第8話 義姉ちゃん

 しばらく走り続けてあまり人の来ない公園まで行き、女子トイレに向かって望月を放り投げた。



「きゃっ! いったぁ〜い! おしりぃ〜! 何するのよバカっ!」



 俺はそう叫ぶ望月を無視してベンチに座り、項垂れる。お前の尻なんか知らんわ。それよりも俺の心が痛いわまじで。あ〜やっちまった。これは完全にやらかした。今頃学校では俺のことを妹にコスプレさせる痛い兄って認識が広まってるかもしれん。だけどあの方法以外にあそこから上手く逃げる手段が思い浮かばなかったんだよなぁ。



「えっと……その、ありがとう……。さっきはバカって言ってゴメンなさい。助けてくれたのに」



 元のJKバージョンに戻った望月が申し訳なさそうに声をかけてくるけど、俺はそれどころじゃない。何故ならたった今、清隆から衝撃的なルインが届いたからだ。



『ヒロって妹いないよね? 義理のお姉さんしかいないよね? あ、もしかして彼女? まさかロリ属性だったなんて、付き合いの長い僕でも知らなかったよ。応援してるね。そうそう! もう結構噂になってるよ』


 アホかぁぁぁぁ! んなわけあるかよ! ロリは愛でるものであって手を出すもんじゃねぇんだよ。そして噂広まるのはえぇよ。



「あー! 明日学校いきたくねぇぇぇぇぇ!!!」

「っ! ……ご、ごめんなさい……」



 あ、やべ。望月のことビクつかせちまった。



「いや、いいよ。俺が自分でやったことだからな。とりあえず今日は帰るわ。望月も気をつけてな」

「ま、待って! その……お礼したいんだけど……」

「あー、そういうのいいから。とりあえず今度からは気を付けてくれ。んじゃ」



 今はとりあえず明日学校行った時にどう言い訳するかを考えないとな。どうにかしてシスコンコスプレ疑惑を消さないとダメだ。だって俺には妹なんていないんだからな!



「あ、うん……。それじゃ……」

「おう」



 俺は公園を出て家に向かう。歩きながら必死に言い訳を考えるけど何も思いつかない。なんてったって数人の誤解を解くんじゃなくて、学校中に広まった噂を消すほどの理由を考えないといけない。

 ……いや、無理じゃね? 絶対無理じゃん。よし諦めた。なんか言ってくる奴がいたら無視しよう。しつこい奴は殴ろう。はい解決〜!

 そうと決まれば帰ってお菓子食ってゲームしよう。あ〜スッキリスッキリ♪



「ただいま〜」

「あ、おかーり。ちょっとアタシのクラスまで聞こえてきたんだけど、あんたロリコンなんだっしょ? アタシ、義理とは言えお姉ちゃんだからちょっとハズいんだけど?」

「…………」



 そうだった。三年にはこいつが。俺の義理の姉である真鍋花音まなべかのんがいたんだった……。


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