第14話 教え子達からの恩返し(後編)
有名な配信者の放送に出たこと。
チュートリアルおじさんとして有名になってしまったこと。
そうなったきっかけの一つが、コミュニティ掲示板に投稿されたカイトの書き込みだということ。
そんな話で盛り上がりつつ、歩くこと数分。
四人は【試練の洞窟】へと繋がる転移の魔法陣のもとに辿り着いた。
【駆け出しの森】に繋がっている魔法陣とは、また別の場所だ。
「うし! じゃあ、俺からパーティーに誘うわ」
カイトはメニューウインドウを開き、何度か指を動かす。
<【カイト】さんからパーティーに招待されました。参加しますか?>
表示されたシステムメッセージに勇とリオンが了承したことで、冴えないおじさん・チャラいカップル・真面目な男子高校生という、何ともバラエティ豊かなパーティーが結成された。
ちなみにパーティーを組んだのは、戦闘中に
「じゃあ、行きましょうか!」
☆
魔法陣を使い、四人は【試練の洞窟】に転移した。
さすがはゲーム。光が届かず灯りもないというのに中は明るい。
「んじゃ、行こうぜ!」
その後、奥に向かってしばらく歩いていると、四人の前にモンスターが現れた。
黒いイノシシ――ブラックボア。
勇にとっては初めて見るモンスターだ。
(よし! 早速この剣の切れ味を!)
「せいっ!」
勇は飛び出し、イノシシに向かって剣を振り下ろす。
「ダブルスラッシュ!」
さらに特技で追撃。
しかし、イノシシはまだ倒れず、そのまま突進してきた。
勇は受けたダメージを確認するため、HPに目を向ける。
「なっ!?」
すると、80あったHPが50まで減っていた。
あの一撃で30ものダメージ。あと二回喰らえばお陀仏だ。
(え、強くね? ……無理無理、勝てないってあんなの!)
そんなことを考えていると――
「さらなる力よ、彼の者の刃に宿れ! シャープエッジ!」
「――ヘビー・ストライク!」
後ろから声が聞こえてきた。
直後、カイトがイノシシに急接近し、両手で握った大柄な剣を真っ直ぐに突き刺す。
そして、イノシシは粒子となって消え去った。
<レベルが10に上がりました>
同時にレベルアップの通知。
先ほどまで勇のレベルは8だったため、一気に2レベルも上がったことになる。
経験値を四人で割った上で2レベルもアップするということは、それだけ強いモンスターであったという証拠。
そんな強敵に
「――癒しの光よ、彼の者に宿れ! ヒール!」
理解が追いつかず、あんぐりしている勇にエミが回復魔法を掛ける。
そこでようやく我に返った勇は、カイト達に一つ質問をした。
「……ねえ。カイト君達って今レベルいくつ?」
「ん? 俺とエミは21だけど」
「僕はまだ20です」
勇は驚愕した。
自分がたった今レベル10になったところなのに、彼らは既に20台。
あの超初心者だった三人が今ではもう格上になっていたのだ。驚くのも無理はない。
「あの、俺、今の戦闘でやっと10になったところで……」
「え? おっさん、そんなにレベル低かったのかよ! てっきりもう30くらいまで上げてるのかと思ってたぜ」
「ねー、意外!」
勇はスタートダッシュこそよかったものの、それ以降はレクチャーしか行っていない。
初心者に教える際にちょこちょこバッタやネズミを倒してはいたが、レベルに対しての獲得経験値が少なすぎて初日から全くレベルが上がっていないのだ。
故に普通にプレイしている彼らにレベルを追い抜かれるのは、至極当然のことであった。
「ご、ごめん……俺パーティー抜けるよ」
「ん? どうしてですか?」
「いや、だってこれだと戦力になれないどころか、経験値だけ吸って邪魔になっちゃうし」
カイト達は自分が戦力になると踏んだから誘ってくれた。
それに応えられないのだから、抜けるのが当たり前。
勇はそう考えていたのだが――
「別におっさんが弱かろーが、そんなの気にしねーよ! だからこのまま一緒にいこーぜ!」
「そそっ! あたし達はただワイワイ楽しみたいだけだし」
「そうですよー! そんな水臭いこと言わないでくださいよ!」
その優しさに感極まり、再び涙が溢れそうになる。
それを勇はグッと堪え、彼らの厚意に感謝を告げた。
「み、みんな、本当にありがとう……! なら、このままよろしく!」
「おう! じゃあ、進もうぜ!」
「うん! ……あっ、ごめん。ちょっとだけ待って」
勇はメニューウインドウを開き、先ほどのレベルアップで獲得したポイントを片手剣に割り振った。
<片手剣特技【ラピッドスラスト】を習得しました>
それにより、勇は二つ目の特技を使用できるようになった。
「お待たせ! カイト君達のおかげで新しい特技覚えられたよ」
「お、よかったですね! それで、どんな技なんですか?」
「対象に急接近して連続で
「へえー、何か凄そー! おっさん、後でやってみせてね!」
「うん、もちろん!」
「よし、じゃあ行くか!」
☆
黒いイノシシを倒しながら歩くこと数分。
曲がり角の前で四人は立ち止まった。
「おっさん、ここを曲がったらボスだ。気合い入れろよ!」
「りょ、了解っ!」
