第27話 第一回イベント本番 その3
イベント開始からしばらく。
「――ガリム選手、見事勝利! いやぁ、先ほどの魔法は凄かった! 私は初めて見たんですが、ジークさんはご存知でしたか?」
「はい、あれは水魔法のアクアドラグーンですね。水魔法で三つ目に覚えられるもので、見ての通り強力な魔法です」
「アクアドラグーン! あれだけ強い魔法を使えるのであれば、ガリム選手の優勝も見えてきそうですが……どうでしょう?」
「うーん、そうですねえ。アクアドラグーンは強力な分、MPの消費が激しいんです。なので、ガリム選手の残りMPの量次第といったところでしょうか」
「なるほどっ! 確かにどれだけ力を温存したまま終盤に臨めるかが、このバトルロイヤルを制する鍵! ガリム選手のMP量はわかりませんが、まだたんまりと残っていることを期待しましょう! では次のエリアに――」
事前に行った自主勉が功を奏して、勇は何とか解説をこなせていた。
(ふぅ。前に術技の確認をしておいて本当によかったな)
努力が無駄ではなかったことがわかって、ホッとしたのと同時――
「おっと、ここでエリアの縮小が開始! 安全地帯に入るべく、全プレイヤーが移動を始めました! これでプレイヤー同士の接触も増え、さらなる激戦が繰り広げられるでしょう!」
隣に座っている勅使河原が気合いの入った声でそう言った。
勇もマップが表示されている左側のディスプレイを見てみると、確かに安全地帯を示す円がゆっくりと縮小を始めていた。
円の外に出てしまうと、凄まじい勢いでHPが減っていくため、プレイヤーは中に入らざるを得ない。
それに伴い、自然と接敵する機会が増えるため、勅使河原の言う通り今以上に対戦が激化するだろう。
(ここからが本番だな。俺も最後まで気を抜かずに頑張らないと。……あ、そういえばリオン君やエミさんはどうなったんだろう。生き残っているといいけど)
特に仲良くしている面子のうち、シュカ・カイト・エレナの動向は確認できたが、まだリオン・エミ・ナナの姿を見ていない。
既に脱落してしまっているかもしれないが、勇は彼らのことを心の中で応援した。
「さて、それでは引き続き各エリアの模様を……おっ!」
切り替わった画面に映っていたのは、草原で対峙している二人のプレイヤー。
見たところ、丁度鉢合わせたところのようだ。
(おっ、あの子達は!)
その二人は勇も知っている人物だった。
「ここでルシファー選手とデストロイ選手が衝突! さあ、この二人はどんな勝負を見せてくれるのか!」
ルシファーは以前、勇がレクチャーした厨二病を患っていた青年。
オリジナルの詠唱を用意していた、あの残念なイケメンだ。
手には杖を握っていることから、あの時とスキルの構成を変えていないのなら今も闇魔法に特化していることだろう。
もう一方のデストロイは、初心者狩りをしていたあの根暗君。
前と同じく斧を手にしており、相も変わらず薄気味悪いニヤケ顔を浮かべている。
『フヒヒッ! 闇より来たれ、漆黒の牙! 仇なす者を喰らい尽くせ!』
先に動いたのは根暗君ことデストロイ。
以前、勇が一撃でやられてしまった闇魔法――ダークネスバイトの詠唱文を口にした。
『ほう、貴様も闇に魅せられし者か。これは面白い。良かろう、どちらが上か思い知らせてやる。闇より来たれ、漆黒の牙ッッ! 仇なす者を喰らい尽くせぇ!』
『ダークネスバイト!』
そんな彼に続くように、ルシファーも同じ詠唱文を述べる。
それと同時、デストロイが魔法を発動させたことで狼の牙の形をした黒い物体が現れ、ルシファーに向かっていく。
『ダークネスバイトッッ!!』
ひと呼吸遅れてルシファーも魔法を発動。
真っ向から衝突した二つの黒い牙は粉々になり、フッと消え去った。
(おお! あの子やるな!)
「デストロイ選手の攻撃をルシファー選手が相殺っ! これは面白い勝負になりそうだ!」
『チッ! なら次はこれでも喰らえ!』
ルシファーの元に駆け寄ったデストロイは、そのままの勢いで斧を振った。
その攻撃は見事命中するも、ルシファーは顔色一つ変えずに鼻で笑った。
『ほう、中々やるではないか。では今度は我の番だ。特別に我の秘奥義を見せてやろう』
『ひ、秘奥義?!』
デストロイは危険だと判断したのか、バックステップをして距離を取る。
一方のルシファーは大きく深呼吸してから、デストロイに向けてバッと手を伸ばし、口を動かした。
『生者を憎む、死せる者達よ! 我が呼び掛けに応じ、その黒なる
(おお、何か凄そうだぞ!)
