ゲームをクリアしたら女神から合格と言われた話
水島紗鳥@2作品商業化決定
ゲームをクリアしたら女神から合格と言われた話
VR技術が発展した事により、様々な技術が暮らしの中にも浸透して来た。
フルダイブ型のゲームもその一つで、現在世界的に大流行し、多くの人々を熱中させている。
そんな中、VRMMORPG最新作”女神の試練2”のサービスが開始された。
このゲームは惜しまれながらもサービスが終了した大人気RPG”女神の試練”の続編であり、βテストでの評判も非常に良く、多くのゲーマーがサービスの開始を心待ちにしていたのだ。
しかし、サービス開始初日の1時間でプレイ不可能となり、世間を震撼させる大事件を引き起こす。
それはゲームのコントロールを何者かに乗っ取られた事でログアウト不能となり、プレイヤーを世界に閉じ込めてしまうというものだった。
サービス開始が平日の昼間であり被害者の数が休日だった場合と比べてまだ少なくなった事が不幸中の幸いと言えるが、それでも決して少なくない数の人々が囚われている。
犯人と思わしき人物からは、このゲームがクリアされるまでプレイヤー達は解放されないとの声明が出されてはいたものの身代金の請求などは一切無く、目的が全く分からない状況だった。
当然運営会社をはじめとした専門家達はプレイヤー達を救出するためにコントロールを奪い返そうと奮闘するが、謎の力に阻まれた事で解決には繋がらず、プレイヤー達が自力でクリアして脱出するのを待つしか無い状況となっている。
そして現在サービス開始の初日から2年近くの月日が経過していた。
魔王の間と思わしき場所に4人のプレイヤーが立っており、先頭に立っていた大剣を構えた戦士風の男、Ashが口を開く。
「ついに倒したぞ!」
「……ええ、本当に長かったわね!」
魔法使い風のローブを身に付けた女、
4人のパーティーは激闘の末、このゲームの最終ボスである魔王の討伐に成功していた。
ログアウト不能になったこのゲームは死んでも協会で蘇る事が出来たものの、βテストには実装されていなかった要素として痛覚が実装されていたのだ。
そのため最初はゲーム攻略に乗り気だったプレイヤー達も次々と脱落していき、攻略はかなり難航させられていた。
また”女神の試練2”というゲームにはレベルという概念が一切存在しておらず、純粋なプレイヤースキルのみを磨いて敵を倒す必要があった事に加え、呪文も長いスペルを暗記しなければ発動できないという難易度の高さも脱落者を生む大きな要因と言えただろう。
そのためクリアするまでに年単位の時間を必要となり、複数のパーティーが幾度となく全滅させられていたが、ついにゲームはクリアされたのだ。
「やっと家に帰れる、戻ったらまずは寿司とかハンバーガーを食べたいぜ」
狩人風の格好をして弓を持った男、ジンは明るく口を開いた。
このゲームは中世ヨーロッパ風の世界をベースとしているため、当然日本食やファストフードなどは存在しておらず、プレイヤー達はそれらの味に飢えていたようだ。
「多分現実世界の体は病院のベッドに固定されて点滴生活になっているだろうし、まずはリハビリに励まないとね!」
回復術師のような見た目をした眼鏡の女、ゆきにゃんが冷静にそうツッコミを入れると笑いが巻き起こった。
「ところで俺達はいつログアウトされるんだ?見た感じメニュー画面にもログアウトボタンは出て来てないし……」
さっきまでハイテンションだったジンが突然そんな事を口にすると他のメンバーからも疑問の声が上がり始める。
「確かに妙だよな、魔王を倒してから時間もそこそこ経ってるはずなのに何も起こらないな」
「うーん、何か他に条件があるのかしら。大昔にやったRPGゲームだと魔王の討伐を王様に報告してたような気もするけれど……」
Ashと楓は口々にそう声をあげるが、謎は深まるばかりだ。
全員がそれぞれ解決策を考えていると、突然魔王が座っていた玉座が光り始めた。
「なんだ!?」
その様子に気づいたジンが声をあげると、全員の視線が一斉に玉座へと集中する。
光が収まるとそこには女神のような姿をした女性が腰掛けて座っていた。
「まずはゲームクリアおめでとう……と言うべきかしらね。あなた達は合格よ!」
足を組んで座っている女神がそう発言するのを聞いて、最初は魔王を討伐する事で出現するNPCだと全員が考えていた、だがすぐに違うと認識する事になる。
「合格、一体どういう意味だ……?」
「焦らないでAsh、今からそれを説明してあげるから」
なんと女神はAshが不思議そうな顔で呟いた言葉に対して返答をしてきたのだ。
このゲームのNPCはプログラミングされた言葉を繰り返すだけで会話する事はできず、プレイヤーの名前を呼ぶ事も当然あり得ない。
「なっ……NPCじゃないのか!?」
「あんな人形と一緒にしないで貰いたいわね」
