第13話 教え子達からの恩返し(前編)
今日はバイトが休みなこともあって、勇は昼間からドリームファンタジーにログインした。
「やっぱ少ないな」
さすがは平日の真昼間だけあって、プレイヤーはまだまだ少ない。
その少数のプレイヤー達も勝手がわかっているのか、どこかに向かって真っ直ぐに歩いているし、助けを求めているような初心者は一人も見当たらなかった。
(声を掛けてくる人も居ないし、今のうちに森以外のエリアでも探索してみるか!)
そう考えた勇はマップを見ようと、メニューウインドウを開いたところ――
「おっ、いたいた! おーい、おっさん!」
後ろから声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには見覚えのある顔が二つ。
「おお、カイト君にエミさん!」
初日に出会ったチャラいカップルだ。
初期装備の質素な服装とは異なり、おしゃれな服に身を包んでいる。
「よう、おっさん! ようやく会えたぜ!」
「おひさー! マップに表示されたから飛んできたよ!」
「うん、久しぶり……って、わざわざ会いに来てくれたの?」
「おう! 渡したい物があってよ!」
カイトはすっかり慣れた手つきでメニューウインドウを開き、何度か指を動かす。
<【カイト】さんからアイテムが送られました。受け取りますか?>
すると、勇の目の前にシステムメッセージが表示された。
「それ、やるよ! この前色々教えてもらったから、そのお礼だ!」
「あ、ありがとう! 何だろう」
勇は素直に受け取り、そのアイテムを確認してみる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【クリムゾンエッジ】
分類:片手剣
攻撃力:30
説明:真紅に染まりし剣
◆◇◆◇◆◇◆◇
(……めちゃくちゃ強い。これ絶対レアアイテムだ)
今、勇が装備しているのは初期装備の【アイアンソード】。
攻撃力というのは武器そのものの強さを示す数値で、街の武器屋で買える最高値が攻撃力20だ。
それを踏まえると、30というのはかなり強い。
「ありがとう、カイト君! でも、これ多分レアな武器だよ? さすがにそんな良い物をもらう訳には……」
「いいっていいって! 俺が上げてるのは大剣だから、片手剣持ってても意味ねーし!」
「あ、そういうことか。前に伝えてなかったけど、スキルポイントの振り直しならできるよ――」
だから片手剣に振り直して使いなよ。と続けようとしたところで、
「ああ、それなら知ってるぜ! でも俺はもう、大剣一筋って決めてっからさ! どうせ使わねーし、おっさんが使ってくれよ!」
カイトが勇の言葉を遮ってそう言った。
「そだよー。この前のお礼も兼ねてるんだから素直に受け取っておきなって!」
さらにエミからの後押し。
あの程度のことでこれほどのアイテムをもらうのは気が引けるが、ここで変に遠慮すれば
故に、勇は彼らの厚意を素直に受け取らせてもらうことにした。
「……そっか。そういうことなら、ありがたくもらっておくよ! 二人ともありがとう!」
「おう!」
「どういたしましてー!」
(本当にいい子達だな……。俺、幸せだわ)
勇は感激のあまり、思わず泣きそうになるのをギリギリのところで堪える。
これまで多くのVRMMOをプレイしてきたが、人から贈り物をされたことなんて初めてだ。
「じゃあ、早速!」
勇は彼らからもらった【クリムゾンエッジ】を装備。
真紅に染まった、見るからに強そうな剣が勇の右手に握られた。
「おお、かっけーじゃん!」
「ねー。ちょっとおっさんには派手だけど!」
「あはは……。ありがとう、大切にするよ! ところで、二人はどこでこの剣を?」
「ん? マップの下のほうにある【試練の洞窟】だけど。おっさん、もしかしてまだ行ってねーのか?」
「あ、うん。実は【駆け出しの森】以外は、まだあんまり……」
勇は苦笑いしながら答えた。
すると、カイトとエミは顔を見合わせる。
一度大きく頷くと、エミが口を開いた。
「ねえ、おっさん。今って時間あるー?」
「うん、今ログインしたところだから」
「それなら俺達と一緒に今からその洞窟行かね? 丁度向かおうとしてたところなんだよ」
「え、俺もいいの?」
「おう! 人が多いほうがボスを倒すのも楽だしな!」
(ボスが居るのか! それは楽しみだ!)
「そういうことならぜひ!」
「うし! じゃあもう一人連れが来るから、そいつが来たら――お、丁度来たみたいだ。おーい!」
カイトの視線のほうに目を向けると、これまた見覚えのある男の子が駆け寄ってきていた。
「ジークさんじゃないですか! この前は本当にありがとうございました!」
「リオン君! 久しぶり……って、えっ? 三人って知り合いだったの?」
てっきりカイト達と同じく派手な人が来るかと思いきや、来たのは初日に出会った優等生君――リオン。
まさかこの三人が知り合いだとは思ってもおらず、勇は驚いた。
「ああ、リオンとはコミュニティ掲示板で知り合ってさ。なっ!」
「はい! ジークさんにこのゲームのことを教えてもらった者同士ってこともあって、仲良くなって。たまに一緒にプレイしてるんです」
(コミュニティ掲示板……そういえば前に見た時、リオンって名前の書き込みもあった気が。なるほど、それでか)
「へえ、そうだったんだ! 会えて嬉しいよ!」
「はい、僕もです!」
「リオン、今日はおっさんも来てくれるってよ!」
「え、本当ですか!? やったー!」
「おう! よし、じゃあ揃ったことだし、早速行くとすっか!」
「「「おー!」」」
かくして、四人は【試練の洞窟】に繋がる転移の魔法陣に向かって歩みを進めるのであった。
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