第29話 第一回イベント 終了後(前編)

「それでは、これから優勝者のタカシ選手に賞品の授与とインタビューを行います! 少々準備がありますので、皆様そのままお待ちください!」


 勅使河原はそう言って、カメラに向かって頭を下げる。

 勇も同じように深く頭を下げていると、


「――はい、オッケーです! それでは勅使河原さんと多井田さんにヘッドギアをお願いします!」


 少ししてから木村の声が耳に届いた。


「ふぅ。多井田君、お疲れ様!」

「あ、はい! お疲れ様です!」

「いやぁ、思っていた以上の解説ぶりだったよ! まさか、あれほどまでにゲームのことに詳しかったなんて」

「あ、ありがとうございます! そう言ってもらえてホッとしました」

「失礼します! えー、こちらが勅使河原さんの分ですね!」


 勅使河原と話していると、スタッフの一人が駆け寄ってきた。

 そのスタッフは付箋ふせんを剥がしつつ、持っていたヘッドギアを勅使河原に手渡す。


「うん、ありがとう!」

「はい! では、多井田さん!」

「ありがとうございます!」


 同じように勇もヘッドギアを受け取る。

 これは自宅から持ってきた私物。

 先日、メールにて木村から持ってくるように言われ、リハーサル前に預けていたものだ。


「――お待たせしました!」


 そのスタッフと入れ替わるように、今度は木村が駆け寄ってくる。


「打ち合わせでお伝えした通り、起動するとイベントマップの中央に転移するようになっています! そこにタカシ選手が居るはずですので、インタビューをお願いします」

「うん、了解だよ」

「わかりました!」

「それと、優勝賞品は多井田さんのアイテム欄に加えさせてもらっています。なので、タカシ選手にはプレゼント機能でお渡ししてください!」

「了解です!」


 優勝者には勇から直接。その他、上位入賞者には別途運営から送付。

 これも打ち合わせで聞いていた通りだ。


「では、準備ができ次第お願いします!」

「うん。じゃあ、タカシ選手を待たせるのも悪いし、早速始めようか」

「はい!」


 勇と勅使河原はヘッドギアを装着し、側面にあるボタンに触れることでドリームファンタジーの世界に飛び立った。



 ☆



 目を開けると、そこは先ほどまで画面で見ていた木々が生い茂る森の中だった。

 少し先には相変わらずイケているハンサムなおじ様――タカシの姿。


「皆様、大変お待たせ致しました! それではまずタカシ選手を……っと、居ました!」


 勅使河原はそう言って、タカシの元へと歩いていく。

 その後を追うように勇も足を動かすと、タカシも二人に気付いたようで駆け寄ってきた。


「タカシ選手、優勝おめでとうございます! いやぁ、お見事でした!」

「……ありがとうございます!」


 タカシは勇を一瞥いちべつしてウインクした後、勅使河原に視線を戻して言葉を返した。

 さすがはタカシ。TPOをしっかりと弁えており、いきなり勇に再会の挨拶を口にしたり、勅使河原に握手を求めたりするようなみっともない真似はしない。 


「それでは早速インタビューに入らせて頂きます! まずは今のお気持ちからお聞かせ頂けるでしょうか!」

「そうですね。まさか自分が優勝できるだなんて思ってもみなかったので、正直戸惑っているところもあります。でも、やはり嬉しいですね!」

「なるほど、ありがとうございます! では、次はバトルロイヤルの内容に触れていきたいと思うんですが、ズバリ今回の勝因とは?」

「最後にアサシンアタックの即死効果を引けたことですね。正直ダメもとだったんですが」


 タカシは苦笑いしながら答えた。

 実際、まさかここ一番で当たりを引き当てられるとは思ってもいなかったのだろう。


「なるほど! すみません、私はアサシンアタックという技を詳しく知らないんですが、ジークさんはご存知ですか?」

「はい。アサシンアタックは短剣の特技で、低確率で相手を即死に至らしめることができるんです。あそこでその低確率を引けたのはお見事でした」

「へえ、そうなんですね! ではタカシ選手は最初からその一撃に掛けて?」

「いえ、最初は普通に戦うつもりだったんですが、あの二人があまりにも強そうで。正面からではとても敵わないと思ったので、一人になったところで一か八かの勝負を仕掛けてみた感じです」


(へえ、そうだったんだ。タカシさんやるな!)


