第17話 チュートリアルおじさんVS有名配信者
「――ラピッドスラスト!」
「氷の弾丸、
試合開始の合図が出されたと同時に、両者は動き出した。
対象に急接近してから
一方のエレナは詠唱を口ずさんで、魔法陣を展開。
「アイシクルショット!」
直後、鋭く尖った氷柱が勇に向かって飛んでくる。
(マジかよ!)
それを避けることなく……いや、避けられずに勇は被弾しながらエレナに近付き、目にも留まらぬ速さで何度も剣を突き出す。
「わわっ!」
連続突きはフルヒット。
だいぶ削れただろうが、勇も一発もらってしまった。
これは想定外。
勇はてっきり、エレナはより強力な氷魔法――フリジットブレードを唱えてくると考えていた。
その場合、詠唱文が長く発動までに少し時間が掛かる。
詠唱中に攻撃を受けると、展開した魔法陣が破棄される仕様であるため、先に攻撃することで発動を阻止するつもりだったのだが――
(ラピッドスラストが裏目に出たな……)
特技を発動すると攻撃を終えるまで、身体の自由がきかない。
ラピッドスラストは直進の動作も攻撃の一部であるため、勇は氷柱を避けたくても避けられなかったのだ。
「凍てつく冷気よ! 蒼き剣と化し、仇なす者を切り刻め!」
(――ヤベっ!)
面を食らっていると、距離を取っていたエレナが次の一手を打ってきていた。
「フリジットブレード!」
魔法陣から氷でできた複数の短剣が、凄まじい速度で勇に向かって飛んでくる。
その短剣を反射的に剣で弾くも、全ては
二つの魔法を喰らい、勇のHPは既に半分を下回ってしまっていた。
だが、それで怯む勇ではない。
「せいっ!」
エレナのもとに駆け寄ると、剣を左斜め下へと振り下ろした。
「ダブルスラッシュ!」
さらに特技――ダブルスラッシュの発動により、二回斬りつける。
攻撃はいずれも命中。
これでエレナのHPも残り僅かなはず。
勇は
(もらった!)
「――サマーソルトキック!」
「えっ!?」
エレナは後方に宙返りをしながら、勇を蹴り上げた。
「フットスタンプ!」
着地と同時、今度は前方に高く宙返りをし、落下ざまに両足で勇を踏みつけ――
☆
勇は【始まりの街】の噴水前に転移させられた。
身体は幽霊の姿。そう、エレナに負けてしまったのだ。
(これは一本取られたな。まさか足技のスキルを上げていたなんて)
エレナは杖を持っていた。
杖は魔法の威力を少しだけ高める効果があるのと同時に、一応打撃武器としても活用できる。
が、当然その攻撃力はかなり低めに設定されている。
だからこそ勇は迎撃を恐れる必要もなく、勝ちを確信していたのだが、エレナはまさかの足技を繰り出してきた。
杖を装備しているから、魔法しか上げていない。
そんな凝り固まった先入観が今回の敗北の原因だ。
(フッ、俺もまだまだだな)
「ジークさーん!」
そんなことを考えていると、エレナの声が聞こえてきた。
見ると、自分と同じく幽霊の姿になっている。
「え? エレナさん、どうして死んでるの?」
「あ、これはここに転移するために、みんなに攻撃してもらったんですよ! それでジークさん、対戦ありがとうございました!」
そのことを伝えるために、エレナは敢えて死ぬことで勇の元に転移してきた。
俗に言うデスルーラだ。
「なるほど、それを言いに来てくれたんだね! こちらこそありがとう! いやぁ、エレナさんやるね!」
「えへへっ、ありがとうございます! あ、ジークさん聞いてください! 試合後に放送のページを見たら、なんとっ!」
「なんと?」
「視聴者数15万人になってたんです!」
試合前に確認した時は確か13万人だったはず。
それがさらに2万人も増えた。
理由はわからないが、恐らく配信サイトの急上昇ランキングか何かに載ったのだろう。
「おお、おめでとう! 凄いね!」
「はい、これも全部ジークさんのおかげです! 本当にありがとうございました!」
「いえいえ、どういたしまして! 俺こそ今日はありがとう、楽しかったよ!」
その後、試合の感想などを話し合っていると、【駆け出しの森】から戻ってきたプレイヤー達が二人を囲んだ。
プレイヤー達は二人の戦いを褒め称え、ワイワイとした賑やかな時間が流れていくのだった。
☆
翌日、昼過ぎ。
バイト中、休憩に入った勇は近くの牛丼屋で昼食をとっていた。
(へー、あの俳優と女優結婚するんだ。まあ、確かにお似合いだよな~)
左手にスマホを持ち、ネットニュースを読みながら牛丼を食べる。
これがいつもの休憩時間の過ごし方だ。
そのまま何か面白そうな記事がないかと画面を動かしていると、
「……えっ?」
とある記事が表示された瞬間、勇はピタリと硬直した。
親指の先にある記事のタイトル、それは――
『人気配信者・エレナ、同時接続15万人突破の快挙!
(……な、なんじゃこりゃ!)
本人が知らないところでまた一層、チュートリアルおじさんの名声が轟いていくのであった。
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