第9話 見た目だけギャルなんて偽物だ
「死にたい」
俺は部屋に入るなり、まるで少女マンガのヒロインのようにベッドに突っ伏してそう呟く。
あれから花音は俺の事をドン引きしたような目で見たあと、「アタシ今から新しいバイトだから〜。じゃね〜」って言って家を出ていった。
「ぬォォォ……。家族に知られたのは痛い。痛すぎる。いや、同じ高校だから知られるのはしょうがないのはわかる。だけどアイツ、まさか母さんには言ってないだろうな? いや、それは無いか。母さんは今日はパートが遅番だって言ってたからな」
それにきっと、多分、おそらく花音は言わないと思うんだよな。まだどことなく俺の母さんとは少し距離がある感じだし。まぁ、それは俺も一緒か。
俺の母さんと花音の父さんが再婚してから二年経つけど、新しい父さんは漁師をやってるせいか滅多に家に帰ってこないからな。そんなにコミニュケーションが取れていないのが実情だ。あとは相手が無口なのもある。それでどうやって母さんを口説き落としたのかきになるところではあるけど、大人の話に子供がはいるもんじゃないしな。
それよりも今日の事を聞いた花音が俺にどんな要求をしてくるのかが心配でしょうがない。それは何故か。
答えは簡単。花音はギャルだからだ。そこらのラノベヒロインのギャルみたいに、見た目だけギャルで中身は清楚で真面目な可愛い子なんかじゃない。アイツらは偽物だ。
花音なんか家族になってから何度彼氏が変わったのかすら俺にはわからない。髪は金髪、目はカラコンで青く、化粧も派手で一緒に暮らしているのに今まですっぴんを見たことすらないんだからな。行動も突飛でまったく予想もつかない。だから怖い。ひぃ〜!
と、そこで下から車のドアが閉める音。パートの終わった母さんが帰ってきたみたいだ。
「おかえり」
俺は一階に降りて声をかける。
「ただいまぁ〜。ふぅ、今日は忙しくて疲れちゃった。花音ちゃんは?」
「あぁ、花音は今日から新しいバイトだってよ」
「前に保護者承諾書書いたけど、今日からだったのね。あ、お腹空いたでしょ? 今から作るから待ってて」
「おっけ。今日はなに?」
「今日はキムチ鍋にするつも……あぁっ!」
「な、なんだいきなり!?」
母さんはいきなり大声を出したかと思うと買い物袋の中を漁り始めた。そしてその手が止まったかと思うとゆっくりと顔を上げて俺を見る。
「ねぇ紘斗? お母さんお願いがあるんだけど〜?」
「……何を買い忘れた?」
「さっすが紘斗! 話が早い! あのね? キムチ鍋なんだけど白菜買うの忘れちゃったからちょっとおつかいいってくれない? その間に色々準備しておくから。ね?」
「はぁ……分かったよ。じゃあはい、金」
俺が手を出すとその上にポンと千円札を置く母さん。よしっ!
「んじゃ行ってくるわ。もちろんお釣りは貰っていいんだろ?」
「ちゃっかりしてるわね〜。はいはい。お釣りは上げるからなるべく早くね」
「了解」
俺はすぐに家を出るとバイクで近場のスーパーに向かう。頼まれた白菜と、残った金でジュースとお菓子を買って駐輪場に来た時だ。耳鳴りの様な音が聞こえると、走っていた車や歩いてる人の動きが止まった。
「おいおい……まさかコレ……」
俺がそう呟いた時だ。
『ダァ〜ミィ〜ン』
と、眠魔の声が聞こえた。それと同時に俺の目の前に黒いモヤが現れると、動きを止めた人達の頭に細い腕の様な物を伸ばして何かしていた。
そして体を俺の方に向けるとこっちに向かってその腕を伸ばしてくる。
「ヤッべ! つーか嘘だろおい! なんでこんなに頻繁に遭遇するんだよ。俺、魔法少女じゃないんだけど!? 望月早く来てくれ!」
叫んだけどそう都合よく来てくれる訳もなく、ただひたすらに逃げるだけ。スーパーの裏に回って非常階段を上がり、屋上駐車場に行ったところでモヤは俺の事を見失ったらしく、車の影に隠れて乱れた息を整えていると、さっきまで俺がいた場所から声がした。
「はぁ〜マジだるい。けど時給イイからやることはやらないとね〜。ってなわけで……えっとなんだっけ? あぁメンマだメンマ。ちょっとアタシに倒されてくんない? ってもあんたら喋れないんだっけ? とりま必殺技的なのイッちゃうけどマジごめ〜ん」
一瞬望月かと思ったけど違う声。そしてそこにいたのは、黒いゴスロリ服を着て、頭にはヘッドドレスをつけた金髪碧眼の──
「か……花音?」
「ラヴィアスカノンフルアームズ。マルチロック……フルシュート。どっか〜ん」
俺のその小さな呟きは、花音の両肩と両腰に現れた四門のバズーカみたいなものから発せられた轟音でかき消された。
「んぁ〜終わった終わった。早く帰ってロリコン義弟を弄りまくろっと」
そう言って変身を解いた姿は家を出た時の花音と同じ服装。
……いや、嘘だろ? 花音も魔法少女なのかよ
魔法少女がカノジョになるってよ。マジで? あゆう @kujiayuu
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