(どれだけやれるかはわからないけど、せめて邪魔にだけはならないよう頑張ろう……)
「じゃ、ここでシャープエッジ掛けとくね。さらなる力よ、彼の者の刃に宿れ! シャープエッジ!」
エミはカイトに向かって、武器の威力を高める光魔法――シャープエッジを発動。
それによって、カイトの大剣が光を帯びた。
その後、勇とリオンにも同じようにエミが魔法を掛ける。
「よっしゃ! んじゃ、行くぞっ――」
言い終わると同時、カイトが走り出し、一歩遅れて勇が後を追う。
さらに遅れてリオンとエミが続く形で、四人は曲がり角を進んだ。
およそ2メートルほどの大きさで、左手には生意気にもアイアンソードが握られている。
ボスにしてはいささか迫力に欠けるが、ボスと言うからには強いのだろう。
そう考えた勇は油断することなく、愛剣を構える。
「――ヘビー・ストライク!」
先陣を切ったのはカイト。
彼は一気にリザードマンと間合いを詰め、真っ直ぐに両腕を伸ばした。
その一撃は見事命中。
直後、リザードマンは左腕を振り下ろすも、カイトが横に飛び退いたことでその剣は
「光の雨よ、降り注げ! シャインスコール!」
「アローレイン!」
ひと呼吸置いて、リザードマンに光線と矢の雨が降り注ぐ。
「おっさんっ!」
「うん! ――ラピッドスラスト!」
勇はリザードマンに急接近し、目にも留まらぬ速さで刺突を繰り返した。
8度目の突きを終えたところで、リザードマンはキラキラとした粒子となって
カイト達が強かったからだろう。呆気なく勝利した。
<レベルが13に上がりました>
<【グレートソード】を獲得しました>
その瞬間、システムメッセージが二つ浮かび上がった。
「うわ、マジかよ。また片手剣だし……」
「あ! あたしは弓だ」
「僕は杖です! ってことは――」
「「やったー!」」
エミとリオンは両手を上に伸ばしながら、喜びの声を上げる。
「はぁ……いいよな、お前らは」
そんな二人とは対照的に、カイトはあからさまに落ち込んだ。
「あの、これって確定で何かしらの武器がドロップするってこと?」
「そうそう。俺はまたハズレだよ……。そういや、おっさんは何だった?」
「俺は【グレートソード】ってやつだったけど」
言うと、カイトは目を大きく見開き、硬直した。
(お、もしかして)
勇はアイテム一覧を開き、手に入れた武器の詳細を見てみると――
◆◇◆◇◆◇◆◇
【グレートソード】
分類:大剣
攻撃力:35
説明:分厚い刃を持つグレートな剣
◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱり大剣だ! じゃあ、これはカイト君に」
勇はプレゼント機能を利用して、その【グレートソード】をカイトへ送った。
「お、おっさん! これ……まさかくれるのか?」
「うん、もちろん! 片手剣もらったし!」
「……おっさん、あんた最高だぜ! マジサンキューな!」
カイトは勇の右手を両手で握り、これ以上ないくらいの眩しい笑顔を浮かべた。
それを見た勇も嬉しくなり、顔を
「どういたしまして!」
「おっさんマジ神だわー。あ、そうだ。お礼に片手剣やるよ!」
「え? いや、いいよ! さっきもらったし」
「いいからいいから! 売るなり、他の奴にあげるなり、好きにしていいからよ!」
他の奴という言葉を聞いた瞬間、勇の脳裏にある少女の顔が浮かんだ。
(そういえば、あの子も片手剣だったな。あげたら喜ぶだろうし……よし! あの子のためにもここは素直にもらっておこう)
「ありがとう! それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「おう! 今から送るからよ!」
「かーくん、よかったね!」
「これでみんなの武器が揃いましたねっ!」
「だな! マジでおっさんが居てくれてよかったぜ!」
その後、四人は話に花を咲かせながら、【試練の洞窟】を後にしたのだった。
☆
「じゃあ、俺らはこの辺で。おっさん、また一緒に遊ぼうぜ!」
「おっさん、ありがとねー!」
「あ、僕も落ちないと。ジークさん、今日は一緒にプレイできてよかったです! ぜひ、またパーティー組んでください!」
「うん、みんなお疲れ様! 俺も楽しかったよ! それじゃあ、またね!」
【始まりの街】に戻ってきた直後、カイト・エミ・リオンは別れを告げ、ゲームから去っていった。
(……楽しかったな、本当に)
勇はしみじみと感じながら、広場の噴水に向かって歩いていく。
その道中――
「す、すみません! もしかしてチュートリアルおじさんですか?」
「え!? この人があのチューおじ!?」
一組の男女が声を掛けてきた。
「はい、そうですよ」
「あの、噂で聞いたんですけど、初心者に色々と教えてくれるって本当ですか? よ、よかったらその、僕達にも……」
「いいですよ! 俺でよければレクチャーします!」
勇は迷うことなく、明るい口調で了承。
そうして、勇はチュートリアルおじさんとして、今日も初心者達の力になってやるのだった。
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