第3話 最初のターゲット

 効率よくレベルを8まで上げたところで、いさむは【始まりの街】に戻ってきた。

 すると、街は2時間前とは打って変わって多くのプレイヤーで賑わっていた。


 案の定、そのほとんどが若い美男美女だ。

 自分のような冴えない中年の男は数えるほどしかおらず、居ても小さな子供を横に連れている。

 恐らく親子でプレイしているのだろう。


 前まではそんな彼らを見るたびに悪態を吐いていた勇だが、今日はニヤニヤと薄気味悪い表情を浮かべている。

 それもそのはず、今からそのリア充達に一泡吹かせられるのだ。

 胸がおどって仕方がない。


 勇はその餌食となるターゲットを見定めるべく、街の中央の広場に移動してから、噴水周りに設置されたベンチに腰を下ろした。


(さて、どいつをやるか)


 キョロキョロと視線を動かしながら、手頃なプレイヤーを探す。


 二人組みはなしだ。

 もし彼らがVRMMO経験者だった場合、最悪負ける可能性がある。

 

 ヤンキーのような見た目の輩もダメだ。単純に怖い。


 せかせかと動き回っている男も除外。

 相手にしてもらえないだろう。


 故に勇の狙いは一人でちんたらと歩いており、その上で気が弱そうなプレイヤーだ。


(おっ!)


 その条件に当てはまるターゲットはすぐに見つかった。


 恐らく高校生くらいの男の子。

 地味ではないがどこか真面目そうな、いわゆる優等生君タイプ。


 きっと彼はそこそこの大学に入学し、それなりの会社に就職。やがてまあまあ美人な女性と結婚し、幸せな家庭を築くのだろう。

 そこまで勝手に妄想した勇は、彼を一方的に敵と認識した。


 その上、初めて都会に出てきた田舎育ちのように、辺りをキョロキョロと見渡している。

 あの反応からして恐らくVRMMO自体、初めて触れたのだろう。


 勇は彼を最初のターゲットに選び、ゆっくりと近づいていった。


「ね、ねえ君。もしかしてVRMMOって、は、初めて?」


 高校生ほどの男子に挙動不審になりながら声を掛ける、中肉中背の冴えないおじさん。

 もはや不審者も同然だが、その男の子は嫌な顔一つすることなく、明るい表情で応じた。


「あ、はい! そうなんです」

「そ、そっか。あのさ、よかったらなんだけど……」

「はい?」

「俺が色々と教えてあげようか? 実はβテストの経験者でさ!」

「え、いいんですか? でもどうして僕を?」


 その男の子は当然の疑問を投げかけてくる。


「ほ、ほら! 初めてだったら何をしていいかわからないでしょ? 俺も初めてVRMMOをプレイした時、詳しい人に色々と親切にしてもらったからさ。そ、そんな感じで……」


 対し、勇は急に早口になってそれらしいことをまくし立てる。


 この上なく不気味で怪しいが、その少年には優しい人に映ったのだろう。


「そういうことなら、ぜひお願いします! 実は何をしていいかさっぱりで困ってたので」


 頭を軽く下げながらそう答えた。


「よ、よかった! 俺はジーク。えっと、君は?」

「僕はリオンです!」

「リオン君だね、よ、よろしく。じゃあ色々教えるからついて来てくれる?」

「よろしくお願いします! はい、わかりました!」


(しめしめ。騙されてるとも知らずに)


 上手く釣れたことで勇は内心ほくそ笑みながら、【駆け出しの森】に繋がる転移の魔法陣を目指して歩みを進めた。



 その道中――


「あのさ、リオン君は一人なの?」

「はい。友達と一緒にやる予定だったんですけど、熱出しちゃったみたいで。仕方なく一人で先に始めたんですよ」

「そ、そっか。それは残念だね」


(けっ、何が『友達と一緒に』だよ。……まあいいや。今から地獄を見せてやる)

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