第36話 ギルド巡り その5 【オヤジ達の集い】

 エレナ達と別れ、【始まりの街】に戻った勇は広場の噴水前に向かって歩みを進めていた。

 到着後、辺りをキョロキョロと見渡すと、


(おっ、居た居た!)


 いくつか設置されているベンチの一つに、中年の男性達が集まっているのを確認できた。


 イケオジ――タカシと、その仲間達である。

 勇はすぐにタカシ達のもとに駆け寄り、談笑している彼らに声を掛けた。


「――すみません、お待たせしました!」

「おお、ジーク君!」

「うっす!」

「待っとったで!」

「よう! 久しぶりだな」

「こんばんは!」


 すると、彼らは一斉に言葉を返してきた。

 その歓迎の挨拶に勇も答え、互いに再会を喜び合ったところで――


「よし! じゃあ立ち話もなんだし、取り敢えずギルドホームに戻ろうか」


 タカシがそう切り出した。

 その提案に皆が頷いたことで、おじさん一行は転移の魔法陣を目指して歩き始めた。



 ☆



 勇はタカシ達と共に、ギルドホームに転移した。


 目に映ったのは白い壁と茶色の床。

 それと木製の大きなテーブルと椅子が中央に置かれているだけの殺風景な空間だ。


(……タカシさん達はインテリアには興味ないんだな)


 あまりにも飾り気がない内装にそんなことを思っていると、他のおじさん達はどかっと椅子に着席した。


「ほら、ジーク君も座って座って!」

「あ、はい」


 タカシに促されるまま、勇も空いている席に腰を下ろす。

 そうして全員がテーブルについたところで、タカシが口を開いた。


「さて! 一息つけたことだし、話を戻そうか」

「せやな。……んで、何の話してたんやっけ?」


 おじさんのうちの一人――ショウイチがそう言うと、その場に沈黙が流れる。

 どうやら全員すっかりと忘れてしまったようだ。


「……まあ、大した話でないのは確かだな。そんなことより、ジーク君。最近調子はどうだい?」

「えっ? ま、まあ、ぼちぼちですかね! シゲルさんはどうですか?」


 勇は突然話を振られたことに慌てつつ、声を掛けてきた渋いおじさん――シゲルにそう答えた。

 すると、シゲルはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせる。


「絶好調だよ。……実はようやく事業が軌道に乗ってきてね」

「おお! おめでとうございます!」

「へえ、凄いやん!」

「よかったじゃないか!」


 そんなめでたい報告に、その場に居た全員が拍手を送った。


「ありがとう! これも不安や悩みを聞いてくれた皆のおかげだ」


 対し、シゲルは席から立ち上がり、深く頭を下げながら礼を述べた。


「どう致しましてやな!」

「おう、また何かあったら聞くから頑張れよ!」

「シゲル君、応援しているよ」


 そんな彼に他のメンバー達は、次々に温かい言葉を掛けていく。


(何か、こういうのいいな)


 今、ここに居る者達は互いのことを詳しく知らない。

 それもそのはず、あくまで一緒にゲームをプレイしているだけの間柄でしかないためだ。


 仮に誰かが不慮の事故などでこの世を去ったとしても、そのことを知る由もない。

 せいぜい「あの人最近ログインしてないな」と思われる程度で、簡単に記憶から薄れていく。


 そんな希薄な関係の中でも、こうして互いを思いやっている彼らの姿を見て、勇は心が温かくなった。



 ☆



 その後も話題を変えながら、話を続けることしばらく。

 話が途切れたタイミングで、勇はずっと気になっていたことをタカシに尋ねた。


「――あの、これから僕達は何をするんですか?」

「ん? 何とは?」


 すると、タカシは不思議そうな顔を浮かべながら聞き返してきた。

 そんなタカシの反応に、勇も首を傾げる。


「えっと、何かゲームで用事があるから今日僕を誘ってくれたんじゃ……?」


 そう言うと、おじさん達は互いの顔を見合わせた。

 直後、勇のほうに向き直ったタカシは、慌てた様子で話し出す。


「これはすまない! 私達は普段ゲームの内容というよりかは、こうやって皆で会話することを楽しんでいてね。それでジーク君とも話せればと思って、今日誘わせてもらったんだが……」

「ジーク君の気持ちを考えず、申し訳ない!」

「ほんまごめんなぁ。せっかく来てもらったんやし、今から何するか考えよか」


 彼らは一斉に謝罪の言葉を口にする。

 どうやら話をするためだけに誘ったことを詫びているようだ。


(何だ、そうだったのか。それなら全然!)


「あ、いえいえ。そういうことなら、むしろこのままで!」

「えっ? ゲームはいいのかい?」

「はい! 僕はただ、誘ってもらったのに何もしないでいるのが申し訳ないと思っていただけなので。それに何より、皆さんと話しているの楽しいですし!」

「そ、そうか! それならよかったよ」

「ほんまに! よし。それじゃあ、よもやま話を続けよか。誰かお題ある人!」

「はい!」


 いの一番に声を上げたのは勇。

 彼にはもう一つ気になっていたことがある。


「ほな、ジーク君どうぞ!」

「はい! あの、皆さんのギルドって何ていう名前なんですか?」

「ああ、まだ伝えてなかったね。【オヤジ達の集い】だよ」


 タカシ達は一体どんな名前を付けるのだろう。

 そんな好奇心から質問してみたところ、告げられたのは期待に反した何の捻りもないギルド名だった。


「……そ、そのままですね」


 そのことに勇は苦笑いしつつ、思ったことを口に出す。

 すると、タカシ達も同様に苦笑いを浮かべながら言葉を返してきた。


「うん。皆で色々と考えてはみたんだが、丁度いいのが思いつかなくてね。それで結局『シンプルにいこう』っていう話になったんだよ」

「なるほど……。ま、まあ、でもわかりやすくていいですね!」

「そうかぁ? 僕はやっぱり【ナイスミドルスターズ】がいいと思うんやけどなぁ」

「いや、それを自分達で名乗るのはちょっと……。あ、そうだ。そういえば――」


 その後も勇は特に何をする訳でもなく、ただただ同年代の男達との談笑を楽しむのであった。

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