第53話 第二回イベント本番 その4
ギルド【オヤジ達の集い】は落ちているメダルを集めつつ、雑魚モンスター狩りに精を出していた。
「――ショウイチ君!」
「任せとき! スライスランジ!」
レイピアの第一特技――スライスランジの発動により、ショウイチは右手に握ったレイピアで二足歩行の巨大なカエルを三回突く。
すると、カエルは粒子となって消え去った。
<【お知らせ】14時まで残り10分です。14時の時点で平均所持枚数が少ない下位5ギルドは敗退となります。ご注意ください>
同時に各プレイヤーの前にシステムメッセージが表示された。
「あっ、もうこんな時間なんや。このままじゃ、ちょっと厳しいかもしれへんな」
タカシ達の総獲得メダル数は、先ほどカエルを倒して獲得したのを加えて現在13枚。
5名での参加で小数点は切り捨てなので、平均所持枚数は2枚になる。
予選の時にはこの時点で平均4枚だったことを考えると、明らかに集まりが悪い。
ショウイチの言う通り、このままでは敗退してしまう可能性があるだろう。
「……そうだな。他のギルドがどれだけ集めているかはわからんが、少なくとも俺達よりは順調だろうし」
シゲルが言うと、他のメンバーは口を揃えて「うーん」と唸る。
少し沈黙が流れた後、突然タカシが手を叩いた。
「考えても仕方がない! 今はとにかく足を動かしてメダルを探そう」
「……せやな! あと2枚集めて平均3枚にできれば、とりあえずは安心やろし!」
「だな。よっしゃ! じゃあ行くか!」
タカシの言葉におじさん達は気合いを入れ直す。
そしてメダルを求めて移動しようとした時――
「ん?」
タカシはやや離れたところに複数のプレイヤーが居ることに気付いた。
「みんな。あっちのほうにプレイヤーが」
「おっ、ほんまや! でも、ぎょうさんおるなぁ」
「……7、8人くらいか。ほとんど勝ち目はないと思うが、どうする?」
「うーん。さすがに人数差がなぁ」
「いや、まだ気付かれていないみたいだし、不意をつけばイケるんじゃないか?」
「確かに。このままじゃ敗退しかねないし、ダメ元で仕掛けてみてもいいと思う」
おじさん達は輪になって、小声でどうするかを話し合う。
やがて奇襲をかけることに話が纏まり、さあ行動に移ろうとしたところで――
「あっ、敵ですっ!!」
相手に勘付かれてしまった。
早速、作戦失敗だ。
プレイヤー達は一斉にこちらへ向かってきた。
「あかん、バレてもうた!」
「仕方ない! こうなったら真っ向勝負だ。みんな、頑張ろう!」
タカシの言葉に残りの四人が「おう」と同調する。
直後、おじさん達は地面を蹴った。
ある程度距離を詰め、相手の顔をはっきりと確認した瞬間、タカシは驚きのあまり足を止めた。
それに釣られ、他のメンバーも不思議そうな顔を浮かべながら立ち止まる。
そしてなぜか相手チームも同じことをしていた。
「き、君は!」
「あなたは……!」
二人の男性の声が重なった。
声の主はタカシと、プロゲーマー兼大人気配信者――カイザーだ。
「あっ、あの子は確か!」
「おい、あのおっさんって!」
「タカシ君が倒した、めっちゃ強かった子や!」
「あの時はカイザー様をよくも! ここはあたしが仇を……って、よく見たら渋くてちょっとカッコいいかも」
第一回イベントの優勝者と準優勝者の邂逅に、互いのギルドメンバー達が色めき立つ。
カイザーはそれを気にも留めず、タカシの顔を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「お久しぶりです。タカシさん、でしたよね?」
「……うん。君は確か、カイザー君だったかな?」
カイザーは「はい」と答えると、一人でズイズイとこちらに近づいてきた。
そんな彼の様子に、タカシが「もしかして前回のイベントで不意打ちしたことを怒っているのか」と考えていると――
「この前はどうも! お会いしたかったです!」
カイザーは笑顔で言いながら、右手を伸ばしてきた。
ホッとしたタカシは頬を緩めつつ、伸ばされた右手を握る。
