそうです!」
「僕もです!」
うさぴょんとメノーからよろしくない報告が上がった。
しかし、それでもカイザーは動じない。
MP切れは最初から予想していたことだったからだ。
「了解! じゃあまず、うさぴょんさんはリサリサさんとチェンジ!」
カイザーがそう言うと、ヒーラーのうさぴょんと弓隊のリサリサは同時にメニューウインドウを開いた。
素早く指を動かし、うさぴょんは杖から弓、リサリサは弓から杖に武器を持ち替える。
そうしてうさぴょんは弓隊として相手の術者の妨害、リサリサはヒーラーとして前衛の回復を始めた。
それを確認したカイザーは、ゼロの攻撃を躱しつつ続ける。
「メノー君はクレジュウ君と!」
指示を受けたメノーは杖から斧に持ち替えて前に出ると、クレジュウが応戦していた相手に攻撃を開始した。
一方のクレジュウはバックステップを繰り返し、レイピアから杖に持ち替えて魔法の詠唱を口ずさむ。
これでMP切れの問題は解消された。
もう【リバラルティア帝国】の勝利は揺るがない。
カイザーがそう確信した、その時――
「
魔法の詠唱が耳に届いた。
カイザーはハッとして、急いで相手の後衛に目を向ける。
すると二人居る魔法使いのうち、大柄な男がもう片方の小柄な男の首根っこを掴んでいた。
小柄な男の腹部には三本の矢が突き刺さっている。
どうやら小柄な男を盾にすることでうさぴょんの攻撃から身を守り、無理矢理詠唱を通したようだ。
「クリムゾンボーライド!」
直後、上空に展開された魔法陣から巨大な火球が出現。
それぞれ相手と応戦中の前衛五人は背を向けて逃げ出す訳にもいかず、火球と地面の衝突によって引き起こされた大爆発に飲み込まれた。
カイザーはすかさずHPに目を向ける。
すると、3分の1を下回ってしまっていた。
さすがは第四魔法、かなりのダメージだ。
そのまま状況を確認すると、皆デスこそしていないが焦りの表情を浮かべていた。
「――優しき風よ、集いて我らを癒したまえ! ヒールウインド!」
ほどなくして、リサリサの回復が身に届く。
しかし、すぐに相手の攻撃を被弾してしまい、回復量を上回るダメージを負ってしまった。
「くそっ!」
魔法の命中に勢いづいたからか、相手の動きが先ほどよりもいい。
加えて焦りも手伝って、先ほどまでのように上手く攻撃を躱せない。
他の皆も同じようで、素直に攻撃を喰らってしまっている。
今もリサリサが懸命にヒールウインドを掛けてくれているが、回復するや否や削られていく。
圧倒的優勢から一転、【リバラルティア帝国】は苦境に立たされた。
「トレブルスピア!」
だが、ここで諦めるカイザーではない。
槍を振り回しながら、何かこの状況を打破できる方法はないか思考を巡らせる。
その末に、カイザーは一か八かの賭けに出ることにした。
「……ふふふ。君達やるね! まさかこんなに強いなんて! このままじゃ負けそうだから、僕もそろそろ本気でいかせてもらおうかな!」
カイザーは全員に聞こえるよう大声で言うと、隙をついて大きくバックステップした。
そして真剣な表情を浮かべ、槍の穂先をゼロに向ける。
「……見せてあげるよ。僕の第五特技をね」
その言葉に、相手は一瞬動きを止めた。
第五特技はかなりのポイントを割り振らなければ習得できず、未だそこまでレベルを上げたものがいないからか、攻略サイトなどにも情報が出ていない。
そんな幻とも言える第五特技の発動宣言。
驚くのも無理はない。
「……へっ! これで俺達の勝ちだ!」
「ら、ラッキー! カイザー様のとっておきを見られるなんて!」
「あ、あの技が出るぞ!」
「……避けたほうがいいですよ? 一撃で死んじゃいますから!」
応戦しながら視聴者達が騒ぎ立てる。
少しして、【ナンバーズ】の前衛達はバックステップを繰り返して距離を取った。
ただでさえ超強力な第四特技のさらに上。
喰らえば間違いなくデスは避けられず、一瞬で戦況がひっくり返されてしまうと考えたからだろう。
期待通りの反応にカイザーはニヤリと笑い、口を開いた。
「みんな、左の三人を!」
そう言うと、弓持ちのうさぴょんを除く全員が下がった相手の前衛に向かって手を伸ばした。
「
七名の詠唱が重なる。
「ソーンピアース!」
そして一斉に術名を発した。
魔法陣から絡まって槍状になった
既にだいぶ削っていたからだろう。
魔法が命中した相手の前衛三人は粒子となって消え去った。
その間も相手の術者二人が魔法を唱えようとしていたが、うさぴょんがそれを阻止。
「よし、今だ!」
「「「「おー!」」」」
カイザー達は走り出し、残りの前衛三人に特技を放つ。
人数差もあって相手は攻撃を
そのまま守りを失った後衛に突っ込んでいき、怒涛の攻撃を浴びせる。
言うまでもなく、相手はすぐさま粒子と化した。
――全滅。
カイザー達の勝利だ。
「……ふぅ。みんなお疲れ!」
「はいっ! いやぁ、強かったですね!」
「ほんとにな! ちょっと危なかったぜ」
「ねー! 負けちゃうかもってヒヤヒヤした!」
「えー、そう? あたしはカイザー様が何とかしてくれるって思ってたから全然だったけど!」
緊張から解放されたことで和気藹々と話すことしばらく。
<おめでとうございます! 優勝はあなたのギルドです。これからインタビューを致しますので、そのままお待ちください>
ふと、全員の前にシステムメッセージが表示された。
それを見た一行は驚きの表情を浮かべて顔を見合わせ――
「「「「やったー!」」」」
歓喜の声を上げるのだった。
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