第21話 自主勉(前編)

 頼ってきた初心者へのレクチャーをこなしてから、広場で再会したかつての教え子達とレベル上げ。

 それを繰り返すこと三日、勇ことジークのレベルは22まで上がっていた。


(それじゃあ、一旦街にっと)


 そうして今日もまたチュートリアルおじさんとして善行を重ねた勇は、転移の魔法陣に向かって歩みを進めた。


 時刻は既に23時半。

 普段ならバイトに備えてそろそろゲームを止める時間だが、幸いなことに明日はオフだ。


 少々の眠気と疲労感はあるものの、今日中にやっておかねばならないことがある。


 それは自分がまだ見たことのない、各スキルの術技の確認だ。


 βテストの段階で色々と試したため、それぞれ大体二つ目までの術技は知っている。

 しかし、三つ目以降の術技については知識がない。

 これでは第一回イベントの解説に支障が出るだろう。


 故に勇はレベルが上がった現段階でスキルポイントの振り直しを繰り返すことで、三つ目以降の術技を実際に一度自分で試しておこうと考えた。

 

 全てのスキルを確認するのはかなりの重労働になるが、恥は掻きたくないし、やはり大役を任せてもらった以上は期待に応えたい。


「よし!」


 そんな考えから勇は気合いを入れ、走って【始まりの街】の広場へと戻るのだった。



 ☆


 

 勇は防具屋の隣にある、看板にSPと書かれた小屋へと入った。

 そこで好青年の見た目をしたNPCに近づくと、声を掛けられる。


『スキルポイントのリセットだね。100ガルド掛かるけど、いいかい?』


<スキルポイントをリセットしますか?>


 表示されたシステムメッセージに対し、勇は迷うことなく『はい』のボタンを選択。

 その直後、装備が自動的に解除されたことで、腰に携えていた剣がふっと消え去った。


(じゃあまずは……短剣でも見てみるか)


 勇はメニューウインドウ内の【スキルポイント割り振り】から、保有している全てのポイントを短剣に割り振った。


<短剣を装備できるようになりました>

<短剣特技【クロスモーメント】を習得しました>

<短剣によるダメージ5%増加>

<短剣特技【ポイゾニックダガー】を習得しました>

<短剣によるダメージ5%増加>

<短剣特技【アサシンアタック】を習得しました>


 それにより、いくつかのシステムメッセージが表示される。


(やっぱり3つまでか。あのサイトに書いてあった通りだな)


 攻略サイトの情報によれば、4つ目の術技を覚えられるのは極振りで大体レベル30前後らしい。

 疑っていた訳ではないが、やはり事実だったようだ。


 本来であれば、4つ目・5つ目の術技も見ておきたかったがこればかりは仕方がない。


 そんなことを思いながら、勇はメニューウインドウ内の【アイテム一覧】のページに移行。


(さて、短剣短剣っと……あ! これこれ)


 指でなぞりながら、お目当ての【アイアンダガー】を見つけた勇はそのまま装備のボタンを押す。

 すると、目の前に鉄製の短剣が二本出現した。


 それを両手に握った勇は店から出て、再び【駆け出しの森】へと向かった。



 ☆



(よし。せっかくだし、復習も兼ねて一つ目の術技から試していくか)


「クロスモーメント!」


 技名を口にすると、腕を交差させるように短剣を振り下ろし、すぐさま同じ軌道を辿って振り上げる。


(うん。基本がこれだな。それで次は……この特技はモンスターに当てないと意味ないよな)


 勇は森を少し歩くことでモンスターを探す。

 少し経つと、もはや愛着が湧いてくるほど遭遇したジャイアントラットが目の前に現れた。


「――ポイゾニックダガー!」


 特技の発動により、短剣の刀身が緑色に変化した。

 同時に腕が真っ直ぐに伸び、二本の短剣がネズミを襲う。


「……あっ」


 すると、ネズミは消滅してしまった。

 ポイゾニックダガーは低確率で短時間の間、敵を毒状態にする技だ。


 その効果を確認したかったのだが、レベルが高すぎるせいか普通に倒してしまった。


(まあ、いっか。それで次が新技だけど何だっけ……)


 勇はメニューウインドウを開き、【スキルポイント割り振り】のページから三つ目の特技の詳細を確認する。


(えーっと、アサシンアタックだな。効果は低確率で相手を即死……確率次第ではぶっ壊れだなこれ。よし!)


「――アサシンアタック!」


 技名を口にすると、短剣の刀身が黒く染まり、同時に腕が真っ直ぐ伸びた。

 ポイゾニックダガーと全く同じ動作である。


「ん?」


 しかし、一つだけ違う点があった。

 それは身体が自由な状態になるのが遅く感じたということ。


 ポイゾニックダガーでは腕を伸ばしたと同時に身体の自動操縦が解除されるが、アサシンアタックは少しの間固まったような気がした。


「――アサシンアタック!」


 気のせいかと思い、もう一度試してみるとやはり腕を伸ばしたまま固まる。


(なるほど……硬直時間があるのか。これじゃあ使えないな)


 攻撃を外したり、当てても即死を引けなかったりすれば、ひと呼吸といえどもノーガード。

 確かに即死効果は強力だが、あまりにも博打すぎる。


 故に勇は微妙だと判断を下した。


(よし。短剣はオッケー、と。次は――)



 ☆



 勇は再び【始まりの街】へ戻り、スキルポイントをリセット。

 今度は水魔法にポイントを全て割り振り、またしても【駆け出しの森】へやってきた。


「弾けろ、水泡! ポッピングバブル!」


 すぐに魔法を唱えてみると、直径1メートルほどの巨大な水泡が出現。

 その後、ぷかぷかと浮かぶこと数秒、パァンと大きな音を立てて破裂した。


(うん。相変わらず、どうしてこれでダメージを与えられるのかサッパリわからん。さて、次のはモンスターに……お!)


 タイミングよく、コウテイバッタが木の影から姿を現した。

 勇はそのバッタ目掛けて手を伸ばし、詠唱を口ずさむ。


「荒れ狂う水よ! 仇なす者に蒼き鉄槌てっついを下せ! アズールガイザー!」


 術名を言い終えると同時、バッタの足元と上空にそれぞれ魔法陣が展開される。

 すぐさま足元の魔法陣から間欠泉のように水が噴出し、バッタは空中に放り出された。


 直後、今度は上空の魔法陣からバッタ目掛けて、水が勢いよく放たれる。

 その水圧によって地面に叩きつけられたバッタは、粒子と化して消え去った。


(これ、高所恐怖症の人とかキツいだろうな……)


 そんな感想を抱きながら、勇は未見である三つ目の術の詳細と詠唱文を確認。

 早速試してみることに。


「出でよ、荘厳そうごんなる水龍の化身! 我が前に立ち塞がる敵を喰らえ!」


 詠唱を口にすると、手の先に巨大な魔法陣が展開されていく。


「アクアドラグーン!」


 そして術名を発した瞬間、その魔法陣から水流がドラゴンの形をなして放出された。


「おおー!」


 モンスターにぶつけてないため、どれほどの威力かはわからないが、これは強そうだ。


 ただ――


(うわっ! ……MPガッツリ減るじゃん!)


 消費したMPは30。

 勇の最大MPが補正込みで105なので、3回しか唱えられない。


(乱発はできないのかー。対ボス戦とかならともかく、バトルロイヤルだと微妙そうだなぁ)


「よし! 水魔法も済んだし、次は――」


 それから勇は森と街を何度も行き来し、β版の時と同じように数時間掛け、全てのスキルの術技をそれぞれ試したのであった。

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