第20話 レベル上げ(後編)

「――おじちゃん、あそこっ!」

「おっ! よし。ラピッドスラスト!」


 勇は金色に輝くウサギ型の魔物――ゴールデンアルミラージに向かって特技を放った。


 そして、驚くほどの速さで接近して連続で突きを放つも、


「くそっ! またか!」


 剣が突いていたのは虚空。


 金ピカウサギの姿は既にどこにもなかった。

 これで五度目だ。


「また逃げられちゃった……。あのウサギさん、速すぎてズルい!」

「だね。またすぐに出てくると思うから、次こそはきっと!」


 ゴールデンアルミラージはレア個体と言えども出現率は低くないらしく、およそ5分に一回程度は遭遇できている。


 しかし、いかんせん逃げ足が異常に速く、出くわすことはできても倒せない。

 これもカイト達から聞いていたことだが、まさかこれほどまでとは思ってもいなかった。


 やはり、彼らが言っていた個体を運良く引き当てるしかないようだ。


「逃げない個体って本当にいるんですかね? 今のところ全部逃げられてますけど……」

「うん。前に友達が言ってたんだけど、居るらしいよ」


 基本的にゴールデンアルミラージはワープしたのかと思うほどの速さで逃げていくが、中には勇敢に攻撃を仕掛けてくる個体もいる。

 倒せるのはその個体だけ。


 膨大な経験値を得るには、レア個体の中からさらにレアな個体と出会う必要があるということだ。


「そうですか……。じゃあ、シュカちゃん! もう少し頑張ってみようか!」

「うんっ! シュカ、頑張るっ!」

「それじゃあ、次はこっちのほうに――」


 その後も【レッドジャングル】を彷徨さまようことしばし。


「あっ、あそこに!」


 ナナが新たなゴールデンアルミラージを見つけた。


「よし。シュカちゃん、行くよ!」

「うんっ! せーのっ!」

「「ラピッドスラスト!」」


 勇とシュカは同時に特技を発動させ、ターゲットに迫る。


(――おっ!)


 すると、そのゴールデンアルミラージは逃げずに突進を仕掛けてくる。

 そのおかげで、二本の紅い剣は見事金色の身体を捉えた。


<レベルが16に上がりました>


 刺突を繰り返してすぐ、その勇敢な金ピカウサギは消滅し、同時にシステムメッセージが浮かび上がる。


(おお! やった!)


 普通のアルミラージを10体近く倒しても上がらなかったレベルが一気に3レベルもアップした。

 

「やったー!」

「やったね、シュカちゃん!」


 勇とシュカはハイタッチをし、喜びを分かち合った。

 そこにナナが駆け寄ってきて、口を開く。


「やりましたね! 一気に17までレベル上がっちゃいました!」

「シュカも16になったよ!」

「俺も16! いやぁ、これは確かに美味いね」

「ですね! この調子でもう一匹……って、ヤバ! そろそろあたし落ちないと」


 ナナの言葉が気になり、メニューウインドウから時間を確かめると23時少し前。

 思っていたよりも時間が経っていたようだ。


「本当だ、もうこんな時間。シュカちゃんもそろそろゲーム止めないとだね」

「えー、まだシュカ眠くないよー?」

「シュカちゃん、明日も学校でしょー? それにほら、お父さんからゲームは『23時までって言われてる』って前に言ってなかったっけ?」

「むー、じゃあ今日はお終いにする……」

「いい子いい子! じゃあ、街に戻ってから今日はお終いにしよっか。チュートリアルおじさんはどうします?」


 ナナはシュカの頭を撫でながら、勇に尋ねてきた。


 普段ならそろそろ落ちる時間だが、今日は始める時間も遅かったこともあってまだ疲れてはいない。

 それにもう少しレベルを上げておきたい。


 そんな考えから勇は【レッドジャングル】に残って、引き続きゴールデンアルミラージを狩ることに決めた。


「俺はもう少しここに残るよ。二人とも今日はありがとう!」

「そうですか。いえ、こちらこそありがとうございました!」

「おじちゃん、また一緒に遊ぼうね!」

「うん! シュカちゃん、またね!」

「それじゃあ、あたし達はここで。おやすみなさい!」


 そう言って二人は去っていった。


(やっぱり誰かと一緒にプレイするのは楽しいな。よし、じゃあ俺はもうひと頑張り……っと、その前に)


 勇は再びメニューウインドウを開き、まずパーティーを解散。

 そのまま【スキルポイント割り振り】のページに移行し、獲得したポイントを振ることに。


「とりあえずこれでいっか」


 呟きながら、ポイントを全て片手剣に割り振る。


<片手剣特技【フライング・エッジ】を習得しました>


(お! 何か覚えたぞ!)


 βテストではここまでポイントを振っていなかったため、これはまだ未見の特技だ。


(なになに……? へえ、飛ぶ斬撃か! まあ、定番だよな〜)


「よし! フライング・エッジ!」


 習得した特技を早速発動してみると、剣を下から上に振り上げるように身体が動く。

 同時にその軌道が実体化し、三日月状の物体が凄まじい速度で飛んでいった。


(なるほど、離れた敵にも攻撃できると。便利だけど、ファイアボールと少し役割が被っちゃうな。まあ、それはいっか)


 どうせレベルをもう少し上げた後は、スキルポイントを振り直す。

 故に勇はスキルの構成についてはひとまず気にせず、ゴールデンアルミラージ狩りを再開することにした。



 ☆



「うーん……居ないなぁ」


 見通しが悪いせいで、一人だと中々お目当ての金ピカウサギを見つけられない。

 やはり、経験値が分散されるといっても、複数人のほうが結果的に効率がいいようだ。


「――でよー、俺がこうズサァっと剣を振り下ろしてよぉ!」

「はいはい、それはさっき聞いた……って、お! あそこにいるのチューおじじゃん!」

「あ、ほんとだ! チュートリアルおじさーん!」


 背後から唐突に声を掛けられ振り返ると、そこには見覚えのある顔が三つ。

 以前、自分がレクチャーしてあげたプレイヤー達だ。


「あ、君達は確か前に……」

「そうそう、この間はサンキューな! それで、チューおじもゴルアミ狩りか?」


(ゴルアミって略すんだな……)


「うん、そうだよ」

「そうかい! じゃあさ、よかったら俺達のパーティー入んねえか? 人数が多いほうが見つけやすいだろ?」

「え、いいの?」

「もっちろん! チュートリアルおじさんなら喜んでオッケーだよ〜」

「なら、ぜひ!」

「おう、なら早速申請送っから――」


 その後、勇はかつての教え子達とワイワイ盛り上がりながら、ゴールデンアルミラージ討伐に励んだ。

 その結果、運良く一体討伐でき、レベルが18に上がったところで彼らと共にゲームを終了したのだった。

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