第5話 チャラいカップル
【始まりの街】に戻ってきた勇はターゲットを探す前に、集まった金で買い物をすることにした。
現在の持ち金は1150ガルド。
ガルドとはこのゲームにおける通貨単位である。
内1000ガルドはゲームスタート時から保有しているため、差額の150ガルドがモンスターを討伐して稼いだ額だ。
勇は自分と同じように、良いスタートダッシュを切ったプレイヤーから
『らっしゃい。ここは防具の店だよ』
中に入ると、商人風の男が棒読みで声を掛けてくる。
彼はNPCだ。何を話しかけても同じことしか口にしない。
そんなNPCには目もくれず、勇は迷うことなく鉄でできた鎧に触れた。
『鉄の鎧だね。そいつは1100ガルドだ。買うかい?』
<【鉄の鎧】を購入しますか?>
勇は現れたパネルにて即座に『はい』と選択すると、チャリンという音が頭に響いた。
その後、メニューウインドウから【アイテム一覧】のページを開き、購入した鉄の鎧を装備。
瞬時に身体が鉄のプレートに包まれた。
鎧を着込み、右手には剣。
普段は冴えないおじさんだが、今はいっぱしの剣士だ。
あいにく、ベータ版で
というか、大金を支払ったのだから免れてくれないと困る。
『どうもありがとう。また来てくれよな』
NPCの言葉を背に勇は店を出て、今度は道具屋へと足を運んだ。
そこでHPを回復する【ライフポーション】をいくつか購入。
(これで万が一いきなり襲われたとしても、今の状態なら何とかなるだろ)
「――よっこいしょっと」
勇は【始まりの街】の中央に移動し、噴水周りに設置されたベンチに腰を掛けた。
目を配らせて手頃な獲物を物色していると、早速丁度よさそうなターゲットを見つける。
視線の先に居たのは、20代前半くらいのおしとやかな女性。
さっきから同じところで留まっており、誰かが来るのを待っているように見える。
どうせ待っているのは彼氏かそこらで、それはさぞかしイチャイチャしながらプレイするのだろう。
そう勝手に思い込み、実にけしからんと感じた勇は彼女をターゲットに定めた。
現実世界では到底若い女性に声は掛けられないが、ここはゲームの中。
その上、今の装備なら警戒されることもないだろう。
ベンチから立ち上がった勇は大きく深呼吸をして、ゆっくりとその女性のほうへ歩き出した。
「――さん! なあ、おっさん!」
直後、後ろから男の声が聞こえてくる。
「ん?」
もしや自分に話し掛けているのか。そう感じた勇は何気なく振り返る。
(げっ!)
そこには勇が最も苦手としているタイプの男女が立っていた。
男のほうは金色の髪を長く伸ばした、繁華街でよく見かけるホストのような
一方、女のほうも同じく金髪。毛先が巻かれており、こちらはキャバ嬢のような外見だった。
「あのさ、その見た目からして、おっさん絶対ゲーム上手いっしょ? よかったら俺達に色々教えてくんね?」
「あたし達VRMMOって初めてでぇ。だから何もわかんなくって。おねがぁい!」
驚くことに、そのチャラいカップルは教えを
(な、なんで俺が……)
しかし、当然勇は乗り気ではない。
こういったリア充達を狩るためにプレイしていると言うのに、なぜその相手にわざわざゲームのことを教えてやらねばならないのか。
そんな考えから刺激しないよう、できるだけ丁重に断ろうとした瞬間――
(いや、待てよ。これはチャンスじゃないか?)
勇は
聞く限り、この二人はVRMMO初心者。それに丁度、防具も新調したところだ。
今ならこのカップルを一方的に狩れる。
勇は彼らの頼みを聞いた振りをし、【駆け出しの森】へ連れ出すことでキルしてやろうと考えた。
「し、仕方ないなあ。いいよ」
「マジ!? おっさん話わかるじゃん!」
「ちょー助かるんだけど! おっさんマジ
「あはは……。じゃあ色々教えるから、その、ついてきてもらえるかな?」
勇は顔を引き
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