第18話 運営からのメール
翌日。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「へーい、お疲れっしたー」
夕方になったことで、本日のバイトは終了。
勇はいつも通り無愛想な高校生バイトに挨拶を済ませ、店を出た。
そうして何気なくスマホをチェックしてみると、メールの通知が一件。
題名には『ドリームファンタジー 第一回イベント開催決定のお知らせ』と記載されている。
(お、とうとうか!)
勇はワクワクとしながら、そのメールを開いた。
そこに書かれていたのは、第一回目のイベントとしてバトルロイヤルが開催されるというもの。
時間経過でエリアがどんどん縮小していく中で、最後まで生き残ったプレイヤーが勝利するという、あの定番のルールだ。
なお、今回は個人戦らしい。
開催日時は今から10日後、日曜日の昼12時。
勇は急いで写真フォルダからシフト表を確認すると、運よくその日は休みだった。
「よっしゃ!」
これでイベントに参加できる。
それを確認したところでメールに戻り、そのまま続きを読み進めていくと賞品に関する記載があった。
賞品は今後実装されるアイテム数種。
上位に入ると、それらを実装される前に試せるようだ。
加えて、プロフィール画面や掲示板などで表示される名前の欄に特別な印が付くらしい。
(……微妙だな)
人によって捉え方は違うだろうが、勇は特に魅力を感じなかった。
だが、正直賞品なんかはどうでもいい。
ただイベントに参加して楽しめればそれでいい。
それにそもそも、上位入賞なんて自分にはできないしな。
勇はそんなことを考えながら、帰路に就いた。
☆
家に着いた瞬間、お帰りと言わんばかりにスマホが震える。
また、メールが届いたようだ。
勇は冷蔵庫からエナジードリンクを取り出し、喉を潤したところでスマホをチェック。
「ん?」
通知には『初めまして。株式会社サンダポールの木村と申します』とある。
サンダポールは、日本を代表するゲームメーカーの一つ。
もう一社の大手ゲームメーカーと共同でドリームファンタジーを開発し、今は運営業務を担っている企業だ。
(運営から? 一体何だろう……)
勇はメールを開き、本文に目を通す。
「……は?」
最後まで読み終えたところで、自然と言葉が
そこに記載されていたのは、ドリームファンタジーの第一回イベントにて、勇にゲスト兼解説として出演してもらえないかという内容だった。
当日の模様はゲーム内および公式チャンネルで配信されるため、そこへの出演依頼ということだ。
謝礼などについては、テレビ電話なんかで詳しくお伝えさせて頂けたらとのこと。
(いや、なんで俺が……?)
普通、こういったイベントの配信に呼ばれるのは芸能人や有名配信者。
当然、そのどちらにも当てはまらない勇は何故自分なんかに声を掛けてきたのか、全く見当がつかなかった。
だが、お誘いを頂いたのは紛れもない事実。
そこで勇は無視をするのも悪いしと、受けるか断るかは別として、ひとまず話を聞いてみることにした。
「えーっと、この度はお声掛け頂きありがとうございます。つきましては、詳しくお話をお聞かせ頂ければと存じます。っと……。まあ、こんなんでいっか」
勇はメールにそう返し、返信が来るのを食事しながら待つ。
すると、メールはすぐに返ってきた。
内容は返信に対する礼と、いつ話せるかという質問だ。
そこからやり取りを重ねた結果、これから早速ビデオ通話をすることに。
勇はノートパソコンを立ち上げ、送られてきたURLにアクセスすると相手の顔が表示される。
自分より少し下くらいの眼鏡を掛けた賢そうな男性だ。
「あ、どうも。
『ああ、多井田さん! すみません、急な話で。初めまして、木村です』
「は、初めまして!」
『はい! それで多井田さんには、ぜひ出演をお願いできたらと考えているのですが、いかがでしょうか?』
「あ、あの、すみません。何故自分なのでしょうか?」
勇は当然の疑問をぶつけた。
何せ自分は35歳フリーターの冴えないおっさん。
到底、ゲストとして招かれるような人間ではない。
『ああ、それはですね――』
木村は何故勇に声を掛けたのかを熱弁した。
その話を纏めると、どうもチュートリアルおじさんとしての話題性が選ばれた理由のようだ。
しかし、それを聞いても勇はまだ理解できない。
「いや、確かに一部の人には知ってもらえているようですけど、自分なんてまだまだ無名ですよ?」
『何をおっしゃいますか! 今ドリームファンタジーでは、チュートリアルおじさんの話題で持ちきりですよ! それにネットニュースにもなってるじゃないですか!』
(ネットニュース……ああ、エレナさんのやつか)
「あ、そのネットニュースはあくまでエレナさんが主役で、自分はおまけというか、ついでというかですね……」
『ああ、それとは別に多井田さんの記事があるんですよ。コメント数も凄くて! ご存知ないですか?』
「……えっ? それは知りませんでした」
『そうでしたか。それもあって、今各所でチュートリアルおじさんが凄く話題になってましてね。出演して頂けたら、イベントも大いに盛り上がるかと思いまして。それがお声掛けさせて頂いた正直な理由です』
早い話が客寄せパンダという訳だ。
どうやら自分が思っている以上に有名人になっているらしい。
それでも、まだ勇には疑問が残る。
「……あの、それならエレナさんとかのほうがいいのではないでしょうか?」
知名度があるし、何より華がある。
ゲストにはまさに打ってつけだと思うのだが、なぜエレナではなく自分なのだろうか。
そんな疑問をぶつけると――
『あ、エレナさんには既にお声掛けして断られました! ゲストとしてではなく、プレイヤーとして参加したいとのことで。他の配信者の方々も同様です』
「な、なるほど……」
そう言われて、勇は腑に落ちた。
『それとお伝えしていなかったのですが、謝礼については大体このくらいでお願いできればと』
木村は手をチョキの形にして、カメラに映す。
「2万円ですか」
正直、それだけで2万円ももらえるのであれば引き受けたい気持ちはある。
ただ、自分にはあまりにも荷が重すぎる。
上手くこなせるかどうか不安だし、木村には悪いが断らせてもらったほうがいいのではないか。
そんなことを考えていると、
『ん? いえ、20です』
木村からとんでもない言葉が飛び出てきた。
「に、20万円ですか?!」
『はい。すみません、どうしてもエレナさんや他の人気配信者さんよりは少し下がってしまうのですが』
コンビニバイトの勇にとっては、20万円は超がつくほどの大金だ。
何せ一ヶ月分の給料よりも多い。
そんな大金を僅か一日、それもゲームのことについて話しているだけでもらえる。
勇の答えは一つしかなかった。
「あの、自分でよければ……その、ぜひお引き受けさせて頂ければと」
何とも現金な男だが、ギリギリな生活をしている以上、こればかりは仕方ない。
『本当ですか!?』
「は、はい! こんなおっさんでよければ」
『ありがとうございます! いやぁ、本当に助かります! 多井田さんにも断られてしまったら、どうしようかと思っていたところでして』
「あはは……。では、よろしくお願いします」
『はい、こちらこそ! また詳細はメールでお伝えさせて頂きますので!』
かくして、勇はドリームファンタジー第一回イベントをプレイヤーとしてではなく、ゲスト兼解説として出演することになったのだった。
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