第7話 自己犠牲

 それにしても凄いな。魔法少女ってくらいだから魔法を使ってもおかしくはないけど、まるで漫画とかによくある結界とかみたいだな。うん、びっくりだ。びっくりしすぎて逆に冷静になるってこういう事なんだな……って結界!? ちょっと待てよ? こんなところで結界的なものを作るってことは……っ!



「おい! そんなことよりその存在固定したってことは、ここに眠魔って奴が出るのか!?」



 アニメとかだとここで敵が出てきて巻き込まれるパターンだろ!? そんなの俺は嫌だぞ! あれは創作物を見てるからいいんだ! 当事者なんて勘弁してくれ!



「確かにそうよ! 存在固定は戦う時に正体がバレない為に使うものなの。それを使ったってことはここに眠魔が出たってことよね……どこ!? どこに出たの!?」

「…………な……出……ニャ」

「え? なんて言ったの?」

「眠魔なんて出てないニャ……」

「……どういうこと?」

「私ちゃんは昨日魔法少女になったばかりニャ。ちょっと魔法を使ってみたかっただけニャ。そういう訳で……さらばニャ!」

「「あっ……」」



 猫耳っ子はそう言って窓から外に飛び出す。俺と望月はすぐに追いかけて窓際に寄るが、相手の姿はどこにも見えない。



「いったいなんだったの……」

「さぁ?」

「さぁって……。それにしても、私以外にも魔法少女がいたなんて……」

「それなー」

「ねぇ、さっきの子なんて言ってたの?」



 隣に立つ魔法少女版望月が何やらムスッとした顔でそんな事を聞いてくる。可愛い。俺は何もなんも悪いことしてないのに。可愛い。



「ん? あぁ、なんかいきなり魔法少女を知ってるかわ聞かれたんだよ。俺が知らないって答えたらすぐにどこかに行こうとしたんだけど、その直後にお前が俺の名前呼びながら飛んでくるもんだから台無しだ」

「うぅ……。だってそんな事を話してるなんて知らなかったんだもん。真鍋くんが危ないと思って必死だったんだもん……」



 あ、そうか。正義の味方なんだもんな。そりゃ必死になるか。



「そっか。ありがとな」

「〜〜っ! べ、別にお礼とかいらないし! これは私の責務だし!」

「わかってるわかってる」

「むぅぅぅ〜! ってあれ? 存在固定魔法が解除されたみたい」

「それってわかるもんなのか?」

「うん。上手くは言えないんだけど、感覚でわかるの」

「ほぉ〜ん」



 俺にはよくわからんな。

 けどまぁいいや。帰ろ帰ろ。その固定なんちゃらが解除されたんなら他の生徒も動き出すだろうし、下駄箱の所が混む前に──ん? ? 待て待て待て! それやばいだろ!


 生徒が動き出すってことはつまり、帰る為に廊下に出てくるって事。だから望月がその姿を見られるってことを言おうとして視線を向けると、そこには顔を真っ赤にしてプルプル震える望月と、その望月の姿を見て固まる教室から出てきた生徒達。

 その生徒の一人が「おい、あれ……」って言いながらこっちを指さす。それを皮切りにザワつきは少しずつ拡がっていく。


 望月のアホー! マヌケー! なんで変身解除してないんだよ! って自分で言ってたじゃん! あ、なんか泣きそうになってるし。


 え? えっ!? これヤバくね? どうする? ……あ、そうだ! っていやいやいや、それはさすがに……。


 俺はこの場をなんとかする方法が一瞬思い浮かぶ。だけどその行動に移るのに躊躇する。

 これは下手したら俺の沽券に関わる。だけど……


 その時、震えながら俺の袖を掴む望月の小さな手。俺はその震えてる手を握った。



「え?」



 そして──



「コイツは……お、俺の妹だぁぁぁ!!」



 こっちを見てる奴ら全員に聞こえるような声でそう言い放つと、望月をお姫様抱っこすると下駄箱にダッシュ。急いで靴を履き替えて外へと駆け出した。



「あ〜! 妹は可愛いなぁ! そんな可愛い格好でお迎え来てくれるなんてお兄ちゃんは嬉しいなぁ〜!!!」



 そう叫びながら。

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