「おお、それが功を奏したんですね! いやはや、お見事! タカシ選手、改めて優勝おめでとうございます! それでは優勝賞品の授与に入らせて頂きます! ジークさん、お願いします!」

「はい、優勝賞品は来月のアップデートで追加される目玉アイテム【女神の腕輪】です。装備すると、通常の倍の速度でHPとMPが回復していく優れものになっています。では、これをタカシ選手に! 優勝、本当におめでとうございます!」


 ドリームファンタジーでは、時間経過で徐々にHPとMPが回復していく仕様になっている。

 それが倍の速度で回復するようになるのだから、中々魅力的なアイテムだ。


 勇はメニューウインドウを開き、その【女神の腕輪】をタカシに送った。


「ありがとうございます!」

「では、これをもちまして、ドリームファンタジーの第一回イベントを終了とさせて頂きます! 参加して頂いたプレイヤーの皆様、本当にありがとうございました! この後、本日の振り返りをジークさんとスタジオでさせて頂きますので、ぜひ最後までお付き合いください!」


 勅使河原は目の前に浮いているカメラに向かって頭を下げる。

 それに続くように勇もお辞儀をし、しばらくしてカメラが遠くに移動したところで二人は頭を上げた。


「ふぅ。タカシ選手、お疲れ様でした。それと長々と付き合わせてしまい申し訳ない」

「いえ、そんな。すみません、もうカメラは回ってないんでしょうか?」

「はい、我々がスタジオに戻るまでは」

「そうですか! 勅使河原さん、いつもテレビで拝見しております!」

「おお、それはどうも!」


 勅使河原は笑顔で答えながら手を伸ばした。その手をタカシは両手で握り、上下に軽く動かす。

 握手を終えると、今度はタカシが勇に向かって手を伸ばしながら口を開いた。


「ジーク君、久しぶり! まさかジーク君とこんなところで再会できるとは思わなかったよ」

「お久しぶりです! 僕もタカシさんが出場しているとは思いませんでした! しかも優勝してしまうなんて!」

「ん? 二人はもしかして知り合いだったのかい?」

「はい、前にジーク君にはお世話になりまして」

「そうだったのか! そんな再会を果たせたところで大変言い出しにくいんだが、私達はそろそろスタジオに戻らなければならなくてね。申し訳ないのだが……」


 勅使河原はバツが悪そうな顔で、二人にそう切り出した。

 それを聞いた勇とタカシは揃って、顔をハッとさせる。


「す、すみません!」

「あ、そうですよね。これは失礼しました」

「こちらこそすまないね。では我々はそろそろ……。行こうか、多井……ジーク君」

「はい! ではタカシさん、また!」


 勇と勅使河原はゲームから離脱するため、メニューウインドウを開いた。

 そしてログアウトのボタンに指を伸ばした瞬間、


「ジーク君! 今日の22時、もし都合がよければ広場のベンチに来て――」


 タカシが早口で何かを伝えてきたが、途中で指がボタンに触れてしまったことでログアウトしてしまった。


(あっ……。最後まで聞けなかった……。まあ多分、広場のベンチに来てくれってことだよな。理由はわからないけど、別に予定もないし行ってみよう。俺もタカシさんと話したいし)


「勅使河原さん、多井田さん、お疲れ様です! 戻ってきてもらって早速で悪いんですが、放送を再開させてもらってもよろしいでしょうか?」

「私は大丈夫だよ」

「僕もです!」


 木村の言葉に二人が同時に返したことで、スタッフがカウントダウンを指で行う。

 そうして、0になったのと同時――


「皆様、大変お待たせ致しました! では、ここからはイベントの模様をジークさんに解説してもらいながら振り返っていきましょう!」


 再び生放送がスタート。

 その後、勇はバトルロイヤルのダイジェスト映像を見ながら、解説としての役目をしっかりとこなすのであった。

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