『そして――来たれ亡者達よっ! 今こそその怨みを晴らせぇ! イービルハンドッッ!』
「……ん?」
聞き覚えのない詠唱文に、勇はてっきりまだ知らない四つ目の闇魔法が発動されると考えていた。
しかし、発動されたのは二つ目に覚えられるイービルハンド。
先ほど唱えたダークネスバイトよりも弱い魔法で、特別でも何でもない。
『いや、それただのイービルハンドだろ……って、しまっ――』
攻撃に備えていたデストロイはツッコミを優先してしまったことで、迫り来る複数の黒い手から避けられず素直に被弾。
『闇より来たれ、漆黒の牙ッッ! 仇なす者を喰らい尽くせぇ! ダークネスバイトッッ!! 出でよ黒炎、燃えろーー! ダークフレアッッ!』
続けざまに、ルシファーがダークネスバイトとダークフレアを順に発動。
『ちょ、ま、待て――』
黒い牙と炎がデストロイに襲い掛かり、それが命中したと同時、彼は粒子となって消え去った。
『フン。これが真なる闇の力というものだ。出直してくるがいい』
ルシファーは虚空に向かってそう告げると、クルッと半回転して歩き始めた。
「勝負あり! ルシファー選手のブラフが上手く決まりました! いやぁ、中々面白いプレイヤーでしたね!」
「そ、そうですね。お見事でした」
(多分、ブラフとかそういうのではないと思うけど……)
勇は空気を壊さないため、そして彼の名誉を守るために敢えてサラッと流すことにした。
「ルシファー選手にはこの調子で引き続き頑張って頂きたい! さあ、画面が切り替わりまして、今度は森エリアの北東! ここにはどんなプレイヤーが居るのでしょうか!」
プレイヤーを探すため、カメラが角度を変えながら周囲を映していると、ある時幼い女の子が走りながら画角に入ってきた。
『せーふ! でもすごくダメージ喰らっちゃった……』
(お、よかった! シュカちゃんまだ生きてる!)
「ここで再びシュカ選手! 何とかギリギリのところで安全地帯に入れたようです! このまま頑張ってほし……おっ! ここで何と、もう一人のプレイヤーが登場!」
(な、ナナさん!? あちゃー、これはかわいそうだな……)
現れたのは、シュカを実の妹のようにかわいがっている女性――ナナ。
チーミングが禁止されている以上、いくら仲良し同士だったとしても協力する訳にはいかず、戦闘は免れない。
つまり、シュカかナナのどちらかがここで脱落するということだ。
まあ、まず間違いなくナナがシュカを勝たせようとするだろうが。
『……シュカちゃん』
振り返ったシュカは、その声の持ち主を確認した瞬間、顔をぱぁっと明るくさせた。
『わぁ、ナナお姉ちゃんだ!』
「おっと、この二人どうやら知り合いのようです! これは神の悪戯かーっ!」
『――風の刃よ、切り刻め! エアカッター!』
(えっ!?)
急いで駆け寄ろうとするシュカに、ナナは魔法を放った。
被弾したシュカは何が起きたのかわかっていないようで、口をぽかーんと開けたまま立ちすくんでいる。
『お、お姉ちゃん……?』
『剣を構えずに近づいてくるなんて、一体何を考えてるの? シュカちゃん、あなたやる気ある?』
『……えっ? だってシュカ、お姉ちゃんと戦いたくないもん……』
シュカは俯いて、弱々しく言葉を漏らす。
すると、ナナは大きく溜め息を吐いてから、真剣な表情でシュカに言葉を投げかけた。
『お姉さん、ガッカリだなー。まさかシュカちゃんがそんな弱虫さんだったなんて』
『よ、弱虫じゃないもんっ!』
『嘘だねー。弱虫だからお姉さんと戦いたくないんだー』
『違うもんっ! もー、ナナお姉ちゃんなんか嫌いっ!』
シュカは剣を握って走り出す。
その様子を確認したナナは頬を緩めた。
(なるほど、そういうことか。ああでも言わないと、シュカちゃんに勝たせてあげられないもんな。さすがナナさん)
いつも通り優しく接していると、いつまで経ってもシュカが攻撃しようとせず、勝ちを譲ってあげられない。
だから敢えて冷たく突き放すような態度を取ったのだと、勇は判断した。
『――ダブルスラッシュー!』
『きゃー。このままじゃ負けちゃうー。あたしも攻撃しなきゃー』
ナナは棒読みでそう言うと、手に握っている杖をシュカに振り下ろした。
ただ攻撃を喰らっているだけでは、演技がバレてしまうと考えたのだろう。
しかし、振り下ろした杖がポカンと当たった瞬間、シュカは消失してしまった。
ナナの勝利だ。
『……えっ?』
「「あっ……」」
予想外の結末に、ナナとその様子を見ていた勇・勅使河原が同時に言葉を漏らす。
『あれ、何で……? エアカッターを一発と杖で殴っただけなのに……。えっ? あたし、やっちゃった?』
ナナはその場にうずくまり、頭を抱えた。
(あー、これはやっちゃったな、ナナさん……。でもシュカちゃんがエリア外でダメージを受けてたことなんて知らないだろうし、こればかりは仕方ないな。ドンマイ、ナナさん)
「な、ナナ選手見事勝利です! 今後の活躍にも期待しましょう! では次のエリアに移りまして――」
いたたまれなくなったのか、勅使河原がすぐに話を切り替える。
勇も敢えて発言を避け、心の中でナナを励ますのであった。
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