第28話 第一回イベント本番 その4
シュカとナナの対戦以降、特にこれといった珍事が起きることもなく、イベントは淡々と進んだ。
そうして数度の安全地帯の縮小を経て、プレイヤーは三人まで絞られた。
最後の安全地帯は森の中。
いよいよ最終局面だ。
「バトルロイヤルももう終盤! それでは、ここまで生き残ったプレイヤーを順に紹介していきましょう! まずはこの人――カイザー選手だーっ!」
メイン画面に映ったのは若くて爽やかなイケメン。
あのエレナを倒した、プロゲーマー兼人気配信者のカイザーだ。
「さすがはプロゲーマー! 圧倒的な強さでここまで楽々生き残りました!」
(優勝はこの人だろうなあ)
エレナとの対戦以降、度々画面に映ってはその度に圧勝していた。
それも大技を使うことなくだ。
その持ち前の冷静さと機転を利かせた戦い方により、勇はカイザーが勝つだろうと予想した。
タブレットに視線を落とすと、放送を見ている視聴者も同じ考えのようだ。
「次はレイリー選手っ! 鬼気迫る姿勢で対戦に臨み、辛勝を重ねてこの最終局面に駒を進めました!」
画面が切り替わって、杖を持った大柄な男性が映し出される。
(おお、あの怖い人だ。凄いな、ここまで勝ち延びてきたんだ)
「最後のプレイヤーはこの人っ! タイミングが悪く、放送には映りませんでしたが、見事ここまで勝ち残りました! タカシ選手ー!」
最後のプレイヤーが映し出されたと同時、勇は驚きのあまり目を見開いた。
森の中をキョロキョロしながら歩いているのは、リリース当日に出会ったイケおじ。
息子に教えてやりたいからと、ゲームのことについて尋ねてきたあのタカシだ。
(た、タカシさんだ! まさかタカシさんもイベントに出てたなんて! しかも最後まで生き残ってる! おー、マジかー!)
たった一度話しただけの顔見知り程度に過ぎないが、タカシが生き残っていることが何だか勇には嬉しかった。
できたらこのまま優勝してもらいたいが――
(あー、だけどカイザーさんにはさすがに
「以上、三名がここまで残ったプレイヤーとなります! さて、優勝を手にするのは一体どのプレイヤーなのか! ……っと、早速カイザー選手とレイリー選手が衝突しました!」
再びメイン画面が切り替わり、木々の中で対峙している二人をカメラが捉えた。
『――紅蓮の業火よ! 仇なす者を飲み込み、
『岩石よ、せり上がりて我が身を守る堅牢な盾と化せ!』
レイリーが先に詠唱を口ずさみ、それにカイザーも続く。
『インフェルノブレイズ!』
『ストーンウォール!』
直後、レイリーが術名を口にしたことで巨大な火球がカイザーに向かっていく。
も、ひと呼吸遅れてカイザーも魔法を発動したことで、地中から現れた岩の壁が火球を受け止めた。
エレナの時と全く同じ状況だ。
(へえ。あの人、闇魔法だけじゃなく、炎魔法も上げてるんだ。インフェルノブレイズは確か三つ目に覚えられる魔法だから、相当レベル高いんだろうな)
「レイリー選手の大技が炸裂っ! しかし、カイザー選手、これをお馴染みの魔法で難なく防ぎます!」
『紅蓮の業火よ! 仇なす者を飲み込み、灰燼へと誘え!』
『岩石よ、せり上がりて我が身を守る堅牢な盾と化せ!』
直後、レイリーは再びインフェルノブレイズの詠唱文を口にする。
それに対応するように、カイザーも再度ストーンウォールの詠唱を始めた。
(ん? さっきダメだったのにもう一回同じ技? どうしたんだろう、レイリーさん)
『インフェルノブレイズ!』
『ストーンウォール!』
まるでリプレイしたかのように同じことが繰り返され、現れた岩壁に向かって巨大な火球が飛んでいく。
それと同時、レイリーはメニューウインドウを開き、素早く手を動かした。
すると、手に握っていた杖が消え、代わりに大きな剣が彼の目の前に出現。
レイリーはその大剣を手に取り、地面を蹴った。