Ashと女神の間には明らかに会話が成立しており、NPCでは無い事は一目瞭然だが、ここで新たな疑問が生まれてくる。
それはこの目の前で座っている女神が一体何者なのかという事だ。
魔王の間に転移する手段は無いためプレイヤーでない事は確定しており、そんな真似ができそうなGMもゲームが乗っ取られた際に締め出されている事を考えるとそれも違うだろう。
「……じゃあ、あなたは一体誰なんですか?」
楓が恐る恐る尋ねると女神は微笑んだような表情で答える。
「私の名前はアイリス。こことは別の世界を管理する女神よ!」
その突拍子もない発言をAsh達4人は誰一人理解する事ができない。
「……えっと、突然私は神ですって言われても意味が全然分からないんだけど、あんたは一体何を言っているんだ?」
「分からないって言われてもその通りとしか言いようが無いわ。ちなみにこのゲームを乗っ取って貴方達プレイヤーをこの世界に閉じ込めたのは全部私の仕業よ」
困り顔をしてそう発言したジンに対してアイリスはそう返答した。
「なんだと、お前が犯人か。俺達を2年近くもゲームの中に閉じ込めて何がしたかったんだよ!」
その返答を聞いたジンは怒声を浴びせながらアイリスに詰め寄る。
女神という事に関しては正直信じていないようだが、魔王の間に転移できるような普通のプレイヤーには無い権限を持っている事から、今回の犯人であるとは信じたらしい。
だが詰め寄ったジンはアイリスによって弾き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまう。
「そう怒らないで貰えるかしら、言われなくても今から理由を説明してあげるわ。このゲームを乗っ取った理由、それは私の世界で暴れている魔王を倒すためよ!」
その言葉に全員が理解できないと言いたげな表情をしているが、アイリスはそのまま話を続ける。
「今までも何度か女神の権限で与えたチート能力を持たせた異世界人達を私の世界に送り込んではいたけれど、毎回失敗していたのよ。後で理由を調べてみたら失敗の原因は単純な話で、彼らの能力不足が大きな原因だったわ……」
「もし仮にその話が本当だとして、私達をゲームの中に閉じ込めた事とその話に何の関係があるの?」
ゆきにゃんは今の話を聞いて浮かんできた疑問をアイリスにぶつけた。
するとアイリスはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で口を開く。
「つまり、初めから魔王を倒せそうな素質を持った異世界人をスカウトすれば解決すると考えたのよ。このゲームを乗っ取ったのは有用そうな人材を効率よく見つけるための大規模な選考のためだったの!」
「大規模な選考だと……?」
「コミュニケーション能力ゼロで誰とも会話できずに仲間ができなかったり、そもそもモンスターとまともに戦えなかったり、いきなり王様に対して無礼を働いて国を敵に回したりと、今まで召喚した勇者達は本当に酷かった。無能にチート能力を与えても宝の持ち腐れにしかならないと分かったから、今回からはちゃんと選考する事にしたの。この”女神の試練2”というゲームはまさにうってつけだったわ」
ここまでの話を聞いて何かに気づいた楓が言葉を漏らす。
「って事は、最初に言っていた合格って言うのは……」
「そうよ、貴方達なら私の世界を救う勇者になれる資格があると判断したから合格と言ったの。光栄に思いなさい!」
アイリスは目の前に立つ4人に対して、笑顔でそう言い放った。
「待て、俺達はまだ納得なんてしてないぞ。ゲームをクリアしたんだから今すぐ解放しろ!」
「残念ながら貴方達に拒否権は無いわ、心配しなくても魔王を倒せば今度こそ元の世界に戻してあげるから」
Ashが抗議の声をあげるがアイリスは一切聞く耳を持っていないらしく、一方的にそう告げた。
「善は急げという事で、早速貴方達には私の世界に来てもらおうかしら。与えるチート能力に関してはこれからゆっくり決めましょう!」
ようやく現実世界に帰れると思っていた4人は全く納得していないような表情をして武器を構えており一触即発な状況となっていたが、アイリスがパチンと指を鳴らした瞬間、全員の姿がこの場から消滅する。
こうして世間を浸透させた”女神の試練2”ログアウト不可能事件は2年近くの月日を経てゲームがクリアされた事で一応の解決を見せたが、結局犯人やその目的の全てが不明だった事と、突然病室から煙のように消えて失踪した4人のプレイヤーがいるという事で、結局謎は多く残されたままだった。
ゲームをクリアしたら女神から合格と言われた話 水島紗鳥@2作品商業化決定 @Ash3104
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