「こちらこそ! 会えて光栄だよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです! いやー、まさかこんなところで出くわすとは驚きました」
そう言うと、カイザーは途端に真剣な表情を浮かべ、そのまま話を続けた。
「これで前回のリベンジができます。お手合わせ、頂けますね?」
「……もちろんだとも」
「ありがとうございます。それでは早速始めましょうか」
カイザーはギルドメンバー達のもとに戻ってから、金色の槍を構えた。
それを皮切りに、両ギルドの全員がそれぞれ武器を構え、臨戦態勢を取る。
「みんな! わがままを言って申し訳ないけど、あの人の相手は僕にさせてほしい。みんなは他の人を頼めるかな?」
「ああ、もちろんいいぜ!」
「カイザー様がそう言うなら!」
「了解です!」
その言葉を聞いて、タカシは自分のギルドメンバー達にこう言った。
「……ということらしいから、カイザー君の相手は私が引き受けるよ」
「了解! こっちは任せとき!」
「だな。勝てるとは思えんが、まあやるだけやってみるさ」
「頑張れよ、タカシ君!」
了承を得られたことで、タカシはカイザー達のほうに向き直る。
「タカシさん。それに他の皆さんも感謝します! では……いきますよ!」
直後、カイザーが地面を蹴った。
それを合図として、全員が一斉に行動を始める。
タカシは短剣を両手に構えつつ、カイザーの攻撃に備える。
「インペイル!」
槍の第一特技の発動により、カイザーは槍を思いきり突き出した。
それをタカシは横に飛び退いて回避。
「アサシンアタック!」
そのまま第一回イベントでカイザーを仕留めた、短剣の第三特技を発動させた。
刀身が黒く染まった二本の短剣がカイザーに迫る。
も、カイザーはバックステップをして楽々
「もうその技は喰らいませんよ!」
言いながら、カイザーは大きく踏み込んで槍を横に振るう。
今度は避けられず、タカシはダメージを負ってしまった。
「クイック・ティルト!」
さらにカイザーは槍の第二特技――クイック・ティルトにより、凄まじい速度で連続突きを放つ。
「――なっ!?」
しかし、穂先にタカシの姿はない。
発動と同時にまたしても横に飛び退いたからだ。
「アサシンアタック!」
そしてタカシは虚空に向かって槍を突いている無防備のカイザーに、再びアサシンアタックを仕掛ける。
黒く染まった二本の短剣がズブリと突き刺さる。
だが、カイザーは倒れない。
即死効果を引けなかったようだ。
カイザーはホッとした表情を浮かべ、自動操縦が解除された瞬間にバックステップを繰り返して距離を取った。
「……やりますね。まさかこんな簡単に避けられるとは」
「ふふふ。ただの偶然だよ」
「そうですか! なら、もう一度! インペイル!」
予備動作として、カイザーは大きく踏み込んだ。
それと同時、タカシは大きく横にステップ。
直後、タカシが元居た位置に槍が突き出される。
「せいっ!」
隙をついて、タカシは右手に握った短剣でカイザーを突き刺す。
そのまま左手を伸ばそうとするも、攻撃動作を終えたことでカイザーは後ろに飛び退いた。
「なるほど、そういうことですか! だったらっ! トレブルスピア!」
カイザーが技名を発した瞬間、条件反射のようにタカシは横にステップした。
槍の端を両手で握ったカイザーは、右方向に大きく振り払う。
前方180度の攻撃により、横に飛んだタカシは避けられずに被弾。
間髪入れずに左方向へ振り払い、これもタカシに命中した。
さらにカイザーは上段から槍を振り下ろす。
タカシはバックステップして回避を図るも間に合わず、大ダメージを負った。
後一回でも攻撃を喰らえば負けだ。
タカシは事前に覚えてきた回復魔法――ヒールを使うために、一旦大きく距離を取る。
「風の刃よ、切り刻め! エアカッター!」
冷静な判断だがカイザーは一歩上を行っていた。
風の第一魔法の発動により、緑色の半月状の物体がタカシに向かっていく。
勝利を確信したからか、カイザーはニヤリと笑う。
そうして魔法が直撃する寸前――
「えっ?」
タカシは何の前触れもなく、その場からスッと消え去った。