一方、カイザーは二発目の火球を岩が受け止めたことで、その壁の裏で笑みをこぼしていた。
しかし、岩壁がフッと消え去った瞬間、カイザーの顔が途端に険しくなる。
それもそのはず、先ほどまで杖を握っていたレイリーが大剣を手に間合いを詰めてきているのだ、驚くのも無理はない。
『フリップスラッシュ!』
そんなカイザーに、レイリーが高く飛び上がって垂直に回転斬りを放つ大剣の特技――フリップ・スラッシュを発動。
さすがのカイザーも反応できなかったのか、素直にその攻撃を喰らった。
『……やるね! まさか対戦中に武器の切り替えだなんて』
カイザーは言いつつ、バックステップで距離を取る。
「こ、これは凄い! レイリー選手、奥の手を隠し持っていました!」
「いやぁ、これは驚きましたね……」
レイリーの予想外の行動に、勇も思わず言葉を漏らす。
(っていうか、あの人どれだけレベル高いんだ……)
同時にそんな疑問が頭をよぎった。
イベント直後に使っていたイービルハンドは、闇魔法で二つ目に覚えられる魔法。
先ほどのインフェルノブレイズは炎魔法で三つ目。
加えて、今のフリップスラッシュは大剣で二つ目に覚えられる技だ。
これらを同時に習得するには、かなりのスキルポイントが必要になる。
つまり、それだけレベルが高いということだ。
『まあな!』
レイリーは言葉を返しながら、カイザーの元に駆け寄る。
『岩石よ、せり上がりて我が身を守る堅牢な盾と化せ!』
対し、カイザーは三度目となるストーンウォールの詠唱を始めていた。
『フリップスラッシュ!』
しかし、発動が間に合わず、岩壁が出現する前に大剣がカイザーに振り下ろされようとしていた。
――その時。
『ストーンウォール!』
『何っ!?』
カイザーがニヤリと笑いながら、ストーンウォールを発動した。
地中から勢いよく岩が垂直に伸び、その真上を高く宙返りしていたレイリーに激突。
そのまま岩に乗る形で上空に運ばれると、ひと呼吸置いて岩が消失し、レイリーは空中に放り出された。
そして落下中の彼に――
『クイック・ティルト!』
カイザーは手に持った槍で、高速で刺突を繰り返した。
当然避けられるはずもなく、素直に被弾したレイリーは元々残りのHPが僅かだったのか、やがて粒子となって消滅した。
『対戦、ありがとうございましたっ!』
「勝負ありっ!! カイザー選手の勝利です! いやはや、これは凄いものを見せて頂きました! ジークさん、いかがだったでしょう!」
「す、凄かったですね……。まさかストーンウォールをあんな風に使うだなんて。あのカイザー選手のことですし、狙ってやったものだと思うんですが、その発想はなかったです。お見事ですね」
「ですよね! さすがカイザー選手! しかし、敗れはしたものの、レイリー選手もお見事でした! 視聴中の皆様、お二人に拍手をっ!!」
白熱とした試合に興奮したのか、勅使河原は熱の入った口調でそう言った。
(ん、待てよ。そういえば、タカシさんは……あっ!)
すっかりと頭から抜け落ちていたタカシのことを思い出し、画面をよく見ると、下ろしていた頭を上げたカイザーの真後ろにイケおじの姿があった。
両手には短剣が握られており――
『アサシンアタック!』
バッと振り返ったカイザーに、黒く染まった短剣が突き刺さる。
その瞬間、カイザーは粒子となった。
「「あっ……」」
勇と勅使河原が同時に言葉を漏らす。
それからしばしの静寂が続いた後、
「……しょ、勝負あり! タカシ選手がカイザー選手を倒しました! これにてバトルロイヤルは終了! 優勝者はタカシ選手ですっ!! 皆様、タカシ選手に、そして参加した全てのプレイヤーに盛大な拍手をお願いします!」
こうして、ドリームファンタジーの第一回イベントは終わりを迎えたのであった。
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