第25話 第一回イベント本番 その1
「――そろそろ本番です! お二人とも、どうぞよろしくお願いいたします!」
「は、はい!」
木村に答えてから、勇は先ほどスタッフが持ってきたタブレットに視線を落とす。
画面に映っているのは、この公式生放送。
今はドリームファンタジーの公式PVが流れており、チャット欄が賑わいを見せている。
ちなみに現在の視聴者数は驚異の36万人だ。
イベントに参加しなかったプレイヤー、参加はしたが予選で敗退してしまったプレイヤー、エレナを始めとした各配信者のファン、視聴者数の多さに釣られて何気なく配信を見にきた者。
それらが集中したことで、とんでもない数字を叩き出していた。
尚、15分前の待機画面で勇が確認した時は20万人だった。
勇はその時点で軽くパニックを起こしてしまったため、今は敢えて視聴者数を見ないようにしている。
(いよいよか……)
後、数十秒で生放送の本番だ。
挨拶やルールの解説などがあるため、生放送はイベントスタートよりも一足先に開始される。
(だ、大丈夫かな……本当に俺なんかが上手くやれるのだろうか……)
直前になって再び緊張が押し寄せてきた時、右隣に座っている勅使河原が勇の右肩にポンと手を置いた。
勇がふいに視線を向けると、勅使河原は優しい笑顔を浮かべながらウンウンと頷く。
(勅使河原さん! ……よし、やるぞ!)
彼の気遣いにより、勇は過度な緊張状態から脱することができた。
それと同時に流れていた公式PVが終了し、このスタジオが映し出される。
「――全国のドリームファンタジープレイヤーの皆様、お待たせ致しました! 本日はドリームファンタジー第一回イベント【バトルロイヤル】の模様をお届け致します!」
その直後、リハーサル通りに勅使河原が開幕の挨拶を口にする。
一方の勇はパチパチと拍手をすることで、盛り上げに徹した。
「さあということで、本日実況を担当致します――
『テッシー!』
『勅使河原アナとか超豪華じゃん!』
『よろしくー!』
『直前になるまで隠されてるとか、まるで勅使河原アナがゲストみたいだな笑』
カメラに向かって頭を下げる勅使河原を横目に、タブレットのチャット欄に目をやると、彼を歓迎するコメントで埋め尽くされていた。
さすがは有名アナウンサーだ。
「さあ、そして! 本日はゲスト兼解説として、あのチュートリアルおじさんことジークさんにお越し頂いております! それではジークさん、ご挨拶をお願いします!」
「はい! ジークもとい、チュートリアルおじさんです! こういった場は初めてですが精一杯頑張りますので、今日はどうぞよろしくお願い致します!」
頭を下げた勇は、そのまま目の前にあるタブレットに目を向ける。
すると――
『チューおじキター!!』
『エレナイト代表として期待してるぞー!』
『チュートリアルおじさん、頑張ってー!』
『誰か知らんけど、とにかく頑張れー!』
『チューおじってジークって名前だったんだな。初めて知ったわ』
勅使河原と同様、好意的なメッセージが寄せられていた。
それに勇も一安心し、頭を上げる。
「はい、よろしくお願いします! それでは挨拶も済ませたところで、本イベントのルールについて改めて説明させて頂きます――」
その後、勅使河原が視聴者にバトルロイヤルイベントの概要について簡潔に解説を行った。
そうこうしているうちに時刻は11時59分になり――
「いよいよイベントのスタートです! 選手の皆様、頑張ってください! 視聴者の皆様はぜひ参加しているプレイヤーを応援してあげてくださいね! それではカウントダウン!」
「「10、9、8――3、2、1!」」
勇は勅使河原と一緒にカウントダウンを行う。
そうして12時丁度になったのと同時、イベント専用マップに決勝戦に参加するプレイヤー達が転移してきた。
その瞬間から、バトルロイヤルはスタートだ。
「さあ、始まりました! まずは順に各エリアを見ていきましょう!」
最初はプレイヤー同士、ある程度距離が離れた状態でスタートするので、いきなり戦闘なんてことにはならない。
そのため、まずは順に切り替わるエリアにて、画面に映った各プレイヤーの動向を勅使河原が実況することになっている。
