第32話 ギルド巡り その1 【はぴねすとろんぐ】

 三日後。

 無事にメンテナンスが終了したことで、ドリームファンタジーにギルドシステムが実装された。


 その夕方――


「――と、まあこんな感じかな。他にわからないことはある?」

「いえ、もう大丈夫です! 色々と教えて頂き本当にありがとうございました!」

「どういたしまして。それじゃあ俺は用事があるからこの辺で。頑張ってね」


 勇はレクチャーをしてあげていた少年に別れを告げ、【駆け出しの森】を後にした。


 そうして【始まりの街】に戻り、待ち合わせ場所である広場の噴水前に着くと、そこには見知った顔が二つ。

 シュカとナナだ。


 勇は二人のもとに急いで駆け寄ると、彼女達もこちらに気付いたようで走って近づいてくる。


「おじちゃん、こんばんは!」

「こんばんは、チュートリアルおじさん!」

「うん、二人ともこんばんは。ごめんね、待たせちゃったかな」

「いえ、あたし達も今着いたところなんです! ……ほら、シュカちゃん!」


 ナナはシュカに何かを発言するよう促した。

 シュカはコクリと頷くと、勇の目を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。


「おじちゃん、今日はシュカ達のギルドに入ってくれてありがとうございます! よろしくお願いします!」


 先日、勇は自分をギルドに誘ってくれた面々に、どのギルドにも正式には属さないこと、代わりにスポット加入なら喜んで応じるという旨をチャットで伝えた。


 その考えを皆に納得してもらえ、チャットでやり取りした結果、『それなら○○日の△△時に一緒にプレイしよう』と言ってもらえた。

 そうして最初にスポット加入することになったのがシュカ達のギルドで、今に至るという訳だ。


「こちらこそ誘ってくれてありがとうね! 短い時間で申し訳ないけど、今日はよろしく!」

「うんっ! まずはシュカ達のギルドのお家にご招待するね!」

「あ、もうギルドホーム買ったんだ。うん、ぜひお邪魔させてもらうよ!」


 ギルドホームとは、ギルドが所有できる活動拠点のこと。

 ギルドを設立の上、1万ガルド支払うことで自分達だけの専用スペースを得られる。

 それに伴い、インテリアアイテムも新たに多数実装されており、部屋のコーディネートも楽しめるようになった。


 その拠点には、新たに設置された転移の魔法陣から移動できるらしい。


 そういった内容のことが先日受け取ったメールに書かれていた。


「じゃあ行きましょうか! みんなも待ってるだろうし!」

「みんな? 他にもメンバーが居るの?」

「はい! みんなチュートリアルおじさんに会いたがってましたよー!」

「そっか、それは嬉しいな。ちょっと緊張するけど」

「みんなおじちゃんのこと大好きだから大丈夫だよ! じゃあ、れっつごー!」


(ん? もしかして知り合いだったりするのかな。まあ、行ってみればわかるか)



