第10話 轟く名声
翌日。
昨日ほどではないが、今日もたっぷりとストレスを抱えて勇はバイトから帰宅した。
「よし、今日こそは!」
この二日間、色々と予想外のことが起きて、未だ初心者狩りを成せていない。
こうなったら意地だ。
今日こそは何としてでも、リア充達の泣きっ面を拝んでやる。
そんな決意を胸に、勇はドリームファンタジーの世界へ旅立った。
☆
ログイン後、勇は手頃なターゲットを見つけるため、移動して定位置のベンチに腰を下ろした。
その瞬間――
「あの! もしかしてジークさんですか?」
目の前に二人の女性が立ちはだかり、声を掛けてきた。
今風の若くて可愛らしい女性達だ。きっと大学生くらいだろう。
「え? あ、はい。そうですけど……」
答えると、その女性達は顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
何か嫌な予感がする。
根拠はないが、この二日間の経験から勇はそう感じた。
「あの、私達初心者なんです! よかったら色々と教えてもらえませんか?」
「お願いします!」
予想は見事に的中。
「……あ、あの。どうして俺に?」
見た目が強そうだからという理由であれば、まあわからなくはない。
ただ今回はまさかの名指しだ。なぜ、わざわざ自分なのか。
いや、そもそもどうして自分のことを知っているのか。
そんな疑問が浮かぶ中、ふと昨夜のことを思い出した。
(そうだ、昨日エレナさんの放送に出たんだ。それを見て声を掛けてきたんだな、きっと。はぁ……)
「コミュニティ掲示板に書かれてたのを見たんです!」
「……コミュニティ掲示板?」
エレナの放送を見たという答えが返ってくるかと思いきや、耳に届いたのは予想外の言葉。
コミュニティ掲示板とはその名の通り、ユーザー同士が交流を図る掲示板のこと。
メニューウインドウの中から閲覧・書き込みができる。
全く活用していないが、勇もその存在は知っている。
「はい! 鉄の鎧を着たジークっていうおじさんに話し掛ければ、色々と親切に教えてくれるって書かれてたので!」
「……はい?」
もはや意味がわからない。
一体誰がそんなことを書いたのか。
「……すみません。その書き込み、見せてもらってもいいですか?」
「あ、はい! 少し待ってくださいね」
片方の女性がメニューウインドウを開き、慣れた手つきで数回指を動かす。
「えーっと、あっ! これです!」
指差された部分を見てみると、そこには――
◆◇◆◇◆◇◆◇
始めたてで何もわからないってやつ!!
[1]カイト
鉄の鎧を着たおっさんを見つけたら話しかけてみ!
色々と教えてもらえるぞ!
[2]リシュー
それって、たまに見かける噴水周りのベンチに座ってるおっさんのこと?
[3]カイト
そう! ジークっていう名前なんだけど、めっちゃ優しいから初心者は色々と教えてもらえ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
(もしかして……)
勇はニックネームの部分に触れ、最初に書き込みをした人物のプロフィールを表示させた。
すると現れたのは、見覚えのあるホスト風の男。
(か、カイト君……)
何とも余計なことを書いていたのは、初日に出会ったチャラいカップルの男性――カイト。
今目の前に居る女性達は、この書き込みを
「……わかりました。俺でよければレクチャーします」
「わっ! ほんとですか? ありがとうございます!」
「やった! 助かりますー!」
ここで勇が断れば、その書き込みをしたカイトが嘘つき呼ばわりされてしまう。
彼は見た目こそ軽薄だが、気のいい奴だ。
それに今ではフレンドでもある。
そんなカイトのためにも、彼女達の頼みを断る訳にはいかなかった。
「それでどんなことを教えてほしいのでしょうか?」
「えっと、まだ私達モンスターと戦ったことがないので、よければその戦い方とか!」
「あ、あと、スキル? っていうのも教えてほしいです!」
「そうですか、わかりました。じゃあ、俺についてきてください」
☆
【駆け出しの森】で諸々とレクチャーすること数十分。
「ざっとこんなところかな。他にもわからないことありますか?」
「いえ、もうバッチリです! 色々と詳しくありがとうございます!」
「本当にありがとうございます! VRMMOってこんなに楽しいんですね!」
女性達は頭を下げながら礼を述べてきた。
これでようやく勇は自由の身だ。
「いえ、どういたしまして。じゃあ、俺は一回街に戻りますけど、二人はどうします?」
「私達はこのまま少しレベル上げしていこーと思います!」
「そっか、頑張ってください。じゃあ、俺はこの辺で」
「はい! ジークさん、本当にありがとうございました!」
「助かりました! お気をつけてー!」
勇は女性達に別れを告げ、その場を去った。
(ふう……。カイト君のせいで面倒な目に遭った。まさか掲示板に俺のことを書いていたなんて。あ、そうだ。他に変なこと書いてないだろうな……)
それを確かめるため勇は一旦立ち止まり、メニューウインドウからコミュニティ掲示板を開いた。
その中から先ほど見たスレッドを探し出し、飛ばし飛ばしに目を通すと――
◆◇◆◇◆◇◆◇
[4]リオン
ジークさん本当にいい人ですよね!
実は僕もジークさんに色々と教えてもらったんです!
[5]カイト
おっ! お前もか!
だよな~。おかげでもうこのゲームのことはバッチリだぜ!
[6]リオン
ですね! 初心者の人はぜひジークさんに聞いてみてください!
[7]リシュー
へえ、あのおっさん、そんなに優しいんだ。
じゃあ、今度俺も話しかけてみようかな。
・
・
・
[59]キング
おい、ここに書かれてたジークってやつ、昨日エレナの放送に出てたぞ。
[60]シゲ
見た見た! なんか視聴者にもすげー色々と教えてくれたわ。
[61]ガブりん
マジ? 後でアーカイブ見てみよ。
・
・
・
[368]リリィ
ここの書き込み見て、さっきジークさんに話しかけたら、本当に優しくレクチャーしてくれました!
ジークさんのこと教えてくれてありがとうございます!
[369]ミカっち
ありがとうございましたー!
皆さんも何かわからないことあったら、ジークさんに聞いてみるといいですよ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なんじゃこりゃ……」
勇は驚愕した。
ただリア充を狩ろうとしていただけなのに、なぜこんな事態になっているのか。
木々が生い茂る森の中、勇は一人頭を抱えるのだった。
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