第22話 自主勉(後編)
昼過ぎに起床し、軽く昼食をとった勇はノートパソコンに向かっていた。
画面に映っているのは動画投稿サイトだ。
「えーっと、VRMMO……バトルロイヤル、イベント。っと」
検索窓にそうキーワードを入力すると、いくつもの動画が表示された。
その中から、企業の公式チャンネルが投稿している動画をクリックし、再生時間の半分辺りのところまでスキップ。
『――おーっと! またしてもプロゲーマー、カイザーがプレイヤーをキル! 不利な状況を見事切り抜けました! いやぁ、さすがですね!』
『そうですね。あそこでの
『では、やはり双炎斬だからこそ切り抜けられたと?』
『はい。やられてしまったプレイヤーはかなり
『なるほど〜! さすがはプロゲーマー、あの一瞬で最適解を導き出したようです! さて、次は――』
(なるほど、こんな感じで話すのか)
勇はこのゲームをやったことがなければ、興味もない。
それなのにも関わらず、イベントの動画を見ているのは解説としての立ち回りを学ぶためだ。
もちろん、一朝一夕で身につけられるものではないだろうが、何もしないで当日に臨むよりかはいくらかマシなはず。
そんな考えから、勇は解説の勉強をしようと考えたのである。
「他の動画も見てみるか」
呟きつつ、別のゲームで行われたバトルロイヤルイベントの動画を再生する。
『――大技が炸裂っ! これにはラリルレロン選手も耐えられな……いや! まだ、まだ倒れないっ! これはギンメダイさん、一体どういうことなのでしょう?』
『恐らく魔法が直撃するほんの少し前に、障壁を展開していたんじゃないでしょうか』
『魔法障壁! なるほど!』
『これはラリルレロン選手が一枚上手でしたね。いやはや、良いものを見せてもらいました』
(うーん、なるほど〜。基本は淡々と説明するのがいいんだな。さて、次は)
さらに別の動画を再生。
今度は使役したモンスター同士を戦わせる、いわゆるテイマーもののようだ。
『おおー! あれは最近追加されたホワイトドラゴン! 確か、結構レアなモンスターですよね?』
『そうですね』
『……お、ホワイトドラゴンの氷ブレス! 対するブレイジングメアは炎ブレスを放ちました! この一手で決まるか!』
『うーん、どうでしょうねえ』
(……こうはならないように頑張ろう)
勇はその後も動画を見続けたことで、大体どういう立ち回りをすればいいのかを理解できた。
ただ、それを実践できるかどうかは別問題。
故に勇はとある動画を見ながら、一度解説を試してみることにした。
『――ラピッドスラスト!』
『氷の弾丸、
再生した動画は以前エレナとタイマン勝負をした時のもの。
勇が氷柱を喰らいながら、エレナに連続突きを放ち、一旦距離を取ったところで動画をストップした。
(ここで実況が『ジーク選手、避けずに攻撃を仕掛けました! 攻撃は最強の防御だということでしょうか』と言ったとして……)
「いや、あれは既にラピッドスラストが発動されていたため、自動操縦により避けられなかったんでしょう」
勇は実況の言葉を想像し、それに対しての解説を口にした。
配信している訳でもないのに、パソコンに向かって一人で喋っているおっさん。
何ともシュールな光景だが、本人は至って真面目だ。
その後、勇は停止していた動画を続きから再生。
『凍てつく冷気よ! 蒼き剣と化し、仇なす者を切り刻め! フリジットブレード!』
エレナが放った氷の短剣を勇が剣で弾きながら、距離を詰める。
直後、
続けざまに剣を振りかぶったところで、エレナがカウンターでサマーソルトキックを発動した。
そのまま、前に宙返りをしながら踏み付け攻撃を仕掛け、喰らった勇は粒子と化して消えていく。
そこで動画を中断し、再び実況を想像する。
(うーん、もし俺が実況なら『エレナ選手、見事勝利! いやぁ、最後まで足技を隠していたのが決め手でしたね!』って言うから……)
「そうですね。初動が魔法だった上にエレナ選手は杖を持っていたので、ジーク選手は油断していたんでしょう。エレナ選手のほうが一枚上手でしたね。って感じか? ……うん、イケそうな気がしてきた!」
手応えを感じたのか、勇はガッツポーズを取る。
本番も同じ調子を出せれば、少なくとも大失敗はないだろう。
そんなポジティブな考えを胸に抱きながら、勇はノートパソコンを閉じた。
そのままベッドに寝転ぶと、ヘッドギアを装着してドリームファンタジーを起動したのだった。
☆
朝は眠気が限界だったため、最後に試した闇魔法にポイントを極振りしたままゲームを終えていた。
闇魔法も厨二心をくすぐるが、自分が上げたいスキルは他にある。
故に勇はスキルポイントを振り直すため、すぐさまSPと看板に書かれた小屋に向かった。
そこでNPCに話しかけ、100ガルドを支払ったことでスキルポイントがリセットされる。
その後、勇はメニューウインドウ内の【スキルポイント割り振り】のページから、迷いもせずに片手剣に全てのポイントを振った。
そのままアイテム一覧のページに移り【クリムゾンエッジ】を装備。
その真紅に染まった剣を、勇は顔を綻ばせて見つめてから腰に携えた。
片手剣にポイントを割り振ったのは、別に片手剣が特別好きだからという理由ではない。
大切な友達からもらったこの宝物を使い続けるためだ。
「よし!」
そう呟いて勇は店を出て、噴水前に向かった。
(さて、今日はどうするか。レベル上げ……はもういいよな。何より【レッドジャングル】も飽きたし)
「――あの、すみません! その鉄の鎧と赤い剣、もしかしてチュートリアルおじさんですか?」
声に反応して振り返ると、中学生くらいの男の子と小学生くらいの小さな女の子が手を繋いで立っていた。
女の子のほうは人見知りなのか、男の子の後ろに隠れてモジモジとしている。
「あ、はい。そう呼ばれてます」
「やっぱり! あ、あの。ネットで見たんですけど……その」
「もしかして、このゲームのことでも教えてほしいのかな?」
「は、はい! さっきお父さんに買ってもらって妹と一緒に始めたんですけど、チュートリアルを読んでもよくわからなくて」
(いつも思うけど、そんなにチュートリアルわかりにくいのか……? β版の時はそこまで難しくなかったけど。まあ、いいか。ちょうど暇してたとこだし――)
「そっか。俺でわかることなら何でも教えてあげるよ。それで、一体どんなことを聞きたいのかな?」
術技の確認と解説の勉強。
やりたかった二つのことも済ませたことで、勇はチュートリアルおじさんとして、今日も初心者達の力になってやるのだった。
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