カイザーは驚きつつ辺りをキョロキョロ見渡すも、どこにもタカシは見当たらない。
それどころか、ギルドメンバー達が戦っていた他のおじさん達の姿もなかった。
「――もしかして5つ目の特技?! みんな、注意して!!」
まだ見ぬ特技を警戒し、カイザーは腰を深く落として攻撃に備える。
そんな彼に視聴者達が気まずそうに言った。
「あの、カイザーさん。……多分ですけど、メダルの枚数が少なくて敗退しちゃったんじゃないかと」
「だな。さっきお知らせ出てたし」
その言葉にカイザーはハッとして、メニューウインドウを開く。
時間を確認すると、時刻は14時ちょうど。
「多分……いや、間違いなくそうだね。いやー、悔しいなぁ。せっかくもうちょっとでリベンジを果たせそうだったのに」
「ど、ドンマイです!」
「ま、まあ、カイザー様が圧倒的に押してましたし、勝ちってことでいいんじゃないでしょうか!」
「ですね! 続いてたら絶対勝ってましたし!」
「あはは、ありがとう! じゃあ、そういうことにしとこうかな。あ、チラチラ見てたけど、みんなさすがだったよ!」
カイザーが笑顔で言うと、視聴者達は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
そしてしばらく互いを褒め合ったところで、
「よし! じゃあ、そろそろメダル集めを再開しよっか!」
「「「「はい!」」」」
カイザーは気持ちを切り替え、視聴者達と共に歩みを進めた。
☆
時は少し遡り、カイザーがエアカッターを放った直後のこと。
「あれ?」
突然景色が変わったことで、タカシは驚きながら周囲を見渡す。
すると、そこは見慣れた【始まりの街】の噴水前だった。
近くには【オヤジ達の集い】のメンバーが揃っている。
それを確認した瞬間、タカシは悟った。
「うーん、やっぱり平均2枚ではあかんかったかー」
「みたいだね。あー、悔しいな」
「そうだな。まあ、こればかりは仕方ない。本選に出場できただけでも良かったと思おう!」
「確かに! 脱落はしたけど楽しかったしな!」
その言葉に他のメンバー達が賛同する。
そのままお互いの健闘ぶりを讃え合っていると、ショウイチが「せや!」と切り出した。
「戦いながらちょこちょこ見てたんやけど、タカシ君、途中めっちゃ攻撃避けてたよな? 反射神経凄すぎひん?」
「いや、あれは英単語っぽいのが聞こえたら、横に避けるようにしていただけなんだ。ほら、前のイベントの時、カイザー君は真正面にしか攻撃していなかったからさ。動きに反応している訳じゃないから誰でもできるよ」
第一回イベントの最終局面、タカシはカイザーとレイリーの戦いを木陰に隠れて見ていた。
その際、カイザーは二つの特技を使用しており、どちらも直線上に攻撃する技だった。
ならば横に飛べば躱せるのではないかとタカシは考え、特技の名前っぽい言葉が聞こえた瞬間にサイドステップしてみた。
それが予想以上に上手くいったことで、あの連続回避に繋がったのだ。
「へえ、そういうことやったんや! あ、だから槍を振り払われた時は避けられへんかったんやね!」
「そうそう! あの時は焦ったよ。『えっ、横?!』ってね。冷静に考えれば槍は斬ることもできるから、横に来るのは当然なんだけど」
「ははは、確かにな! しかし、あの子はさすがに強かったな。他のメンバーもだけど」
「うん。カイザー君は私が技名に反応していることにすぐ気付いてたから、やっぱ凄いよ。優勝は彼らなんじゃないかな」
「せやな! おっ、噂をすれば!」
ショウイチは言いながら、上空に浮かぶ巨大なディスプレイを指差した。
目をやると、映像には【リバラルティア帝国】の面々が楽しそうに話しながら歩いている姿が映されている。
そして画面の端には、ジークと勅使河原のワイプもある。
「さっきの子達だな。それにジーク君も。解説頑張ってるな」
「だね。よし! じゃあ、これからは視聴者としてみんなを応援しよう!」
その後、おじさん達は雑談を交えながら、第二回イベントの行方を見守るのであった。
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