 それから歩くこと数分。

 勇達は新たに設置された転移の魔法陣のもとに辿り着いた。

 他の魔法陣とは仕様が異なるようで、中央にはパネルが設置されている。


「へえ、こうなってるんだ」

「うんっ! それでね、これにお部屋の番号とパスワードを入力するんだよ!」


 シュカは言いながら、仮想キーボードを用いてパネルに5桁の数字を入力していく。

 そのまま8桁の数字を打ち込み終えると、転移陣が起動した。



 ☆



 勇の視界に広がったのは、ピンクを基調としたメルヘンな空間。

 学校の教室ほどの広さで、その中央に置かれているキュートなテーブルの周りには約10名ほどの人影がある。


 転移してきた勇達に気付いた彼らは一斉に声を掛けてきた。


「お、来たか! 待ってたぜ!」

「久しぶりだな、チューおじ!」

「こんばんは、チュートリアルおじさん!」

「シュカちゃんお帰り! それといらっしゃい、おじさん!」

「イベントの放送見てましたよー! チュートリアルおじさん、解説も上手なんですね!」


 そこに居たのは最初シュカにレクチャーを行った際、その場に一緒に居た初心者達だった。


「あ、皆さん! お久しぶりです! シュカちゃんのギルドメンバーって皆さんのことだったんだ!」

「おう! 嬢ちゃんに声を掛けてもらってな!」

「あれから、たまにシュカちゃんとは一緒に遊んでて。チュートリアルおじさんのこともシュカちゃんから、よく聞いてましたよー!」

「へえ、そうだったんだ! またこうして会えて嬉しいよ!」


 その後、勇は彼らと久々の再会を喜びあった。

 そうしてひとしきり挨拶を終えたところで、勇はふと気になる疑問を口にした。


「――そういえば、シュカちゃん達のギルドって何ていう名前なの?」

「【はぴねすとろんぐ】だよ!」

「え? は、はぴ……?」

「【はぴねすとろんぐ】ですよ! ハピネスとストロングをくっつけて、はぴねすとろんぐです。ちなみに全部平仮名で書きます」


 言葉の意味が理解できずに困惑していると、ナナが耳打ちで説明してくれた。


「は、はぴねすとろんぐだね、覚えた! いい名前だね!」

「うんっ! お姉ちゃん達と一緒に考えたんだー!」

「へえ、そうなんだ! 何か意味でもあるの?」

「えっとね。シュカは優しいお姉ちゃん・お兄ちゃん達と一緒に遊べて幸せって思ってるの! それを名前にしたくてナナお姉ちゃんに相談したら、幸せって英語でハピネスっていうんだって!」


 シュカは嬉しそうな顔でそう答えた。

 そんなシュカの言葉に、ナナを始めとした他のプレイヤー達も優しい笑顔を浮かべている。


「なるほど、だからハピネスなんだね!」

「うんっ! あとね、シュカ達は最強のチームになりたいんだー。だからそれも名前にしたくてお姉ちゃんに聞いたら、強いは英語でストロングっていうんだって! それで二つを合体させたの!」

「へえ、そうだったんだ。素敵な名前だね!」

「うん、シュカもお気に入りなのっ!」


(はぴねすとろんぐか。うん、本当にいい名前だ)


 思っていた以上に、しっかりとした意味が込められていることに勇は感心した。


 それから平仮名表記なのは、『そのほうが可愛いから』というナナの考えによるものだと聞いた後、勇はシュカにギルドへ誘ってもらった。


「――それで、これからどこに行くの? やっぱりレイドボスの討伐?」


 ギルド機能の追加に伴い、本日のアップデートにて新たにレイドボスも追加されている。

 レイドボスとは複数人でなければ到底倒せない強力なボスのことで、勇はその討伐のために呼ばれたのだと考えていた。

 といっても、勇は大した戦力にはなれないのだが。


「いえ、あたし達はこれからゴールデンアルミラージ狩りに行こうかと。ギルドのランクを上げると、色々と恩恵を受けられるそうなので!」


 ドリームファンタジーでは、ギルドにランクという指標が設定されており、メンバーが得た経験値によってランクが上がっていく。

 そのランクに応じて、経験値やアイテムのドロップ率にバフが掛かる仕様になっているのだ。


 どうやらナナ達はそのランクを上げるべく、ゴールデンアルミラージを狩りたいらしい。


「へえ、そうなんだ。わかった、じゃあ俺も協力するよ!」

「わーい、おじちゃんありがとう! じゃあ、【はぴねすとろんぐ】出動ー!」

「「「「おー!」」」」



 ☆



 勇達はゴールデンアルミラージが出現する【レッドジャングル】へとやってきた。


「よーし! じゃあ、みんなで金ピカのウサギさんを倒そー!」

「おう! 俺達はあっちのほうを探してみるわ!」

「なら僕達はそっちを!」

「じゃあ、あたし達とチュートリアルおじさんはここら辺で!」

「了解!」


 勇達は複数のグループに分かれ、手分けしてゴールデンアルミラージを狩ることにした。

 勇はシュカ・ナナと同じグループだ。


「何かこうしていると、前にレベル上げしたのを思い出すね」

「確かに! 今は前よりも賑やかですけど!」

「今日は前よりもたくさん倒そうね!」

「うん、頑張ろう!」

「よし、チューおじに強くなったところ見せてやるぜ!」


 それから勇はプレイヤー達と会話を楽しみながら、ゴールデンアルミラージ狩りに勤しむのであった。

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