なお、各プレイヤーの名前は事前にスタッフが登録しているため、自動的に画面に表示される仕組みだ。
加えて注目プレイヤーには、別途資料が用意されている。
その中にはエレナはもちろん、シュカの名前もあった。
どうやらシュカが最年少の参加者なようで、それが理由で注目プレイヤーとなったらしい。
「草原エリアの北側にはライト選手! 周囲を警戒しながらゆっくりと歩みを進めていきます!」
最初は特に見どころもないため、すぐに他のエリアに画面が切り替わる。
同じように、映ったプレイヤーを勅使河原が簡単に紹介するのを繰り返すこと数分。
「……おっと! プレイヤー同士が激突したようです! スタッフさん12番の画面をお願いします!」
勅使河原がそう言うと、中央の大きな画面に森の中で対峙している二人のプレイヤーの映像が映し出された。
直後、瞬時にカメラが移動し、二人をベストなアングルで捉える。
片方は大剣を持った長身痩躯の男性――キング、もう片方は杖を持った大柄で筋骨隆々の男性――レイリーだ。
『――来たれ、亡者達よ! 今こそその怨みを晴らせ! イービルハンド!』
レイリーが唱えた闇魔法――イービルハンドにより、キングの足元に魔法陣が出現。
直後、その魔法陣から複数の黒い手が現れ、キングに向かって伸びていく。
「レイリー選手が魔法を発動っ! 黒く染まった手がキング選手に襲い掛かる!」
『ふぅん!』
それをキングは大剣で一閃。
現れた黒い手は霧となって消え去った。
『ヘビー・ストライク!』
そのままキングは間合いを詰め、レイリーに大剣を真っ直ぐに突き刺す。
以前、カイトが使っていたのと同じ技だ。
「対するキング選手は魔法を物ともせず、カウンター攻撃! これにはレイリー選手もたまらない!」
『出でよ黒炎、燃えろ! ダークフレア!』
『なにぃ!?』
直後、キングが伸ばした両手を引っ込めたのと同時、レイリーがダークフレアを発動。
至近距離から放たれたことにより、キングは黒い炎を避けられず被弾した。
『出でよ黒炎、燃えろ! ダークフレア!』
レイリーはキングと距離を取ることなく、再度ダークフレアを発動した。
先ほどのダークフレアの直撃に焦ったのか、キングはその場を動かず、素直に黒い炎を身に浴びる。
『うおおおーー!!』
そのままレイリーは、手に持った杖をキングに向かって振り下ろす。
それをキングは怯えた表情を浮かべながら、喰らうこと数回。
粒子となって消え去った。
(うわぁ、めちゃくちゃ怖いなあの人……)
「――勝負あり! レイリー選手の怒涛の攻撃により、キング選手ここで脱落! ジークさん、今の勝負を振り返ってみてどうでしょう?」
「そ、そうですね。レイリー選手の攻撃的な戦闘スタイルには驚きました」
「と、言いますと?」
「えっと、魔法を中心にしている場合、本来相手と距離を取って戦うのがセオリーなんです。その前提を覆されたといいますか」
魔法の詠唱中に攻撃を喰らうと、展開していた魔法陣が破棄されてしまう。
そのため、魔法を用いる場合は遠距離から戦おうとするのが自然な考えで、勇自身もそうしてきた。
だからこそ、レイリーの超攻撃的な戦い方に驚いたのだ。
「確かにレイリー選手は一歩も引かず、押せ押せな感じでしたね! では、それが決め手になったと?」
「はい、そうだと思います。キング選手も驚いていた様子でしたし、対応できなかったのでしょう」
「なるほどー! いやはや、レイリー選手お見事! この調子で頑張って頂きたい! では次に参りましょう!」
勅使河原がそう言うと、再び画面が切り替わる。
それと同時、勇は太ももを誰かに優しく叩かれたかのような感覚を覚えた。
ふと視線を落とすと、自身の太ももの上で親指を立てている手が目に入る。
その手の持ち主は、もちろん勅使河原だ。
(このタイミングでグッドサインってことは、『解説あれでいい』って意味だよな……。ほっ、よかった。よし、この調子でしっかりこなすぞ!)
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